「大事な気持ち」


誰より 蛮ちゃんが大事だよ と言われた瞬間、
反射的に 殴っていた。

「蛮ちゃん〜 ひどい〜っ」

 殴った力は 強くなかったけれど
告白のつもりで 言ったのに
返事が これでは さすがに へこんだのだろう。
銀次が 涙目で 睨み付ける。

「お前の誰よりは 僅差しかねぇだろう
大事ったって、2位と紙一重ぐらいだもんな」
 
 どうだ?と言わんがばかりに
銜えたタバコを揺らす 蛮。

「そ…っそんな事ないよ!」

 力強く 断言する銀次を
ちょっと困らせてみたくなる。

「じゃぁ 聞くが
俺とヘヴンが 崖下にぶらさがっていて
どちらかしか 助けられない。
 そんな時 お前なら どっちを選ぶ?」

 意地の悪い質問だ。
そんなモン 自分だって その場に
いなきゃ わからない。
 いつも笑顔で 大好きを
周囲に 大安売りの 相棒を、
悩ませたかっただけの。

「…ヘヴンさん…かな」

 …思いの他短い、銀次の
思考タイムが、 ちょっと面白くない

「ほほぉ?」

ツンツンとした金髪頭を 抱え込み
ヘッドロック。

「だ、だって 女の人だよ!?
守って あげなくちゃ」

 ごもっともな 御意見で

「…でもね…
もし それで 蛮ちゃんが 落ちちゃったら
俺、その場で 追いかけるから」

「……後追いか?
男同士の 心中なんて やめとけ」

「違う 落ちるまでの 時間に
何とかできるかも しれないよ
…だから、落ちながら二人で 考えるの」

 真剣な顔で 滅茶苦茶な
アイディアを 述べる銀次。

 落ちながら 『蛮ちゃ〜ん 俺ナイス切り抜け案
考えちゃった〜』と手を振る 銀次を 想像し
 思わず蛮が 吹き出す。

「何か おかしい事あった? 蛮ちゃん」

「いや…お前の その前向きすぎる
能天気さが……」

「…えぇっ?ごめん 聞えないよ〜」


 救いだ なんて 2度も言ってやるものか。

ヘッドロックをようやく 外し、後方へと 転びかけた銀次は
蛮の 微かに赤らんだ 頬を 見る事は なかった。