幕間劇(まくあいげき)


今までと変らぬメンバーに、いつもと変らぬお茶の時間。
 ただ、花月の座る位置だけが 普段と違っていた。

「なぜ、そんな壁際にはりついてるんだ?」
わずかに笑いを含んだ、楽しげな口調で俊樹が尋ねる。
 聞かれた花月は、小さくかぶりを振って
意味は無いよと答える。

「ならば、何故 距離を置いている?」
何事もなかったような無表情で、 差異を尋ねる十兵衛。
 嘘の苦手な花月は、うん…とだけ答えてうつむいた。

「やれやれ、だな。 俺達はすっかり花月に警戒されてしまったらしい」
泰然としながら、少し困ったような俊樹の声に、
(当たり前だ!)と内心 反論する花月。

 いつもと変らぬ生活をしていて、いきなり
誰より大事に思っていた、同性の友達二人が
『お前を足元にひれ伏させ、泣かせてみたい』
と揃って言ってきたら、こちらにどう対処できるというのだろう。

 自分が何かを言えば、この緊迫感で保たれている
危うい関係は、崩壊してしまう。
 大好きで、誰より傍にいて欲しい二人なのに、
誰より、怖い。そんな花月の葛藤すら、今の二人には楽しげだ。

「…だが、その感情は正しいな」
底に残忍なものを秘め、十兵衛が唇の片端を釣上げた。
「俺達の望みを、知っているか花月?」
唐突な問いに、花月が双眸を上げる。

「…簡単だよ。 お前に殺される事だ」
扇情的な、俊樹の表情と声音。

 多分、今の自分の顔は これ以上なく間が抜けたものに違いない。
言葉は脳に浸透しても、意味が判らないのだから。

 否定をしない十兵衛も、同じ言葉を発するのだろうか。
なんとも言えない表情で、二人を見上げる花月。
「な…僕に… 殺される…って」

 絶対の信頼関係と呼ばれていた、風雅三人がそれぞれ
一度離れてしまった事で、より深く結びついたと思っていた。
そんな感傷は、自分だけだったのだろうか。

暗い絶望を含んだ花月の様子に、悪魔を思わせる、優しく危険で、魅力的な
声が返る。 呆然としている花月には、
もはやどちらの言葉なのかも、判別が付かない。

「…違うぞ、花月。 俺達はお前を憎んだことなど
一度たりとて無い。 欲しくて欲しくて たまらぬ存在であったお前を
渇望していたことも、その為に 全てを投げ出しても構わないと言う思いも、
本当だ」

「だが… 気付いてしまった。 貴様は高みに昇れる 存在で有ると言う事に。
俺達が貴様を庇い、死んでも 幾らでも次の者が見つかるだろう。
 貴様を守り死ねる事を、誇りと思い、またそうする存在が。
…あぁ、そんな顔をするな。 それは貴様の罪ではない。
ただ、俺達もそんな数多い殉教者の一人に なってしまう事が耐えられないだけだ。」

「そう…お前にとって、一生忘れられぬ存在を望むなら…
 誰より傍にいて、お前を理解し、…裏切る。 そしてお前の手で殺されれば
永遠に 俺達の魂に束縛されるだろう?」

陶然と、花月の髪に 手を伸ばす俊樹を、邪険に振り払い、
「勝手なことばかり、言わないで貰える?」
 静かな声音に、深い怒りを込めて、十兵衛をにらむ花月。
 刃を含んだ花月の声にも、十兵衛の表情は変らなかった。

「それが嫌なら、俺達から目を離さずいることだ」

「お前が俺達の身を案じ、離れようとしても もう無駄だと思い知ってくれ。
 お前と言う監視がなくなった瞬間に、俺達は 花月に殺されるための
あらゆる手段をとりかねない。…お前に 俺達という存在が残せるなら、
この世界ぐらい いつでも破滅させてやる」
 
 甘く響く、低音の殺し文句。
根底に したたかなものを秘めた男達が語る、極上の口説きは
聴く者を夢見心地にさせる、狂悪で身勝手なものだった。

 この上無く、幸福そうな 侍と騎士。
親衛隊と称する、一番の護衛二人が こんな危険人物だった時、
自分はどうしたらいいのか、誰か教えて欲しい。
 
 枕を抱えて、現実逃避を計る 花月であった。
                      (終)
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はしば様にお嫁に頂いたイラストに、お礼と言っては図々しいのですがムコ入りさせて頂きます。
小部屋バージョン三人でOKということで、またしてもちょっとイッちゃっております、
攻め二人の話をお許し下さい(^^;)