sewing ear

「そういえば、沖田さんって どうして副長になりたいんですか?

トントンと、書類をまとめ整えていた 山崎が何気なく問う。

「男が上の地位 目指すのは 普通だろ?」
耳の穴、穿るフリして 聞き流してやろうとしたが、
今日は どうやら 引き下がらないらしい。

普段 ぼっとしてるくせに 何気に本質を突く
山崎が 何を聞くのかと 周囲の連中の耳も
そばだってやがる。

「そりゃ 普通ですけど 沖田さん今だって三番手ですよね。
しかも 二番手の土方さんがいようがいまいが
仕事さぼるし 昼寝してるし オヤツ盗むし…」

あ、こいつ 俺が昨日の 塩大福1個 盗んだ事
根に持ってやがる。 

「だったら、今でもそんなに 変わらないじゃないですか」

そう、変わらない。
だけど、 万が一最期の闘いを 迎える事になった時。
…あの二人は 俺を逃そうとするだろうよ。

俺だけじゃねぇ、山崎、お前だって。
他の皆だって。

俺は、それに 従いたくないだけなんだ。
最期を守る局長と それを見届ける副長。
局長は、副長をも逃がそうとするだろうけど、
副長なら独断で ついてく事も許される。

だけど、今の俺は。
「逃げろ」と命じられたら 盾になることも
許されず 逃げる事しかできない。
あの 二人は 優しいから、 俺に戦えと命じられない。
 年下だから だけという理由で。

だから、俺が副長になったら。
局長を守るという理由で、最期まで 傍にいられる。
俺の方が 上だからという理由で
土方さんと 共に戦うことだってできる。

そんな理由、恥かしくって お前達になんて
話せるもんかぃ。

「決まってるだろィ。…給料の差」

「あぁなるほど」
思いっきり納得してる 山崎と、 ついでに
周囲の 傍観者達の 頭を 軽くはたいて
俺の手元の資料を 山崎に押しつける。

「質問返答代。 俺の資料まかせたぜ」

「え!沖田さん それは ずる…」
叫びかけた 山崎へ 俺は振り返り
にっこり笑った。
あ、固まってやがる。 そんなに俺の笑顔は凶器かい。

ま、仕方ない、後で塩大福
差し入れてやるとでもするかい。

見廻りには、絶好の晴天だ。


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タイトルは造語 ソーイングセットのソーと
耳のイアーを合わせて
耳を縫え⇒耳をふさいどけってな
感じっぽく