「らしさ」の勧め(下)


 
(しまったーーーーっ!
十兵衛さん は 気配でわかるんだ)
「…少し 花月の気に
似てる…が…」
 語尾が曖昧なのは、感じ取れるオーラが
女性のものだからであろう。

 ばれちゃったよ?とばかりに
花月に伺うレン。
 繰り返し『NO』のサインを
送る花月の必死ぶりに、更に護ってやろうと
決意を固める。
「そ、そう 俺の友達が
いるんだ! 花月さんとは関係ないよ!!」
「今、誰も いないと
言っていなかったか?」
「え、あ、いや 花月さん関連は
誰もいない という意味で…」

布地の奥で、身を強張らせた花月が
必死で心の声援を送る。
(嘘付かせて、ごめんね。
…でも、頑張って!!)

「…レンの友人か」
「そう! すっごく
シャイで 恥かしがり屋で
男に会うと緊張して、ガチガチに
なっちゃう子だから、今日は 帰って」
「そんな人間が、無限城で暮らせるのか?
…俺達VOLTSも、顔も知らぬ相手では
いざと言う時、庇えないからな。
挨拶ぐらい させてもらおう」

そう言い放つと、俊樹が大股で
寝台へと向かう。
 瞬時に、踵を返し追いかけるレンだが、
リーチが違う。
 俊樹の肩をつかむより先に、
カーテンは明けられようとしていた。

(や、やだ こんなカッコ
見られるの!!)
 身に纏うなら、あまり防御にならないと
判断した花月は、カーテンを離し シーツにくるまる。

「…初めまして、お嬢さん?」
俊樹の深見のある声が、布越しに響く。

 正体がばれないよう、俯きながら
小さく 会釈する花月。
心臓が、秒単位より早く 脈打っている。
早く、 カーテンを閉じて 出て欲しい。
こんな 恥かしい格好、見られたくない。
 息を潜め、ギュッと固まる様子を
ものともせず、俊樹は 尚 近寄る。

「VOLTS新入りの人間だと言うなら、
…顔ぐらいはみせて もらいたいものだな」
 シーツを覗きこむよう、屈む俊樹の声は
幾分か 笑いを含んでいる。
 本気で怪しむというよりは、コチラの
反応を 楽しんでいるかのようだ。

(純情そうな、女の子に絡む親父か!)
とツッコミたい花月だが、今は適わず。
 そこに入る救いの手。
「だ、だから 恥かしがり屋さん何だってば!
あらためて 朔羅さんの所には 挨拶行くよ」
 必死のレンの声だが、十兵衛は否定する。

「俺達に ろくに挨拶もできん
新入りなど あやしくて 姐者になど
近づけられんな」
「こ、この人は あやしい人じゃないよ!」
「なぜ、 断言できる?
無限城に出入りする者は 多々居るが
そこまで 隠れようとする者が、不審に 思われても
当然だろう」
「…うっ」

 苦境に陥ったレンを、これ以上困らせるのも
イヤで 花月は そっと シーツを外した。
「…! か、かづ…」
「かづ?」
 思わず名前を叫びかけたレンだが、
振り返った十兵衛に 舌を止めた。

「カヅミ…そう、俺の友達のカヅミちゃん!」
(…ベタだ…)
 必死なレンが健気だが、ここまで来ると
開き直った花月が、心中涙を拭う。

「か…かずみです。レンの所に…
遊びに 来た 友人です」
声の質も変わっているだろうが、
やはり ばれたくない 気持ちの大きい
花月は、レンのベタに沿った
挨拶を、親衛隊に向けてする。

勿論 本人は 無意識だろうが
その 頼りなげな様子は、この上なく
周囲の庇護欲を誘う。
「レンの友人にしては、随分タイプが違うな」
 頬を染め、スカートの裾を
握り寝台に座る花月を、値踏みするよう
見詰める俊樹。
「…そんなに 震えずとも、
何もしない」
 見えぬ双眸で、視線を外した
花月を捕らえる十兵衛。

「も、もう疑いは晴れただろ!」
3人の間に割り込み、レンが背で花月を庇う。

「あぁ、…邪魔したな レン」
「そうだな、そろそろ行くか 雨流」

 揃って、出口に向かう 二人の広い背中。
緊張を解き放ち、安堵の吐息を付く花月。
 瞬間、その声を聞いたかのように、
扉前で 十兵衛と俊樹が 振り返った。

「良く似合っているぞ 花月。だが、無限城へ
遊びに来たと言うなら、俺達の前にも
顔ぐらい出してくれ」
「その格好をしているのが、レンの前で
良かったな。…他の男の前でだったら…
俺達が 何をなしていたか 想像して
置いた方がいい」

 これ以上はない、爽やかな笑顔で
出ていった 二人の最後の台詞に
空間は 暫し 凍りついていた。

「…や、やっぱ 気付いてたんだね」
「-------あっの!! サドッ! バカッ!!
ろくでなし〜っ!!」 
 切れたように、叫ぶ花月だが、
…ビジュアルが ビジュアルだけに 迫力は
欠ける。 
 むしろ、とびきりの美少女が 枕にヤツ当たり
している光景は…なんというか 微笑ましいほど可愛い。

「花月さん!」
「…え?何 レン」
とりあえず、自分を取り戻した花月が
恥ずかしげに くしゃくしゃにしたシーツの
皺を取る。
「俺… 俺さ、 あの二人からも
花月さん護れるぐらい、強くなるから!!」
 男(?)らしく、拳を握り 花月に誓うレン。

…とりあえず、今回の 源ジイの
作戦は 大失敗だったらしい。
 女らしさどころか、逞しく育つ決意を植えて
どうする。
 また、おかしな事を考えつかぬよう
祈るばかりの 花月だった。