東巻ワンライ企画 連続でしたので休日ですし、本日も挑戦です テーマ「すれ違い」 ************************ 東堂尽八と、巻島裕介は他者から 『お前ら仲がいいの通り越してる』だの、『ストーカー対策した方がいいんじゃないか』『いやいや、絶対できてるって』 と揶揄されるほどのつきあいで、周囲が呆れるほどの連絡具合だったが、実際はただの清い友人だった。 いや正確には、清くないのだ。 なぜなら東堂は巻島に対し、最近恋情を自覚したからだ。 悪友とも呼べる、気が置けない友人たちと出かけるのは楽しいのだが、そんな折ふと思うのが、(これを巻ちゃんと見たかった)という事だったり、 オーガニックフードのお店を見つけたら、(今度、巻ちゃんを案内してあげたい)などと、思う回数が増え、友人と居るときと、巻島といる時では 目線が違うと気が付いてしまったのがきっかけだ。 ちなみに、一般的男子高生の外出で、オーガニックフードなんて選択肢はあるはずはなく、その日は休日も実施している、 焼肉食べ放題ランチ一択だったのはいうまでもない。 荒北が焼き網を半分の位置で分け、こっち側で焼いた肉を取ったらコロスと、新開に告げたのは、冗談の目つきではなかった。 「ああ なげかわしいな 巻ちゃんの品性をお前らにも分けて上げたいぞ!」 巻ちゃんとだったら今頃、夏野菜のグリルでも、優雅にナイフとフォークで食べていると告げれば、じゃあ品性ねぇオレが、肉強奪してやんよと 東堂が焼いていた肉を奪う。 「貴様!それはオレが丁寧にひっくり返して!」 「尽八 オレはこっちもらうな」 「新開てめェ……網のこちら側に手を出したな……」 「おまえたち…食べ放題なんだから、好きに焼けばいいだろう」 「焼いたら焼いただけ食っちまうのが、こいつだろうが!」 「……巻ちゃんとの、会話を楽しめる 落ち着いた食事が慕わしいな…」 という出来事が、恋の自覚のきっかけになるなど、我ながら訳がわからないと、東堂は今でも思う。 巻島も、自分を嫌いなはずはない。 クライムレースでつるむようになってから、自分以外とも幾らか話すようにはなったらしいが、それも話しかけられたら返すというレベルだ。 ……む……思い返してみると……自分もそのような……という考えが浮かんだが、すぐに消した。 とにかく、巻島と一番話しているのは自分なのだから。 巻島が好きそうな店があったから、今度スケジュール調整があえば、行ってみないかとの誘いをかけ、OKを貰った後は雑談タイムだ。 もちろん、東堂にとって巻島との会話に【雑談】というジャンルはなく、【すべてが尊い珠玉のような会話】だが、それはさておく。 そんな折に巻島が、尋ねてきたのは『東堂は人気あるみてェだが、どんな子がタイプっショ?』という質問だった。 ――これはチャンスだ。 オレがタイプを告げる→巻ちゃんは『それって…オレ…?』トゥンク…→「そうだよ巻ちゃん オレの好きなのは巻ちゃんだ!」 なんてめでたいハッピーエンドだ! オレの思いを察した山神が、そのための道筋を用意してくれたに違いない!! 感謝せずにおれんよ、巻ちゃんとの出会い、そして運命をともにする道のりを!!ありがとう山神、おめでとうオレ!!! 「オ…オレはだな、その…ちょっとひっこみ思案な子がいいかな!」 『ああ、お前うるさいもんな オレも喋らない分、反対の方がいいかも』 「うるさくはないな!」 ……どうやら遠回り過ぎたらしい、巻ちゃんに伝わっていないようだ。 「それから、長い髪の毛で」 『…お前昔、短い髪が好きって言ってなかったかァ? 黒髪ストレートとかオレとそこは同じだったッショ』 ――気づけよ!!巻ちゃんが髪を伸ばしたから変わったんだよ!!! 「ナイフやフォークで上品に食事を食べるのもいいな」 『ああ、オレも箸使いの綺麗なヤツは好きっショ』 ――だから!!気づいてよ巻ちゃん!!!!お 前 だ !! 「ちょっと自分に自信がなくて、たまにウジウジしてるような所も好きだ!!」 『………東堂、趣味悪ぃのな…… オレなら楽天的なぐらい前向きな方がいいショ』 ――気 づ け !!!!巻島裕介、お 前 だ !!!!! 『あ、明日 朝練早いから切るぞ おやすみ』 東堂が懸命に念を送るが、どうやらそれは届かなかったらしい。 そっけない挨拶と共に、ツッと短く回線が断たれる音がして、通話は切れた。 「巻ちゃんのばかぁぁぁぁ!鈍い、鈍すぎるぞ!!! 大好きだっ!!」 「ウルッセェェェェェェェェ!!!」 壁越しに怒鳴られた荒北の声も、ものともせず東堂は次回、いかに巻島にこの気持ちをアピールすべきかを計画していた。 しかし、東堂は知らない。 「…ハァ やっぱり伝わらなかったショ……」 東堂の好みに対して、さりげなく自分の趣味を伝えて、『東堂が巻島の好みのタイプである』と悟らせようと、巻島裕介も図っていたのだ。 お喋りで、黒髪ストレートで、箸使いが上手で前向きなんて…東堂尽八ぐらいに決まっている。 「東堂…鈍すぎるっショ… ばーか」 おそらくこのすれ違いを、第三者が見たらこういうに違いない。 「砂糖を吐きそうなほど、甘いやりとりだ」と。 『お前ら仲がいいの通り越してる』と噂される当人たちは、相変わらずに自覚がなかった。 |