贖罪4

「…最近 いつになく
仕事に集中していないようだな」
 頭上から降る声は、いつになく 冷たい。 
 だが、それは切り捨てるような冷酷さではなく
深い優しさを秘めていることに、キョーコは
気付いていた。

「…すみません…」
全身を縮こませるように、ポツリと
呟くキョーコ。
居心地悪そうに、身じろぎし
それでも全身から、罪悪感を放射していた。

いつものように
『それは 貴方が 
私を偏見で見てるからですっ』と
反論が来るだろうと予想していたレンは、
整った面立ちに 驚きの表情を浮かべる。
「…驚いたな。 君が素直に 謝るとは」

「……」
内心、自分でも少し意地が悪い
と思いながら発した言葉にも、
キョーコは 反論しない。
 唇を噛み締め、鮮やかな蒼穹の双眸を
伏せるばかりである。

「…すまない」
潜めた、それでもはっきりした声音で
レンが キョーコを覗きこんだ。
天使には珍しい、昏く…だが甘い瞳が
キョーコの視線と重なった。
「何か、悩みがあるようなら…
俺で良ければ、聴くが?」

 反射的に、ビクリと躰を震わせ
レンを見上げるキョーコ。
(…私が… 悪魔に取引を
持ちかけられたと …この人が知ったら…?)

 人間性が、好かれないと言うならまだ良い。

(私が…それに 迷っていると 知ったら…?)
 
イヤ…だ。
傍にいることすら、拒否されるほどの
嫌悪で レンに見られたら。
イヤだ…イヤだ…いや…。

自分が、天使の中では異端であると
承知している。ミモリのような、全身で
愛するだけなど、できない。
 憎いと言う感情を、持つことが出来てしまう。
 こんな 醜い 自分だけは
レンに知られたくない。

 純白の羽の下で眠る、鋭利な自分の心。
 強靭なレンは、慈悲でそれを見逃しても
決して 己の中でキョーコの存在を 
認めなくなるだろう。

 紅い唇を開きかけ…
キョーコは、また固く口を 結んだ。

 強く振った頭のせいで、優美な金髪が
顔へとかかり、その表情を覆い隠す。

「…言いたくない、という事か」
 泰然と変わらぬ レンの様子は
キョーコへの負担を、考えたものだろう。
軽い吐息と、手にした書類が
パサリと 頭に落とされた。
「仕方がない。今日の仕事はここまでだ
そのかわり、残りは君のノルマだ。…いいね?」

渡された紙片を、ぎゅっと抱き締め
俯いたままのキョーコが、小さく頷いた。


(今…事情を話したら…
この人は聞いてくれるだろう… 

でも、そうしたら ミモリは?
あの男を信じきっているミモリ…
 大好きな親友の為になんて、いい訳
をして…彼女を 傷つけるなんて…
できない…)

この時、キョーコを厳しく問いつめておけばと、
レンは後まで後悔することに
なるのだった。

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既にオリジナルに入っています(^_^;) コミックスで
書き下ろしプロモ編全話なんて 入っちゃったらどうしよう