…疲れた。 玄関の前に立った十兵衛は、
扉を開ける前に小さく吐息をついた。

十兵衛の勤めるホストクラブは現在、ライバル店が登場し
熾烈といってもよい争いが続いているのだ。
脅威の資金力と、以前店に勤めていたベテランの来栖を
引きつれて新たな店を開業したデル・カイザーは、
地域一体を支配するが如く、弱小のホストクラブを次々と
閉鎖へと追いこんでいった。

負けてたまるかと、常以上の営業サービスでふるまう日々は、
張り合いも在るが、接客向きで無い自分には、少々酷だ。
だが、花月の姿さえ見れればそんな疲れは、すぐに
吹き飛んでしまう。生活に戻る前に、花月へ心配をさせぬよう
疲労した顔を消して、十兵衛は家へと入った。

「…ただいま、…今帰った……花月?」
普段なら、パタパタとスリッパ音を響かせ 迎えに出る
花月の姿が見えない。

不審に奥へと進むと、洗面所に立ちすくむ姿があった。
「…花月?どうかしたのか」
「 !! っお、お帰り十兵衛」

ゆっくりと振り返る花月。
…その髪は、ばっさりと短く断たれていた。

「……っ!!」
息を呑み立ち尽す十兵衛に、花月が哀しげに微笑みかける。

「…似合わない、かな?」
「あ、いや 花月がどんな髪型をしようと似合わぬ
なんて事はあるものか! …だが…どうして」
「………夜半の姿を見かけたんだ。少しでも、目を眩ませる
かなって…思って…」

夜半は、花月の弟だ。歪んだ愛情で、兄に執着するあの者は
花月の姿をみつけたら、是が非でも連れ帰ろうとするだろう。

「すまん、俺が不甲斐ないばかりに」
「こんな髪ひとつ、十兵衛と一緒にいられるなら惜しくはないよ」

にっこり笑って、首を振る花月を強く抱きしめる十兵衛。

一生、傍にいる。その誓いを、改めて強く思う十兵衛だった。

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ものごっつ お久しぶりの昼メロです。 空いてる間に怒涛の展開に
なってしまいましたので、花月の髪を切るお話にしてしまいました…。
顔はあえて、ロリっぽくシュミレーションゲーム風アニメ塗りで。
 ところでデルカイザーのホスト姿、
見てみたいかも(笑)