生誕宴

「お帰り、花月。改めての祝いの席だ」
 鍵を取り出し、差し込む前に開かれた
我が家の玄関。
 神出鬼没と陰では言われているらしい、
元風雅親衛隊の二人が、大きな花束と共に
出迎えてくれた。
「………なんで、居るの?」

 呆然とした花月の声は、
『部外者が どういう理由でここにいるのか』
という問詰めではなく、純粋な疑問形だった。

 
 花月の疑問も、最もである。
 HONKYTONKで、新年&カヅっちゃん
お誕生日おめでとうパーティ(主催:銀次・
スポンサー:蛮を除くその他の面々)が、催され
そこから帰り着いたばかりの今。

 …つい先ほど、店の前で別れたはずの
十兵衛と俊樹が 何故 自分の部屋に
いるのだろう。
 しかも、テーブルの上には
スモークサーモンや、ローストビーフ、
シーザーサラダといった、簡素だが豪華な
オードブルが、何本かの酒壜と共に
並べられている。
「情報屋に、パーティーが終わる おおよその時間を
聞いておいて、デリバリーを頼んでおいただけだ」

 素直に驚く、花月の様子を、
横目で微笑し、
グラスをセットしながら、答えを教える俊樹。

 「…でも、さっきお祝いして
 もらったばかりだよ?」

 花月の掲げた紙袋には、
花束やらぬいぐるみ、スカーフといった
『成人した男に贈るのってどうよ?』
とツッコミを考えてしまうプレゼントが、
これでもかといわんばかりに、詰まっている。

 十兵衛と俊樹が 祝ってくれるのは嬉しいが、
半徹夜明けを押してまで、なぜ
連続で、という疑問が浮かんでしまっていたのだろう。
「すまない、貴様が疲れているのは承知していたのだが
…花月がここに、存在してくれている事を
感謝したくてな」
「俺も同様だ。お前と迎える事のできた
新年と、お前が生まれて来た日を
祝いたかった。…できれば個人的に」
 
 最後の一言から察するに、十兵衛と俊樹は
共謀して ここを訪れた訳ではないらしい。
花月でなくば、気が付かないであろう程度に
苦々しげな表情が浮かんだのは、誤算と
『俺がここに来なければ、コイツは花月と
二人きり…!』
と二人が考えたからだろう。 互いの行動を棚上げした、
その様子に、小さく花月が吹き出した。

「花束は筧から。料理は俺のセッティングだ。
…事後承諾ですまないが、付き合ってくれないか?」
 
 親愛の情に溢れた、二人の言葉を、
花月が無碍にできるはずはない。
 虚空を払い、優美な曲線を描く黒髪が
サラリと肩からすべり落ちた。
「ありがとう、嬉しいよ」
 
 斜めにコクビを傾げ、二人を仰ぎ見る花月。
 自分達の存在を、認めてもらえる誇らしさが、
どれほどの力を持っているかなど、気付かない無邪気さに
何度でも、十兵衛と俊樹の心を奪う。

 
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