素直に返事をするしか、この恐れから逃げられぬと
わかっていても、悔しさが先立つ。
 唇を軽くかみ締め、顔を背ける花月の細い顎を、
十兵衛の武骨な指が、圧倒的な力でひき戻す。
「花月」
 念を押す為の、最後の囁き。

「…自、自分で脱ぐから… 離し…て」
弱々しく引き攣った花月の声に、
十兵衛はゆっくりと己の身を引いた。
「良い子だ」

優しい響きの中の、剣呑な口調。
最後の力まで奪われてしまいそうで、花月は懸命に精神状態を安定に
引き戻した。

 舐めるような二人の視線が、体に焼きつくようだ。
今更なプライドが、女の子じゃあるまいしと
十兵衛と俊樹に、顔を叛けるよう頼む事も出来ず 注視の中で
ジーンズに手を掛ける。

 自分の長めのシャツに、これほど感謝した事はなかった。
いっそ夜着にまで着替えてしまいたかったが、
今の二人の前で
そんな勇気も出てこない。
 Tシャツ1枚の、慣れない姿は
 とてつもなく無防備になったようで
花月の不安を倍増させた。

 透明感のある花月の、優雅な物腰は 本人は気付いておらずとも
目にしたものを虜にし、翻弄する。
頼りなげに、無意識にすがる視線を投げる花月は
妖しいまでに、凄艶だった。

 十兵衛と俊樹、二人の歪んだ所有欲を
充分ざわめかせるほどに。

 いつもの立ち居振舞いに、泰然とした余裕、慈しむ視線。
何一つ今迄と代わっていないのに、
本能的に二人の歪みを察知した花月が
小さく震えた。

「…もう…寝る…から」
(帰って欲しい)との後半部を呑みこむ花月。
 訴え語りかける視線にも、
精悍で、危険で、傲慢な男達は その場を動かない。

「貴様の看病に来たのに、ここで還ったら、何の意味がある
寝つくまで、見てやる」
「花月が寝るなら、俺の役割はないがな。
…だが、筧と二人残して行けるほど
俺にも余裕は無い。残らせてもらおう」

 逆らって、これ以上 二人の凶暴な衝動に
悩まされるよりは、と無言でベットに入る花月。

 完全な警戒態勢を強いる二人のコンビネーションの中、
どうやって気力を回復させろと 言うのだろうと
途方にくれながら、花月はシーツを目蓋まで引き上げ
目を瞑った。


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いつもいつもお世話になっている(本当に^^;)nemo.の七堂さんに捧げたお礼小説。看病編とか言っておきながら、全っ然看病してません。
…むしろ、花月の気力を奪いまくってる鬼二人…(笑)?
 とりあえず、頑張ってわが身の貞操を死守してくれ花月!