宵酒

(た〜す〜け〜て〜)
室内は 空調が効いて充分に
暖かい。 いや暖かいのを越して、
宴会で 盛り上がった場には
暑いぐらいだ。

だが、今の花月に浮かんでいるのは
冷や汗。

「初めて 会った時から
お前を 愛している…。お前の傍にいられる
筧の家に産まれたことを、こんなにも
感謝をした事はなかった…」

 穏やかな笑顔で、自分を壁際まで追い詰め
滔々と 語り続ける十兵衛。
その 造作の整った顔が 面近に寄り、
酔ったように花月の 髪を梳く。

いや 「ように」ではない
実際 間違いなく 十兵衛は酔っていた。
普段なら ザルと呼ばれるぐらい 酒豪な
十兵衛だが、笑師が遊び心で
水とウォッカを 入れ替えたのだ。
 酔い覚め のつもりで
飲んだ「水」が アルコール度数ばか高い
洋酒であったことで、完全に酔っぱらったらしい。

「じゅ、十兵衛!落着いて!!
 酔っぱらってるの 今の君は!!」

 このままでは、人前でキスをされかねない
事態に、花月が必死で 反撃を試みる。
 唯一、助けてくれそうな 俊樹は
面白がってる蛮と笑師に、破壊締めされ
役に立ちそうもない。
(他のメンバーは、 自分達を
輪になって囲み 酒の肴に眺めている)

「酔う…?この俺が…?」
「そう、 だから落着いて」
「俺は 酔ってなどいない。…いや
そうだな、 お前の美しさに
今の 俺は酔っているのかもしれん」
「な、な、な 何を」
「貴様は独りで 全てを背負い過ぎだ。
お前の美しさに酔った、憐れな下僕に
少しは 頼ってくれても いいだろう…?」


「オォーーーッ!通常の十兵衛はんなら
決して言えんで、あないなセリフ」
「いやーーん 私も一度でいいから
言われて見たい〜」
 能天気なギャラリーの突っ込みも、左から右に通りぬける。
人生のほとんどを一緒に居る、 幼馴染みの
寒いセリフに、花月の頭は ショート寸前になっていた。

 笑師の気が、十兵衛のほうへ向けられた隙に、
二人の腕を、振り解き
花月へ駆け寄る俊樹。
「花月!」
「俊樹!!」
助かったとばかりに、十兵衛の腕の隙間から
指を伸ばす花月。

「俺とて、初めてお前に逢った時から
愛してる!!」
(こっちも 酔っぱらってるーーっ!!)

すがりついた、蜘蛛の糸は 捕食用だったらしい。
 花月を助けるの一念で、暴れた俊樹も
酔いが回ってしまったのだろう。
「筧より、出遭うのは遅かったかもしれん。
だが、俺はこれからも お前を見詰め続けるし
…永遠に愛すると誓おう。
 お前の奏でる 全ての言葉は
俺の道標だ。 生涯賭けて 護り
寄り添わせてくれ」


 二人の酔いが覚めるまで、ほぼ
公開口説き大会 と化してしまった宴会。
 今後 十兵衛と俊樹が 酔っぱらわぬよう
監視をしておく決意を固める、花月の姿が
そこにあった事はいうまでもない。

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お久しぶりの小部屋小説です。
これぐらいなら、表に置いても
大丈夫だったかなー