宴の始末2


「えへへへぇ…気持ち良い…」
胸に頬を寄せ、すりすりと顔を動かす銀次。
「クスッ」
愛嬌たっぷりの銀次と、その背中を軽く叩いている花月。
 
 普通に見ていれば、子犬と戯れる美少女の図 とでも
名づけたくなるほほえましい光景だが、
気詰まりな状況の傍観者達は、そうもいえない。

(ちょっと、アイツら引き剥がしてきなさいよ!)
(…関わらないのが、身の為だと思うぜ?)
(クスクス 観察してるの、結構面白いよ)

「あ、あのね次は膝枕!」
ようやく躰をはがし、花月を見上げる銀次の言葉に、
周囲が ひっと短い悲鳴。
「構いま……」
「花月」
了解の前に、背筋に震えが走るほど、甘い低音で名前が呼ばれた。

 獲物を追い詰める意志伝達は、短い程良い。 とか
昔、誰かが言ってたっけ。
 ぼんやりと眺めるマクベスの前で、
俊樹が立ちあがる。
「え…やだ 何? 離してよ十兵衛!!」
「……」
無言で花月を両腕に抱え、宴会場に背を向ける十兵衛。
 扉はすでに開かれ、ドアの前では腕組をした俊樹が、
顎で廊下に早く出るよう促す。 

「急な約束事を思い出した。悪いが元風雅はこれで
失礼する」
「は…離してよ!十兵衛」


スタスタと、歩を進める十兵衛を前に、留めるべきか
微妙に葛藤する者もいる。
だが、一時も早く平穏を取り戻したい
他のメンバーに、掌ですばやく口を塞がれてしまっていた。

パタンと扉を閉めて、姿を消す俊樹達。
見事な連携プレーで、十兵衛が花月の名前を呼んで、
20秒とたってはいなかった。

「………はぁぁぁあ」
一斉に肩を下ろし、深呼吸する残された者達。
「あぁ、空気があない重いなんて、波乱万丈な
ワイの人生でも始めてやったわ」
「そう…?笑師の冗談の後って、あんな感じじゃない」
疲れきったマクベスの声に、何人かが乾いた笑い声を立て
再び、宴会は始まった。
 どうやら、3人の不在は気付かなかったことにして
流してしまおうと、無言の協定が結ばれたらしい。


「離してよっ! 何 いきなり…怒るよ!?」
拘束から逃れようと、身を捩る花月。
 だが、当然弱まることなく、反対に抱き上げる腕に
ますます力が込められる。
 悔しい。 戦う時は互角になれても、
体格的には同世代とは思えぬ、精悍な肉体に、
花月は歯噛みした。
 何か一言 言ってやろうと、
口を開くが、 見えない双眸で、自分の様子を伺う
十兵衛に、小さく息を呑む。
 花月の内心を読んだかのような、残酷な冷笑だった。
 
 見慣れたはずの、十兵衛の部屋。
どさり、と投げ出された臥台の上。
 電気は付けられず、ブラインド越しの月明かりだけが
僅かな光源だ。
「花月…」
 頬を歪め笑い、俊樹が花月を見下ろす。
シーツの上で、不安げに身を震わせる花月に寄り添い、
ゆっくりと、執拗なまでの丁寧さで、花月の額に乱れる髪を
かき上げる。

「眼の効かぬことで、不自由はなかったが…。今回ばかりは
触れぬとお前の変化がわからない」
片手で花月の足首を固定し、残る片手のグローブを
口で銜え、毟る十兵衛。優しい口調だが剣呑な、セリフに
花月の足から、力が抜ける。

「何度 俺達の口から言わせれば気がすむんだ、お姫様?」
あやすように髪を梳く俊樹の声は、優しく凄惨だ。
「な… なにを…?」
人間のやり取りに必要な、感情のコミュニケーションが取れない。
こちらを見ていても、対等に見遣らぬ俊樹と十兵衛に、花月は混乱していた。
 喉奥は、カラカラに乾き、舌が強張る。

「花月… 貴様は雄の衝動と征服欲を刺激する、危険な存在だと
繰り返し教えているだろう」
十兵衛の無骨な指が、細く締まった花月の足首を持ち上げ、 
そのまま唇を落とす。
 それを見た俊樹が、花月の手を取り、指先を甘噛みした。
「少し、躰で覚えてもらった方がいいな」
いかにも楽しそうに細められた蒼い目に、すさまじい精神的負荷をかけられた
花月は、ようやく二人が怒っている事に気付いた。

(なんで…怒ってるの…?)
確かに何度か、十兵衛と俊樹がまじめな顔で
「自分の美しさを自覚しろ」と言ってきた事はあった。
そうはいっても、多少それらしくないかもしれないが、
自分はしっかり男なのだし、言い寄られた経験だって特にない。

(注:それは単に、花月に言い寄ろうとする者、
すべて元親衛隊に屠られているという事実を、
花月が知らないだけなのだが)

今回だって、銀次が邪まに飛びついてきたのだったら
いかに雷帝といえど、叩き落としていた。
 その程度の、危険察知能力は自分にだって備わっていると
言い返したい花月だった。

「雨流…残念だが、今の俺には花月が見えん。
バーチャルは、どんな形を花月に与えている?」
「そうだな… いつもの服を着ているせいで、色っぽく
窪んだ鎖骨と掌から少しあふれる程度に膨らんだ胸が、
目の毒だ」
 陶酔した俊樹が、指先で肩のラインを つっとなぞる。
「縊れたウェストは、丸みを帯び、齧ってみたい衝動に襲われる」
「ほぅ…」
両の手から、グローブを外した十兵衛が、寝転がる花月の
脇下から腰までを撫で上げた。

(危険な存在って…! 危険なのは僕じゃなくて、
そっちの二人だよ!)
だが、ここでこれを声に出せば
ますます逆上されそうな気がして、花月は身を強張らせながらも
じっとしていた。
 薄く開いた唇に、あどけなさが残る反抗的な目。
大人しくしていても、行動一つ一つがなまめかしくなってしまう
自分に、花月は気付いていなかった。

躰中あちこちを貪られ、花月が解放されたのは
すでに明け方に近い時間だった。
 抱かれた方が、何倍も楽かもしれないと思う
嬲りに近い囁きと、服に隠れるか隠れないかのギリギリの
場所全身に落とされた、二人の唇。

「も…ぅ… 銀次さん…でも… 誰も
抱きつかせたり… しないから 許してぇ…」
ぐったりと、それでも口惜しげに 花月が言った。
零れ落ちそうな涙が浮かぶ花月を、まっすぐに見つめる俊樹。
「良い子だ」
十兵衛が、花月の額に、軽く口付けた。
 乱れきった花月の様子に比べ、涼しいまでに変らぬ二人の様子。
 妄想に走って、コレ以上妙な真似をされるよりは、と白旗を上げた
花月だったが、時、すでに遅く。
 ようやくわかってくれたかと、清々しく自分を見つめる二人から、
逃げ出す気力もなく、意識は暗黒へと落ちていった。

「…眠ったか?」
「あぁ…、…やり過ぎたな」
「しばらくは、ご機嫌斜めだろうな。…そんな花月も、可愛いが」
いとおしげに、花月を見守る騎士と侍。
 花月の為に全てを捨てる決意が、守ると言う形を歪めまくっている
事に気付いていない。
 最上級の護衛を持つ姫は、開き直り彼らを使役する立場を掴むまで、
しばらく身内の敵という
言葉に、苦しめられるのであった。

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タイトル、判る方その通りです(笑)
えーー とりあえず、この二人、ここまでやってるのに
Hまでは しておりません(^^;) 
あくまで、本人達は「害虫から花月を守っている」つもりでおりますので…
怖いです。…おかしい カッコイイ二人が書きたくて、始めた筈。
 花月がらみでなければ、極上な二人なのに…
鬼畜度が増してきて、不安な管理人でした(笑)