傍観者

「…十兵衛、あれでは追い詰めるだけだわ」
見ていられず、花月の去った後
朔羅は 十兵衛を戒める。

 一人で生きると決めたように、闘いへと
身を委ねる花月を、十兵衛は責めた。

「何故 俺を
 つれていかない」と。

「足手纏いだというなら、いっそ
この場で 俺を殺していけ
 一度は俺を捨てたんだ。
…二度目は許さない」と。

 唇を噛んで、ただ 首を振りつづける花月。

「本当は、わかっているのでしょう?
花月さんは、…あの時 全てを失ってしまったから。
今 あるものは、なくしたくなくて必死なのよ。
…俊樹さんが いなくなった時だって」

 まだ、覚えている。
毎日毎日、自分を責めたてる様に。
反勢力の中へ、自分を追い込み
目の前の者を 全て殺害していた花月。
 血まみれで、冷酷で…誰より
美しい 風雅の指導者は、常に 
最後に呟いていた言葉は
『ここにも…いない』

「花月さんは、貴方を邪魔に思って
連れて行かないのではないわ。
 ただ、貴方を亡くすのが怖いのよ」
「姉者」
 訴える 朔羅を、十兵衛が微笑んで 押し留める。

「全て…わかっている」

『ならば 何故』と問おうとした、朔羅の唇が凍る。
 生まれた時から傍にいる、弟の 見た事のない嗤い。
背筋が、ぞくりとする。
 肉食獣が、獲物を定めた顔。

「理性では、理解していても
俺の 狂気が、正気を蝕むのだ。
 いつか、花月が俺の知らぬ所で
果てたら…。 そう思うと、いっそ俺の腕の中で
その息を止めてしまおうかと迷う」

「十…兵衛…」

「無限城での闘いで、俺は一度死んだと
同じだ。 …花月は 俺を見る度、無意識だが
自分が殺したという 罪の意識に苛まされ、
俺を死の影から 遠ざけよう 遠ざけようと 逃げるのだ」

 すでに、朔羅にではなく。
ここには いない 者への言葉。

「逃げられれば、逃げられるほど、
…俺の闇は 濃くなる。
俺が責め、罪悪感に拉がれている花月を見る事で
ようやく その闇が薄くなるが…」

 きつく握られた拳が、 微かに震えていた。

「それでも、花月を俺だけのものに
したいという 誘惑は 
消えてくれないのだよ、姉者」

 だから、自分が花月を責めるのを
邪魔だてしないでくれ、と言いたいのか。
 それとも、その前に 自分を止めてくれ
と言いたいのか。

 目の前に立つ男が、知らぬ者にしか見れず
朔羅が 短く 息を吐いた。

「…十兵衛 その思いは 成就しても
…何も残らないわ。…闇に、墜ちたいの?」
「…仕方、あるまい。
花月には打ち明けた。 俺の歪んだ思いを」

だから もう俺に近寄るな と告げた。
 影から お前を 守り続けるから、俺の存在を
消せと。
 
 そう言った俺に、花月は涙を流した。
逃げるなんて、ずるいと 俺を 責め。
ずっと一緒だと誓ったと、俺に抱きつき。

 逃げ場も封じられ、共に闘いにおもねく事も
許されず、それでいて離れる事も許されない。
…愛しすぎた思いが 
何もかも封じられ 憎しみにすら
変わってしまいそうだ。

「…私に、できることはないのね」

 朔羅の呟きに、十兵衛は首を振った。

「姉者が 見守っていてくれれば 充分だ。
風鳥院と筧の最期を招くかも知れぬ、愚か者を」

 これほど強く 惹かれ合いながら、何故
ともに歩めぬのか。 互いが大切すぎて、身じろぎできぬ思い。

 それでも。…それを見届ける 役目だけでもできるなら。
二人の傍に 自分は居続けよう。
 強く決意をした、朔羅は 音もなく 部屋を去っていった。

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…おかしいな…十兵衛 お誕生日おめでとう小説だった
筈なのに… なぜこんなに 暗い話に…。
十花一応 両思い。(本当に一応だよ) 

十兵衛も 花月も共にお互いを大事に思いすぎて
雁字搦めになってます。