【東巻】その仕草が


東巻ワンライ、今回も遅刻で挑戦! パラレル社会人な二人
【8月16日お題:ネクタイ】の分です  ちょっと途中で所用が入ったので、1時間でまとまらなかった…かも?

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東堂と巻島が、ネクタイをすることは滅多にない。
二人とも自由業ではないにしろ、通常で連想される会社勤めとは異なる職種についたからで、出勤があっても基本自由な服だ。

生真面目な者は、東堂や巻島のような職業でも、ホワイトシャツにネクタイという姿を選択することがあったが、二人は自分の着たい服を選ぶと言うスタンスだ。
ただし休日になれば話は別で、『互いに着たい服』ではなく、『互いに着て欲しい服』という話し合いが生じるのも、同棲ならではの特権だろう。

東堂は巻島のセンスを、独自の色彩感覚と奇抜なセンスとして評価をしているが、巻島に本当に似合う服は、シンプルなダーク系色の方だと思っている。
特に黒のデコルテラインが露わになったようなカットソーは、色香と静けさを併せ持ち、日常着なのにそれでいて、巻島の持つ空気が、そこに非日常的な
雰囲気を纏わせる。
東堂の今日の選択はトップが黒、ボトムが白のモノトーンというオーダーだった。

巻島が好きなのは、東堂のネクタイ姿だった。
基本黙ってさえいれば容姿端麗の東堂は、多くの服が似合う。
似合わないだろうと、巻島があえておかしなコーディネートをして見せても、カチューシャを一つ外すだけで随分と大人びた印象に変わり、
髪を後ろに流せば着こなしてしまうのだから、嬉しい裏切りだ。
だから何を着ていてもサマにはなる分、たまにしか見れないネクタイ姿が新鮮で、今日は何を着ようかと聞かれたら、それを選択する。

大きく襟口が開いた、黒のぺプラムの下は白のスキニー。
ぺプラムの長めの裾は、まるでミニスカートのようで、巻島を中性的に見せていた。
いまだに自分を「キモい」などという口癖を、巻島が改めることはないが、この姿でそこらに座っていれば、10人が10人とも色々な意味で目線を惹かれるだろう。
もっとも本人はその服を見て「シンプルすぎる」と不満のようだ。

「今日、巻ちゃんのその服装を見るのはオレだけだ …いいだろう?」
東堂が耳朶近くで、低く囁けば、巻島は慌てて意識したように一歩退き、こくこくと頷いた。
もう一緒に住んで何年にもなるというのに、相変わらずかわいい反応をしてくれる。

「じゃあ オレはこっちな」
巻島が用意してきたのは、ホワイトシャツにネクタイ、スーツ系の着こなし一式だった。
休日であれば、ゆったりした服装が望ましいが、たまにしか着用しないものだし、まあいいかと東堂はシャツを手にし、着替えるために隣室へと向かった。
せっかくの相手が望む服装を、日常着から着替えてしまう様子を見せてしまっては興ざめだろう。

巻島の趣味は、たまに驚くものがあるが、それはあくまで当人がカッコいい・可愛いと見えるもので、他人に着せる服は悪趣味ではない。
いやむしろ、東堂自身が選ぶものよりよく似合うものも多く、これを自身に生かしてくれればと思う人は、数多いだろう。
もっともその一風変わったセンスゆえに、ブランドとして名をはせたのだから、無難な服装を好む東堂には、わからない世界が存在するものだ、
やはり巻ちゃんはすごいと感心せざるをえなかった。

社会人となった今、スーツ姿にカチューシャは似合わない。
だが、それを外す仕上げは、自分の仕事ではなかった。
居間に戻り、ソファの上で雑誌を広げているパートナーの名前を、東堂は呼ぶ。
「巻ちゃん」
知らぬフリをしていながら、全身でこちらの気配を察していたのだろう。
わざとしぶしぶといった様子を装いながら、少し幸せそうに微笑んでいる巻島は、東堂の元へ歩み寄る。
「はい」
「ん」
手渡したのは、一本のネクタイ。
東堂自身、制服時代はネクタイだったのだから自分で結べるが、巻島のこだわりがあるらしく、今では東堂のネクタイを結ぶ役目は彼のものだ。
東堂は、自分のを結ぶことができても、正面側から他人のを結ぶのは、おそらく無理だ。
学生時代に、誰かにやっていたのだろうかと探りを入れたが、当時の同窓生や後輩たちは口を揃えて言った。
「巻島(さん)は、変なところで不器用だったから ネクタイいつも弛んでたり、曲がって(まし)た」

よくよく聞いてみると、それは不器用ゆえではなかった。
巻島はその結び方がカッコイイと思っていたのだと、今でなら解る。
なぜなら巻島が東堂に結ぶネクタイは、いつもまるでデパートの売り場にあるような、綺麗に整えられたものだったからだ。
ポンっと鎖骨辺りを軽く叩くのが、完成の合図。
その次にするのは、東堂が少し屈むこと。
巻島が指先を伸ばし、東堂からカチューシャを外す。

サラリとクセのない東堂の髪が、頬に落ちる。
満足げに口端を上げた巻島に、東堂も微笑みかけた。
「髪、どうしようか?」

スーツ姿に、髪を後ろに流した自分の姿を巻島が好きだと知っている東堂が、甘く問い掛ける。
洗面所に向かった巻島は、戻ってくるときにブラシと、ムースもしくはワックスを手にしているだろう。

そしてそうやって固めた髪を乱し、ネクタイを自分で緩める。
東堂の少し乱雑なその仕草が好きだと、巻島が思うのはいつも寝台の上で、今日はそれが何時間後になるのだろうと、巻島はブラシを動かしながら、
急がないキスを東堂の首筋へと落とした。