生誕宴2

 すでに支度を終えた俊樹が、花月から紙袋を受け取り、
部屋の隅へと運ぶ。
 追いかけるような形で、靴を脱ごうとした
花月の足元へ、十兵衛が跪いた。
 無言で花月の手を、自分の肩に置かせ 捧げる持つように
踵に手を伸ばす十兵衛。
「え、何? わ…靴ぐらい、自分で脱ぐよ」
 慌てて体制を整えようとする花月だが、すでに片足を持ち上げられた状態では
バランスも取れず、逆に十兵衛に倒れこんでしまう。
「気にするな。 俺も筧も 後のことを考え、
先程のバカ騒ぎをセーブしていたが、お前は違うだろう?」
「そういう事だ。 休もうという所を邪魔したのだから、
今日ぐらい、祝いもかねて 俺達に全てを委ねてくれ」
 引くつもりのない、二人の言葉に
花月は小さく吐息を尽き、頷いた。

靴を脱がせ終えた花月の手を俊樹が取り、居間のソファー掛けさせる。

 席までエスコートされる面映さに、
うっすらと頬を染めた花月は、いつもに増して
庇護欲をそそる。
 まして、安心しきっている二人の前だからであろうか。
あどけないばかりに向けられる笑顔が、
媚香にも似て、十兵衛と俊樹を惑わせる。

 ぬるま湯を張った盥を手に、正面に寄った
俊樹が、膝付き 花月の薄手の靴下を
脱がせた。
「…あの…俊樹?」
「足ツボを刺激してやる。…少しは
疲れが取れるだろう」

 丁寧に湯の中に落とされた足先。
体温より若干高めのぬるま湯は、強張った
足に心地良かった。
「ありがと、俊…ひゃうっ」
 礼を述べかけた花月が、首筋に触れた
奇妙な感触に、悲鳴を発し振り返る。
 ソファの背後から差し込まれた、十兵衛の掌だった。
 普段、長い髪で隠されている花月の項部分は
必要以上に敏感で。
 反射的に竦めてしまった肩が、頭部との隙間に
十兵衛の手を挟み込み、却って首筋に
密着させてしまった。
「やはり、気が滞っているな。凝りをほぐしてやろう」
言うなり、首元から動き始める指先に、
花月が体を竦ませた。
「あ…や!、くすぐった…」
 花月の事を知り尽くした十兵衛は、
弱い所を的確に突いてきている。
細い頚から、項、背筋へと這い回る、
感触に 花月が身をよじり、ソファの隅へ
逃げ惑う。

 「花月、湯が零れる。 じっとしていろ」
俊樹が掴み、持ち上げた片足首のせいで重心が
腰後ろにずれ、半ば寝転がるような形で、
 ソファの上から身動きがとれなくなってしまう花月。
「あぁ、ここも凝っているな」
 転がった為、正面を向いた花月が、十兵衛を仰ぎ見ると同時に、
十兵衛の指が耳朶を挟み込み、頬を包む。
 
 無意識のうちに、見詰め合うようなポーズを取っていた
十兵衛と花月に、内心舌打ちをする俊樹。
 そうはさせるか、とばかりに湯の中で揉み解していた
花月の脚の、甲から指へとその手を滑らせ、
ついでとばかりに指股を、丁寧にまさぐった。

 足指の間など、他人の手には触れられたことない
場所で、花月は必要以上に、刺激に反応してしまう。
「ん… 俊樹…そこ…は もう…」
「もう、なんだ?」
「あの…いい…から…」
「…花月、この傷はどうした?」
 「え…傷?」
 俊樹の落とした視線の先には、薄く線の付いたキズ跡。
足甲の中心からずれている上、痛まなかったので
花月自身ですら、気付いていなかった。
「花月! ここにもケガ跡があるぞ」
 眉を顰め、首と顎の境目の柔らかな肌目を、十兵衛の手が辿った。
 そちらは身に覚えが有る。先日 護り屋として仕事をした際、
何を勘違いしたのか、終了時にクライアントが抱き付いてきて。
 穏便にプロポーズを断ろうとしたのだが、自分がフラレるとは、
微塵も思っていないらしい、御曹司の抱き締めを、振り切った時に
付いた傷だった。
 …言えば、この二人がどんな行動に出るか予想がつく花月には、
首を振るしか、すべはない。

「貴様は相変わらず、自分には疎い」
吐息を付いた十兵衛が、云うなり 花月の顎先を持ち上げ
怪我を負った皮膚に、舌を走らせる。
 驚愕に、目を丸くする花月の意識が定まらぬうちに、
今度は俊樹が つま先から傷跡を舐め始めた。
「や… ちょっ… 待って 十兵衛、俊樹!」
 消毒のつもりなのだろうが、どう取っても
背徳的としか思えぬ二人の行動に、血が昇る。
「離してよ!」
「…お前が、自分をおろそかにするなら、俺達が
大事にするまでだ」
「傷ひとつ、残したくないというのは、俺達の傲慢かもしれん。
だが…貴様が生まれて来た日ぐらい、その身を厭わせてくれ」
 
 恥かしさから、白い頬に朱を走らせ、うっすらと涙ぐんでいた
花月が、しばらく時を置き、僅かに頷いた。
「…ぅん…。ゴメン、ね。心配…してくれるのは、わかってるから」
 いつだって、十兵衛と俊樹の目が、自分を追ってきているのには
気付いていた。
 ただ、自分にはやらねばならぬ事があるから、と
わからぬフリをしていただけで。

「…それならば良い。脚はこれ以上ほぐしても、逆効果だな…
筧、そちらはどうだ」
「こちらも、気の停滞は無くなっている。…貴様の用意した、
酒で改めて祝うとしよう」

 「「誕生日 おめでとう」」
 祝いの言葉を素直に喜び、杯を重ねる花月は、まだ気付いていない。
 十兵衛と俊樹、二人が傷跡を舐めたのは、当然下心からで。
大人しく引き下がったのも、
失敗の結果に終った行為を、情に訴える作戦に切り替えただけだと言う事に。
「貴様もこれで成人の儀を迎えたわけだな」「この酒は、とある地方の
祝い用だ、一口呑んでみろ」
 都度、理由をつけては花月の酒杯を空けさせる、十兵衛と俊樹。
 花月が、二人の行為の意味を勘付くのが先か、潰れるのが先か。
3者の思惑は、宙に浮いたまま、宴会の夜は更けていくのであった。



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キリリク17000 柊萌音様の「小部屋タイプ花月誕生日話甘風味」です。
…やばい…甘くないよ…この3人(^_^;) なんだか互いの隙を狙いあってるし…。
せっかくのお初な、小部屋風雅のリクを頂きましたのに、ご期待に添えられず
申し訳ございません。 (小部屋でリク頂いたのは、初めてなんで
嬉しかったのは本当なんですよ〜)