礼装のなぞ

「男だけ、単なる礼装っつーのは 手抜きだよな」
翼先輩の 背後で、頷きはしないものの
同意の表情を浮かべている学生が数人。
中には女の子もいるのだから、やはり
楽しむからには 徹底して雰囲気にのりたい
というお祭り気分だろう。
文化祭の後夜祭、天使姿の蜜柑を
高い高いと持ち上げた後、かがみこんだ翼が
悪戯っぽく笑う。
「だったらよ、 俺達のクラスだけでも
そのノリやっちまわねぇ?」
「…面白そう!ウチ、見たい!!」
身を乗り出す蜜柑。

「あの…止めた方が、良いと思うよ?」
三つ星でありながら、謙虚な委員長が
聴きとめた蜜柑の大声に、反応をする。
「何、チビ 反対するのか?」
「えっと、実行委員から 聴いた事あるんです。
何で男だけ、普通の礼装なのかって」
「え?ちゃんと訳ありなのか?」
 その場にいた人間の、ほとんどが
初耳だったらしく、周囲の視線が委員長に
集中する。
「どうしてなん?ウチも聞きたいっ」
せがまれるように、腕を掴まれた委員長。

周囲の注目に顔を紅くしながら、
応える委員長。
「その…初等部の 女の子の衣装は天使だから
ペアを着るとしたら、神様の衣装ですよね」
 
イメージとしては、真っ白な絹の
ゆったりとした 貫頭衣といった所であろうか

「まぁ、俺達が着るにはちょっとキツイかも
しんねぇけど、おチビさん達なら可愛くて
似合うんじゃねぇ?特にあんたなんか
ホワホワーっつー感じで合いそうだぜ」
「そ、そうでしょうか…
で、妖精の方の対になると、エルフとか
ドワーフの衣装になるんです」

こちらは、ベストに折れ曲がり帽子
短パンにぴったりタイツ…簡単な言葉で言うなら
白雪姫の小人の服装だ。
「…それは…ちょっと似合わない男も
居るかもね」
横にいた美咲が、翼を見ながら呟く。
本人も、反論しないのだから、
内心同意しているのだろう。

「え、なんで?ウチ翼先輩のそーいう格好
見たい〜」
無邪気に 顔をキラキラさせる蜜柑に、
委員長は小首を傾げ、なお続ける。

「うん、蜜柑ちゃん でもそれだけじゃ
ないんだよ。生徒がそういう格好するなら、
センセイも合わせなくちゃ駄目でしょ?
鳴海先生は、どんな服装でも面白がると
思うけど…」
「…岬先生、嫌がりそうだよね」
美咲の言葉に、頷く委員長。

「…それに…神野先生の…
神様の格好って似合うと思う…?」

その場にいた人間が、同時に浮かべる一つの言葉
『有りえねぇっ!』

「エルフの格好も…」

『似合わねぇっ!』
またしても、皆の心は一つ。


「いや、チビ お前のおかげで
長年の謎は解けたっ!っつーか実行委員
見なおしたぜ…」
爽やかに 笑う翼と、頷く周囲。

尚 その後1週間 すれ違う生徒が
時折クスクスと笑うと言う、不愉快な目に合った
ジンジンの御機嫌は悪かったらしい。