情事の後の、けだるさとだらしなさは別物だ、と
寝入った女を眺め、十兵衛は眉をしかめる。
 花月なら、こんな時でも つつましやかに
布団を身に纏い、流れる髪も見苦しくないように
整えるだろうに。
 
 十兵衛が訪れるたびに、女達はどよめく。
『今日は、誰が選んでもらえるのか』と。
彼は決して同じ女を呼ぶ事はなかった。
 それが、プロ意識を持つ女には「自分をもう一度
選ばせたい」という願いを呼び、仕方なく娼館に身を
落とした女には、誠を持つこの人に、一度でいいから
抱かれたいという意識を抱かせる。

 今度も、髪が長いだけで選んでしまった女だった。
いつも、無意識に どこか花月に似た所を探してしまう
自分に、自嘲する。
 花月を忘れる為、ここにきているというのに。

 嬌声も、慣れた行為も 過ぎれば嫌悪感が先立つ。
女が興奮すればする程、おのれの中の何かが
「違う」と叫び、彼の興を削いでいった。

 汗ばむ肌に舌を這わせ、脳裏に浮かんでいたのは、
楚々とした花月の幻影。
 我を失う女を目前に、
心はずっと すすり泣く花月を描いていた。

「…っく」
強く叩いた壁音に、女がピクリと揺れたが、
目は覚まさなかったらしい。

何度と切り捨てようとして思い。
 はじめて出会ったときから、輝いていた花月。
幾年かの月日を越え、今の花月は 丸かった頬が薄くなり、
唇が桃色から薔薇色へと変りつつある。

------------何故だ、何故俺の邪心よ 消えん!
 女の服をはぐ時、想像したのは 剥いた花月。
嬌声に猛る女を見て、憎いほど涼しげに微笑む花月が
一層鮮やかに思い出される。

 消そうとすればする程、心の奥で燃え盛る花月への思いに、
理不尽にも怒りが止まらない。
 このまま近くにいれば、いつか
一番大事な、守るべき人を己の手で喰い殺してしまうかもしれない。

花月に群がる者、全てに嫉妬や怒りをぶつけ
正気を失うのが先か。

「風鳥院」を守る「筧」が、その頭首を 醜い情念で殺したとあっては
永遠に語り継がれるだろう。
血筋を辿り、家を再興したとしても、その絆は永遠に絶たれ。
「…それでも、貴様が手に入るなら…」


自分を兄とも慕う花月。 それがこんなに辛いとは。
----------俺は いつか地獄に落ちる。
願わくば、その黄泉路に、かの最愛の人を 撒きこまぬよう。
相反する 己に 十兵衛は独り、嗤った。 

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浮気しながら、相手に大変失礼な十兵衛です(^_^;)  大事にしすぎて、手が出せない→他の女になら
いいだろうと、つまみ食いする十兵衛。が、小部屋バージョン侍。
るー子さんの、姫sideを見て、「カワイイ!!抱き締めて守ってあげたい!!」と感想を
抱きながら、書いたものはコレ…。…鬼畜は十兵衛でなく、私か…?

  これって、図々しくも合作と名乗っても良いのでしょうか? ドキドキ
いい夢見させていただけました〜