オマケ アリババとカシムの交互に独白


お前の愛は、祈りにも似ていた。
大事なものを失うたびに、強くなって。醒めたフリをしながら、誰より「何か」を
大切にして。
その「何か」は、なんだったのか。神も王も、この世に信じられるものなんて
何もないと言っていたカシムは、俺に見えない何を追っていたんだろう。


「俺を殺せ」
そういった俺の言葉は、どうせお前が俺を殺せるはずなんかないだろうの
嘲りじゃなかった。
アリババによってなら、本当に命を落としても構わないの確固たる決意。
新しく国が生まれ変わるというなら、どの時代だって血が必要だった。
ならば、その生贄になるのが王族か、俺かだけかの違い。

「さあ、やれよ アリババ」
―お前の手で、命果てるという甘美な誘惑。
綺麗すぎるお前が眩しくて、なんども遠ざけようとした。
そのたびに、必死でおいかけてくるのがたまらなくて、わざと傷つけてしまう
自分に気付いた時の背徳感。

「…カ、シ…ム…」
―できるわけが無いっ!俺が望んだ新しい国は、お前が笑って暮らせる
国なのに

「やれっ!」
そう言って近寄ってきたカシム。
プツリとした小さな音がし、首の皮を裂いて、流れ出たカシムの血。
その瞬間、俺を包んでいた怒りにも似た力は、霧散してしまった。

――お前が俺を殺せないなら、俺がお前を殺してやる

俺を殺した罪悪感で、お前が堕ちるなら、それで良かった。
だがどこまでも、綺麗なお前が手を汚せないなら、俺がお前を殺してやる。
…そうすれば、アニスのようにマリアムのように、お前は俺の記憶の中だけ
に存在し、…遠くへ離れる事はない。

黒縛霧刀によって貫かれたのは、俺の体。
俺とアリババを引き離すだけの、王族なんて全て滅びるといい。

さあ、闇と黒い心しかないバケモノに成り果てた俺を、それでもお前は
追いかけてくるか――?

目の前に流れる赤黒い血と、石畳。
泣きそうなアリババの顔。…それが、俺の人としての最後の記憶になった。

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カシムのヤンデレっぷりは国滅ぼしてもOKレベル