言葉の効用2

(…モーコさんは 反対かぁ)
即座に却下された 『プリーズラブミー部』だが
それでも、親友同士らしい会話が出来た事で
思わず頬が緩んでしまう。

 カチリと折りたたんだ携帯の後に、
クスクスと笑う蓮の姿が見えた。
「…何か 可笑しいですか」
「…いや… プリーズラブミー部は
俺もやめた方が いいと思って」

 最近になって、互いに心の壁が低くなって
きたので、気軽くキョーコも言葉を返せる。
「どーしてです? 命令形より、丁寧に
プリーズ付けた方が謙虚じゃないですか!」
「…実地で 教えてあげようか?」
腕を伸ばし、キョーコの横に手を置く蓮。

 長身とロビーの柱に 挟まれ
閉じ込められた形になった、キョーコが
目を丸くする。

「あの…敦賀さん…?」
疑問げなキョーコを無視し、蓮が僅かに屈んだ。
キョーコの耳元に、端整な顔が近づく。
「…プリーズ
…ラブ ミー…」
 背中を落雷のように伝う、甘く、低い声。
引き攣り、見上げるキョーコに
余裕の表情で、蓮が微笑んだ。

「クス… ほらね、ラブミーだと
シャレになるけど、これじゃ口説き文句だろう?」
FANの間で、魅惑の眼差しと呼ばれる
蓮の視線が、キョーコへ突き刺さる。

(ば…馬鹿! 何 ドキドキしてんのよ 私ったら!!)
 何か言い返してやろうと、口を開きかける
キョーコより先に、蓮の後頭部にスパコーンッと
小気味良い音が響いた。
 丸めた台本で、蓮の後頭部を叩いていたのは
彼のマネージャだった。
「……」
不機嫌そうに、睨みつける蓮を尻目に、もう一度
軽く 頭を叩く。
「…何の会話をしてたのか、知らないけど
今の体勢は どー見てもセクハラ。社内入り口
ロビーで、そーいった真似は厳禁」

(…ロビーじゃなくても、厳禁です!)
さすがに そう突っ込む訳にもいかず、
曖昧に キョーコは、引き攣った笑顔を作る。

「さて、ついでに 次の仕事時間迫ってるから
このまま 出るよ。 じゃ、お先に」
にこやかに手を振るマネージャーと、引きずられてく蓮。
 穏やかな表情で、見送るキョーコ。
二人の姿が見えなくなった途端、キョーコは
ズルズルと、柱凭れ へたれこんだ。
(び、びっくりした〜)
 心臓が、まだドキドキしている。

とりあえず、周囲がこれだけ反対するのだから
『プリーズ』は 諦めようと決意するキョーコ。
 一時 漂っていた 微妙な空気は
既に 記憶から削除されてしまっている。

 もっとも、蓮自身も「反応が新鮮で
面白かったから、からかっただけ」としか
認識していないのだから、二人の仲の発展は
まだまだ先の話であった。