僕の勇気

「あ…あのさ、つい 外で『坊』って
読んじゃったりしないように… その…
キョ、キョーコちゃんって呼んでもいいかな?」

 光が なけなしの勇気をふりしぼり、声をかけた相手は
被り物の頭の部分を外し、振り返った。
 汗が落ちないように、オデコ丸出しに バンダナを
撒いてるのが、また新鮮でかわいく見える。

番組の共演者でもあり、事務所の先輩でもある
ブリッジロックのリーダー 石橋光が収録後、キョーコを呼びとめての 一言。
 環境によって養われた習性で、礼儀を
重んじるキョーコは、慌てて頭を下げた。

「あ、お気を使って頂いて
申し訳ありません。 私の方こそ坊の正体を秘密に
って頼んだのですから、私の呼び方 言っておくべきでしたよね」
「あ、いやでも キョーコちゃんの場合、芸名に苗字
ないから『キョーコちゃん』としか 呼べないし」

 それでも許可をとってしまう辺り、自分はちょっと
小心者かもしれない。 しかし 本命はここからだ。
誰でも呼べる『キョーコちゃん』  ここまでは良い。

「でさ…お、俺の方もグループ同じ苗字で
3人だから… わかりづらいだろ?『光』って
呼んで欲しいんだけど」
「光…さん…ですか?」

(よっしゃーーーーっ おめでとう 自分!
乾杯 勇気を出した自分!!
いつも食事を断られてるけど 言ってみて
良かった〜っ!!
『キョーコ』『光』 名前で呼び合えるなんて
こ、恋人みたいだよな!)

 ガッツポーズで 喜びに震える
光の横を、メンバーの慎一と雄生が通りかかった。

「あ、じゃぁ俺も慎一でいいよ キョーコちゃん」
「俺は 雄生ね」

ミネラルウォーターのペットボトルを飲みながら、
手を振って 通り過ぎて行った二人。
 ぺこりと頭を下げるキョーコは、承諾の意志だろう。

…勇気を振絞った会話の後だっただけに、真っ白に燃え尽きた光。
同じ苗字というありがちな題材を使ってしまった故に、
今更 理由を変える訳にもいかず。

 我に返った時、懸命に自分に呼びかけるキョーコの
姿が目に出来た事が、唯一の救いであった。

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ま、まだ再登場希望の 光君…しかし 尚もキョーコちゃん気になりだしてるし…
無理…かなぁ…