夢と現実



「お姉様〜」
末尾に音符マークが付きそうに、弾んだ声で
駆け寄ってくるのはマリアだ。
 子供がそれほど好きな訳ではないが、
やはりなついてくれると嬉しく可愛い。

「どうしたの?」
「昨日 お姉様のプロモーションビデオ見ましたの。
元々のお姉様も、素敵ですけど天使のお姿とても綺麗でしたわ」
「そ…そう…? ありがとう。
でも、あれはメイクさん達のおかげが大きいの。
つかのまだけど、シンデレラ気分で楽しかったから…
そう言ってもらえると、照れちゃうな」

 言葉を返すうちに 某キャムキャム犬バンドたちの
『詐欺天使』呼ばわりを思い出したキョーコの
背後から、怨キョーコが姿を現しはじめていた。

照れちゃうと言いながら、少々
顔付きが怖くなってきたキョーコを、マリアが
恐る恐る覗き込む。

「…お姉様?」
「あ、ごめんねマリアちゃん。
喋っているうちにちょっと不快なこと思い出したもんで」
「不快な事?…あぁ お姉さまもシンデレラがお嫌いなのね」

 妖精を信じる夢見る少女のキョーコは、マリアの
言葉に固まる。
シンデレラといえば、平凡以下扱いをされている
少女が、美しく変身してしかも玉の輿という乙女の夢ではないか。

「マリアちゃん シンデレラが…嫌い?」
「えぇ」

 きっぱりと頷くマリアに、軽く混乱するキョーコ。

「どうして?」
「だって、あんな相手と結婚して幸せになれるはず
ありませんもの」
「あんな…って相手は王子様よ?」
「一目惚れは否定しませんわ。でも、数時間踊っただけの相手
を結婚相手にすると言い張り、しかもその相手を自分で
コッソリ探すと言うのならともかく、『靴が合えばOK』なんて
いいかげん極まりない条件で部下に探させるような男
世間ではバカ息子って呼ぶのだと思いますけど」
「…そ、そうね…」
「そんな男、次に一目惚れするような美人が
現れたらシンデレラなんてあっさりポイするに決まってます」
 
 幾つも年下の少女の、もっともな言い分に、キョーコの
思考回路が停止する。
 
 …そういえば…松太郎って
「老舗旅館のボンボン」で「ハンサム」かつ「考えなし」
…シンデレラの王子の条件に、
ほとんど当てはまるじゃないの〜っ!!


 その後のキョーコは、「シンデレラは好きだけど
シンデレラの王子は嫌い」という屈折した持論で
モーコを困らせたらしい。