適材適所

「何で テメェみたいな 奴にそんな アリス持たせたんだよ」  

ふてくされ、そっぽを向いて呟く棗。
ぐったりとソファーに 持たれる様子は、心底脱力しきっている。
小さな呟きだったが、充分相手に伝わったようで。
 軽いおしおきとばかりに、規則違反をした棗を 自らのアリスで
メロメロ状態にさせたナルは、にっこり返す。

「やだな、神様に感謝して欲しいほどだよ、 この能力を僕に与えてくれたこと」
「…ざっけんな」

据わった目で、睨む視線をチッチと舌打ちで 軽くかわすナル。
「想像してみなよ。仮に僕じゃなくて ペルソナタイプの人が、この能力を持っていたら」
 出された名前に、小さく反応を示す棗だったが、 それに気付かぬふりをして、ナルは続けた。
「もーこんなレベルじゃ すまないと 思うよ〜 あーんな事やこーんな事 人の弱み握るためだけに
放送禁止 倫理規定に触れまくること されまくり」
 笑っているが、トゲを含まれた言葉。
教師とはいえ、不穏分子扱いされかねない発言の多いナルは、 ペルソナのやり方を嫌っているらしい。

(…それが 言分けになるのか? 
アイツを例えに出しても、お前の性格には 問題ないとは言えないだろうが)

…目は口ほどに 物を言う と 昔の人は、上手いことを言ったもので。
そんな棗の無言の抗議に、今度はクビを 振って答えるナル。
「こ・れ・は 序の口。本当に怖いのは 僕がムキムキマッチョ アニキ系だったときだよ。
…想像してみてごらん〜 ムキッとした僕に メロメロにさせられる、君たち」

 考えたくないが、耳に入ってくる言葉が 否応なく その図を脳裏に浮かばせる。
(…いや すぎる…)
「そして、そんな僕が 更にナルシストで 自分の事を『アニキ』と呼ばせるキャラだったら…」
 お前も ナルシストの自覚が有ったのかという 内心のツッコミより、
『マッチョポーズを決めた筋肉男を、 目をハートにさせて 「アニキv」と群がる生徒たち』
という 背筋の寒くなる絵が、頭によぎる。

(…うーん子供に嫌な絵面を想像させちゃったかな)
血の気の引いた顔で、頭を抱えた棗に、ぺロッと小さく舌を出すナル。
流架や委員長が、遠巻きに応接間の様子を伺っているのに気付き、
棗を抱え、外へと 送出す。
「さて、…お迎えも来たみたいだし 今日のところは 放免」

   その後しばらく、ナルを見かけると 唇を歪め Uターンをする棗の姿が、
学園のあちこちで 見かけられたらしいのは後日譚である。