探索話 オマケ

「ばかばかばかばかーっ!」

潤んだ双眸で、罵倒を繰り返す花月。
普段なら 冷静で臓腑をえぐりかねない台詞すら
笑って 吐けるのに、…よほど頭に
血が昇っているのだろう。
今の花月の唇から 零れる言葉は
どれも 小学生レベルだ。

闘いにおける冷静さは、必須だが
今の相対は 100%自分に利がある上
冷静さを失おうが 勢いのまま突っ走ろうが
勝てる相手。
故に、留まることなく 怒りにまかせて
叫んでいるらしい。

同じような 言葉の繰り返しの後
「…ばかっ」と
しゃくりあげるように 一言。

(うっ… やばい…)
ひとしきり怒鳴った後、リミットが外れた
事を 恥かしがるように 俯く花月。
こんな場合ではないと、頭では理解しているが…
俊樹の脳裏には一言。
…可愛すぎる…

緩みがちになる口元を、覆い 己の
行いを戒めようと、さりげなく 目線を外す。

時、すでに遅し。
「…何 にやついてんの」
背景に オドロ線でも背負ったような
花月の声。
が、花月の視線は自分ではなく十兵衛の方に
向っていた。
「いや…随分と 可愛い様子を 見せてくれると…」

(阿呆かーーーーっ思っても言うなっ!)
俊樹の ツッコミより早く、 瞬時に 十兵衛の手足を封じこめる、幾筋もの絃。
一呼吸もない間に、 クモの巣に
絡めとられた状態の十兵衛は、宙釣りに
されていた。
同時に 俊樹へも絃は跳んでいたのだが、
既に身構えていた 俊樹は
難なく かわした。

が、…それがかえってまずかった。
据わった目で、標的を自分にしぼった花月。
「お、俺は 可愛いとは 言ってないぞ」
「…でも 思ってたよね?」
にっこり

あぁ天使の笑顔は こんなだろう。
例え 背後に殺気が漂おうと、手に得物が
光っていようと。
逃げれば、増々怒りを煽ると判断した俊樹も
大人しく 捕まった。


「朔羅に言って、食事と水ぐらいは面倒
みてもらえるようしてあげるよ」

今度は殺気も消えた、本物の天使の笑顔で
部屋を後にする花月。

花月の「あの」姿での潜入に、風雅の姿が
見えぬのを疑問に思った相手も、こんな
やり取りが理由であるとは、さすがに
気付けなかったらしい。