【東巻】相互負理解


東巻ワンライ企画 連続でしたので休日ですし、本日も挑戦です 
テーマ「すれ違い」 
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東堂尽八と、巻島裕介は他者から
『お前ら仲がいいの通り越してる』だの、『ストーカー対策した方がいいんじゃないか』『いやいや、絶対できてるって』
と揶揄されるほどのつきあいで、周囲が呆れるほどの連絡具合だったが、実際はただの清い友人だった。

いや正確には、清くないのだ。

なぜなら東堂は巻島に対し、最近恋情を自覚したからだ。

悪友とも呼べる、気が置けない友人たちと出かけるのは楽しいのだが、そんな折ふと思うのが、(これを巻ちゃんと見たかった)という事だったり、
オーガニックフードのお店を見つけたら、(今度、巻ちゃんを案内してあげたい)などと、思う回数が増え、友人と居るときと、巻島といる時では
目線が違うと気が付いてしまったのがきっかけだ。

ちなみに、一般的男子高生の外出で、オーガニックフードなんて選択肢はあるはずはなく、その日は休日も実施している、
焼肉食べ放題ランチ一択だったのはいうまでもない。
荒北が焼き網を半分の位置で分け、こっち側で焼いた肉を取ったらコロスと、新開に告げたのは、冗談の目つきではなかった。

「ああ なげかわしいな 巻ちゃんの品性をお前らにも分けて上げたいぞ!」
巻ちゃんとだったら今頃、夏野菜のグリルでも、優雅にナイフとフォークで食べていると告げれば、じゃあ品性ねぇオレが、肉強奪してやんよと
東堂が焼いていた肉を奪う。

「貴様!それはオレが丁寧にひっくり返して!」
「尽八 オレはこっちもらうな」
「新開てめェ……網のこちら側に手を出したな……」
「おまえたち…食べ放題なんだから、好きに焼けばいいだろう」
「焼いたら焼いただけ食っちまうのが、こいつだろうが!」
「……巻ちゃんとの、会話を楽しめる 落ち着いた食事が慕わしいな…」

という出来事が、恋の自覚のきっかけになるなど、我ながら訳がわからないと、東堂は今でも思う。

巻島も、自分を嫌いなはずはない。
クライムレースでつるむようになってから、自分以外とも幾らか話すようにはなったらしいが、それも話しかけられたら返すというレベルだ。
……む……思い返してみると……自分もそのような……という考えが浮かんだが、すぐに消した。
とにかく、巻島と一番話しているのは自分なのだから。

巻島が好きそうな店があったから、今度スケジュール調整があえば、行ってみないかとの誘いをかけ、OKを貰った後は雑談タイムだ。

もちろん、東堂にとって巻島との会話に【雑談】というジャンルはなく、【すべてが尊い珠玉のような会話】だが、それはさておく。
そんな折に巻島が、尋ねてきたのは『東堂は人気あるみてェだが、どんな子がタイプっショ?』という質問だった。

――これはチャンスだ。

オレがタイプを告げる→巻ちゃんは『それって…オレ…?』トゥンク…→「そうだよ巻ちゃん オレの好きなのは巻ちゃんだ!」
なんてめでたいハッピーエンドだ!
オレの思いを察した山神が、そのための道筋を用意してくれたに違いない!!
感謝せずにおれんよ、巻ちゃんとの出会い、そして運命をともにする道のりを!!ありがとう山神、おめでとうオレ!!!

「オ…オレはだな、その…ちょっとひっこみ思案な子がいいかな!」
『ああ、お前うるさいもんな オレも喋らない分、反対の方がいいかも』
「うるさくはないな!」
……どうやら遠回り過ぎたらしい、巻ちゃんに伝わっていないようだ。

「それから、長い髪の毛で」
『…お前昔、短い髪が好きって言ってなかったかァ? 黒髪ストレートとかオレとそこは同じだったッショ』
――気づけよ!!巻ちゃんが髪を伸ばしたから変わったんだよ!!!

「ナイフやフォークで上品に食事を食べるのもいいな」
『ああ、オレも箸使いの綺麗なヤツは好きっショ』
――だから!!気づいてよ巻ちゃん!!!!お 前 だ !!

「ちょっと自分に自信がなくて、たまにウジウジしてるような所も好きだ!!」
『………東堂、趣味悪ぃのな…… オレなら楽天的なぐらい前向きな方がいいショ』

――気 づ け !!!!巻島裕介、お  前  だ  !!!!!

『あ、明日 朝練早いから切るぞ おやすみ』

東堂が懸命に念を送るが、どうやらそれは届かなかったらしい。
そっけない挨拶と共に、ツッと短く回線が断たれる音がして、通話は切れた。

「巻ちゃんのばかぁぁぁぁ!鈍い、鈍すぎるぞ!!! 大好きだっ!!」
「ウルッセェェェェェェェェ!!!」
壁越しに怒鳴られた荒北の声も、ものともせず東堂は次回、いかに巻島にこの気持ちをアピールすべきかを計画していた。

しかし、東堂は知らない。

「…ハァ やっぱり伝わらなかったショ……」
東堂の好みに対して、さりげなく自分の趣味を伝えて、『東堂が巻島の好みのタイプである』と悟らせようと、巻島裕介も図っていたのだ。
お喋りで、黒髪ストレートで、箸使いが上手で前向きなんて…東堂尽八ぐらいに決まっている。
「東堂…鈍すぎるっショ… ばーか」

おそらくこのすれ違いを、第三者が見たらこういうに違いない。
「砂糖を吐きそうなほど、甘いやりとりだ」と。
『お前ら仲がいいの通り越してる』と噂される当人たちは、相変わらずに自覚がなかった。