水も滴る…

「…でね、何て言うか…意外と艶っぽいの〜!」
女三つで姦(かしま)しい。
 その文字に恥じぬ通り、ヘヴン・レナ・夏実の
3人がカウンター越しに、茶飲み話に興じていた。

「ね、銀ちゃんもそう思うわよね?」
蛮との待合せで、HONKYTONKを訪れた銀次は
同じく花月と待合せだと、その場にいた十兵衛と
会話に興じていた為、女性陣の話を聞いていなかった。

「へ??」
「だから、雨に濡れた蛮さんって…
何かセクシーですよねって話」

 イタズラ気に微笑む夏実と、同意するヘヴン。
 幾分 疑心な表情のレナは、
その『水に濡れた蛮』を見損ねたらしい。

「「勿体無かったわよね〜レナちゃん」」
あんな 絵になってる蛮を見れなかったなんて、と
言い募る二人に ちょっと悔しそうな視線を返すレナ。

「じゃぁ、お二人は 雨に濡れた
花月さん見た事あります!?」
 パンッと両手を合わせたレナが、ここぞと
輝く。
「この前、お二人がいなかった時…
雨宿りで花月さんいらっしゃったんです。
あの長い髪が…ちょっと濡れて肩に絡まって
ものすごーーーく 色っぽかったんですよ!
もう お客さんの男の人なんて、全員見惚れてましたもん」

カタンと軽くソーサーに置いた手が
震えている十兵衛。

「…そりゃぁねぇ…花月君が
そんな状態じゃ 艶やか度マックスでしょうけど…。
それは邪道よ。あくまでも0から始まって
濡れた事で色っぽ…」
「そのように、乳丸出しの下品な
格好をしておいて、花月を邪道呼ばわりとは何事だ…」

 ヘヴンの台詞が言い終らぬうちに、女性が相手ゆえに 抑えつつも、憤りを隠さぬ十兵衛。

「ま、まぁまぁ十兵衛。カヅッちゃんが
美人なのは、皆わかってるしさ…」
「よし!では雷帝は花月が誰より
格好良く美しく色っぽく素敵で綺麗だと
同意するな!?あの下品な色眼鏡と比べるなど
言語道断!!」
「ば、蛮ちゃんだって カッコイイよ!」

フォローに入ったつもりが、いきなり絡まれた 銀次は咄嗟に拳を握る。

 いつのまにか、話題の主は銀次vs十兵衛へと
切り替わっていた。
美人度と、格好良さ度で対比は出来ないが
『雨に濡れた時の絵になる度はどっちが上か』
で言い争う二人を、止められずおろおろと右往左往する
レナと夏実。
 よく考えたら、なんでこの色気たっぷりの自分を前に
男が男の色気で言い争そっとんじゃ阿呆クサと
戦線離脱したヘヴン。


カラコロ〜ン
涼やかな鈴の音が、来客の存在を伝える。
「いらっしゃいませ〜」

「ついてくんじゃねぇカマ男」
「誰がアナタなんかを付けまわしますか
僕もこの店に用が有るんですよ」
扉の向こうには、蛮と花月の二人連れ。
 
 待ち人が訪れたのだが、激昂している
十兵衛と銀次は二人の存在に気付いていない。

「おい銀次」
「十兵衛?」

「あっ!蛮ちゃん良いところに!!」
言うや否や、手元にあったお冷の水を蛮へと
ぶちまける銀次。
「ほらっ!!蛮ちゃんだってカッコいいよっ」
「何を言うかっ」
すかさず、同じように花月の頭上から
水をかける十兵衛。
「どうだ 比較にもなるまい!!」


「……銀次……」
「……十兵衛」
地を這う蛮の声と、ニッコリ微笑んだ花月の凍った声。
濡れ姿の二人は、それぞれ艶冶と清麗の言葉に相応しい。
…が、その背後には地獄の業火を髣髴させる
怒気に染まったオーラが満ち溢れている。

「「説明してもらおうか?」」

 めずらしくハモった蛮と花月。

 阿鼻叫喚 という地獄絵図の後 店への賠償金として
借金を重ねた奪還屋の二人と、ヘヴンの依頼を無償で
引き受ける破目になってしまった十兵衛と花月がいた。













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