リクエスト企画で、フォロワーさんから羽智と裕ちゃん見たいと頂いたので ********************************** 一瞬の暗闇から、光りが差し込んできたせいで、裕の目はくらんで、飛びついてきた者の姿は視覚で確認できなかった。 だがその柔らかなぬくもりと「おかえり!」と涙声での叫びで、巻島裕は自分の世界に帰ってきたのだと悟る。 「おかえりィ」 「あー女の子に戻ってる イリュージョンだね」 すこしキツく聞こえてしまうぶっきらぼうな口調と、ふわふわした声で、入口側にいるのが、新開と荒北だとわかった。 おそらく状況は、自分が男性側の世界で経験したものを、ほぼなぞっているのだろう。 巻ちゃん巻ちゃんと耳元で繰り返し、ぎゅっとしがみつく東堂の温かさが心地よい。 本当に帰ってきたのだと、巻島はあらためて自覚する。 ――ああ、だったら……約束どおり言わなくちゃ 東堂尽八と名乗った、羽智の兄のように見えたその男性は、好きだといいながら辛そうに笑っていた。 東堂のその優しさと言葉に甘えて、自分はあちらの世界の自分と同じように、羽智に何も伝えていない。 熱も、高揚も、楽しさも…一緒に居たいという気持ちも、好きという思いも、東堂ならわかってくれると、ただ横にいただけだった。 「羽智………好きショ」 まだ視界がきかないのだけれど、抱きついてくる相手を間違えたりはしない。 この距離でだけ、聞こえる声で囁けば、喧騒的だった東堂がぴたり口をつぐんだ。 動かなくなったその様子に、巻島の鼓動が早まる。 タイミングが悪かったのだろうかと、おそるおそる距離を少し置いて、東堂の顔を確認しようとすれば、それ以上の力で更に抱き寄せられた。 「巻ちゃんっ …巻ちゃん………好き!ずっと好きだって言い続けて、巻ちゃんもそうだと解ってはいたけれど、言葉でもらえるなんて思ってもいなかった!」 嬉しさが背筋を駆け抜け、つい加減も忘れて、東堂は全力でしがみつくように、巻島を抱きしめた。 恥ずかしさに耐えるような、巻島の伏目がたまらなく可愛い。 ――こんな可愛い巻ちゃんを前に、男の自分が手を出さずにいられたのだろうか…… 思わず巻島の顔が見られるよう、ぴったり引き寄せていた体を押し離し、それでも距離がとれぬよう肩を掴んだままで、東堂は巻島を伺った。 「……巻ちゃん……貞操は無事か!?」 「ショォ!?」 「こんな可愛い巻ちゃんを前にして!!男の私が耐えられるはずがない……! 巻ちゃんっ!巻ちゃんは私に押し倒されてそのまま……!」 「………羽智ぃ?」 「よもやキスマークだとか、あらぬ証をつけられてはいまいなっ 巻ちゃんは私のものなのにっ」 「羽智っ……!……押し倒したって………どういう事……?」 目を細めていぶがしげに東堂を見遣る巻島は、全身で不快感を露わにしている。 「それはー東堂が巻ちゃん♂を押し倒したからじゃナァイ?」 「羽智ってば肉食ゥ!」 「荒北!新開!!!!」 扉から二人の様子を伺っていたらしい、傍観者の声に東堂は大慌てで振り返り、巻島はピクリと揺れた。 「……羽智………私は……抱きしめられた程度っショ……」 「巻ちゃん!」 「……で、お前は……何をしていたって?」 「…………いや……あの、裕ちゃんを押し倒すのは犯罪だけど……男の巻ちゃんなら合意になるかなって……」 「なるわけないっショォォォ!」 「ねぇねえ、男の私イケメンって本当?」 空気を読んでいないのか、あえて空気を読まないのかの新開がにこにこと巻島に尋ねる。 「うん、本当 荒北は口が悪くて頼りがいあるところが一緒だし、新開は人当たり良さそうなフェロモンダダ漏れイケメンだった」 「巻ちゃんっ! 私は!?」 巻島の冷たい視線が薄れたと、会話にのってくる東堂に、まだ内心で少しの妬心を残していた当人としては、素直にその良さを 伝えてやりたくない気持ちでいた。 「顔はカッコよかったな」 「そうか!さすが私だ!」 「顔はな」 「……巻ちゃぁん……」 捨てられた犬のように、潤んだ瞳で見上げられ、さすがに巻島も吹き出さずにいられない。 「待っててくれて、…ありがとな」 巻島の言葉は、今の帰還をさすだけのものではなく、複雑な意味がこめられていた。 「巻ちゃん、…生まれてきてくれてありがとう」 耳元で囁く、羽智の答えは「嬉しさでキュン死にする」などとほざいてて硬直していた、東堂尽八よりよほど男らしかった。 |