【東巻】デートについて会話した



ツイッターの東巻ワンライ企画に挑戦させて頂きました。 お題は【デート】…しかし1時間の企画なのに、25分で終了の短文ですみません
締め切り間際っぽい感覚で書いてみるのも、楽しいですね

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東堂が初めて、巻島の自宅を訪れた時、風呂上りの後の話題になったのが『デートするなら、どんな相手とどんな場所へ行くか』という内容だった。
会話のきっかけを持ち出した東堂が、訪れる場所候補として、まず上げたのは、海だった。

山神と言われる男だから、当然山だろうと思っていた巻島には、意外に思う。
好きな子を自分の領域に連れて行きたくないのかと尋ねれば、東堂は「山には、巻ちゃんとが一番楽しいからな!」と隠さぬ笑顔で告げられた。

「そういう巻ちゃんはどうなのだ」
と今度は東堂に返されて、考える。

――自分なら………人ごみはあまり好きではないし、海もさほど興味がない。
映画は音響で頭が痛くなるので苦手だし、それなら家でブルーレイでも見ていたほうがずっとマシだ。
買い物に行っても、おそらく自分の趣味とあう人間はあまりいないので、そのコースもありえない。
テーマパークや遊園地も……テンション的に、気遣いの苦手な自分には、無言のいたたまれない場になってしまいそうだ。

「……家で一緒にダラダラして、なんとなく喋ったりしているのが一番ショ」
消去法で残った答えを、これみよがしに掌を天井に向けると言う、外人めいたリアクションを巻島が返してやると、東堂はあらぬ方を向いた。

「…何だよ?」
「いや……今オレ達がしていることのようだなと」
しばし無言で見つめあった後、互いに気まずく、わずかに頬を染める。
「そ、それを言うならお前こそ、自分が一番大事にしたい場所へ、彼女連れてかねぇで、オレ一択っておかしいショッ!」
「そんな事はないな!巻ちゃんとオレは大事なライバルなんだから、当然だ!巻ちゃんこそ、今オレとしていることを
デートでしてみたいのだろう おかしいではないか!」

なぜだ、どういうことだ。言えば言うほど、泥沼だ。
唇を開くごとに、がんじがらめになる気持ちになって、無駄に鼓動が早まっていく。
「東堂……とりあえず、この話題……置いとかねェ?」
「同感だ」

ならば次のお題は「どんな相手と」だ。
東堂はまんざらでもない顔で、オレならばより取り見取りなのだがと、前置きをつけた。

――ウザい。

「…巻ちゃん、今何を考えた?」
「別に」
クハッと冗談にしたいみたいに、笑ってやれば、「何だ 巻ちゃんの自然の笑顔は、随分可愛いじゃないか」と東堂は真顔で告げた。
(コイツ、頭はいいらしいのに、頭 弱いよなあ…いや弱いのは視力か?)
自分の笑顔のキモさを承知している巻島が、露骨にそれを顔に出したのだが、東堂はもう一回笑ってみろよと無茶を言う。

「うるせェ オレの笑い顔なんてどうでもいいんだよ、今はデート(仮)の相手だろ」
「む……どうでもよくはないな! だが巻ちゃんが、そうもオレを気にするのであれば、仕方があるまい答えてやろう」
「……ウゼェ」
今度はぼそりとだが、はっきりと呟いた巻島に「ウザくはないな!」と叫ばれた。

「そうだな、髪の毛は……ボリュームある子より、さらっと流れる感じに、カールがあるのがいいな それから肌は白くて、腰は細め」
「……随分具体的ショ」
「そうか? 性格は陽気で前向きな子も楽しいが、オレが一緒にひっぱっていって上げたいような、控えめな子がいいな!」

言いながら東堂が、脳裏に描いていたのは、その理想の女の子だった。
――さらりと流れるカールの髪、肌は白く腰は細い、控えめ……………待て、なぜ巻ちゃんがそこにいる!!いやいやいや落ち着け、尽八
もう一度想像を………やはり巻ちゃんかっ!!!!!

頭を抱えて苦悩する東堂に気づかぬのか、巻島も話題に乗って、(仮)デートの相手を考えてみた。

「オレは…そうだなあ…自分がこういう髪だから、黒髪悪くないっショサラっとストレートのな  あとは自分が笑顔苦手だから、得意な子はいいよな 
それから、オレは会話得意じゃねえから…相手から、話しかけてくれるとくつろげるから居心地よくて、助かるショ」
「巻ちゃんの笑顔は 可愛いぞ!」
「……オレに笑えとか強要しておいて、キショッって言ったの ぜってぇ忘れてやんねえ…」
「いやだから、無理に口端を上げようとするとその、イマイチかもしれないが、自然な巻ちゃんの微笑みはだな…それにあの当時は……」

巻島は、懸命に自分の機嫌を取ろうとするしどろもどろの東堂に、わざと拗ねた態度を見せることで、溜飲を下げる。
だって、今の自分の脳内には、理想のデートの相手として……なぜか東堂が居座っていたのだから。

――髪がサラサラ黒髪ストレート、会話が得意な笑顔が似合う……なんで東堂なんだよ!?
待て、落ち着くショ裕介………一緒に居てくつろげて…話しかけてくれて………やっぱり…東堂……。

待て落ち着け自分、今の会話を整頓してみよう。

なぜか互いに無口になっているのに、心はさわぐ。それでいて気恥ずかしい空気に耐え切れず、東堂も巻島も、お互いの発言を省みた。
(オレは……巻ちゃんみたいな子と……海へ行きたい…のか……?いや違うな、巻ちゃん【みたい】ではなくと、巻ちゃんと山へ行く方が絶対楽しい!)
(……おかしいショ なんで東堂みたいな子と家でダラダラが理想なんだよ…! みたいじゃなくて、本人がここにいるって、理想超えてるってコトか!?)

「なあ巻ちゃん」「なあ東堂」

ほぼ同時に名前を呼んで、互いにお先にどうぞと、首を振れば、また静寂の時がしばらく続く。
不穏なぐらいに、心臓が高鳴っているのは何故だ。
こんなの、レースのゴール間際でしか感じたことがない。胸が苦しいぐらいに、圧迫されているのに、温かい気持ちでいるのも、不思議だ。

カラカラに乾いた喉に、空気を押し込むように、息を飲む。

巻ちゃんは…
東堂は…
いつかオレじゃない人と、そんな時を楽しむのだろうか。

「…それは……嫌だな……」
「それは…イヤショ」

…何のことだろう?何を東堂は、巻ちゃんは嫌がっているというのだろう?

さぐるように互いを伺う初々しさに、東堂と巻島は、声を合わせて吹きだし、
――ああ、自分はこの相手を好きなのだ。
と、揃って初めて気が付いていた。