望みと代償

…満たされて行く。
 どれだけ敵を殺しても
満たされなかった心が。

…溢れていく 
己の乾いた 想いが。

もう 離せない。

僅かに震えた花月が、
逃げようとする気配すら 許せなかった。

 色事に不慣れな花月の
力が抜けるまで、十兵衛は花月を
貪り続ける。
 唇を強く結び、まだ拒絶しようと
する花月に くちゅり、
とワザと
水音を響かせ 刺激を与えた。
 腰へ廻した掌に、花月の体重が移る
のを確認した十兵衛が、ようやく
その口を外す。
 …はぁっと 切なげな 花月の吐息は
息苦しさから来ているものだとしても。
十兵衛には 己の充実に 注がれる
蜜でしかなかった。

「俺の心は…
鋼鉄だとでも思っているのか」
 捕食者の強靭な 微笑で、
花月へと問いかける 十兵衛。
 だが、それは答えを求めたものでは無かった。

 十兵衛は、怯えて首を振るだけの花月の、
軟らかな耳に やさしく歯を立てる。
 耳穴を嬲り、溝に沿うように舌を
這わせ、ぴくりと揺れる花月の 反応を
楽しむ十兵衛。 
「俺を試し 使えるか判断するつもりだったのか…?」
一層 強く 首を振る花月。

「試すつもりなんて…ない…」
ようやく 返せた声は、
必死で ふり絞ったもの。
囁きに近いものだった。

だが、それでも十兵衛の動きを
停めるには 充分だった。

「なら、なんのつもりだった?」
「…十兵衛が… これ以上 僕と一緒にいたら
駄目だから…。僕が、十兵衛に頼りきって
十兵衛を手放せなくなるから…」
 薄く滲んだ 涙が、花月の双眸を
覆い始めていた。

「十兵衛を…風鳥院の因縁に
撒きこんじゃいけないって…
わかってるのに… 
 これ以上十兵衛を好きになったら
どこまでも、一緒に居たく…なっちゃうから」

「それが 俺の望んだ道だ。
何度でも 繰り返すぞ花月。
俺は、花月を守る為に 生まれたんだと」

「ダメ…だよ
十兵衛は 幸せにならなくちゃ。

 僕だけが十兵衛を好きでも、僕は
幸せだから。…十兵衛は こんな所を出て
もっと幸せにならなくちゃ いけないんだから。
…僕の気持ちに気付いたら、十兵衛は
応えようとしてしまう…だろう?」


 花月にとって、重い静寂が訪れた。

「…思っていた以上に いろんな者から
守らねば ならなかったようだな」
 フゥッという 何かから解放されたような
十兵衛の吐息。
 柔らかく、厭きれたような…
それでいて 深い慈しみの含まれた声だった。

 自分のワガママをぶつけたせいで
十兵衛は もう自分を見棄てるかもしれない。
 空虚と絶望で 俯いていた花月の
眼前を、黒い影が 覆った。

「俺が 運命と思った相手は…
一目惚れ だった」

「…あぁ…十兵衛には
もう そんな人が 居たんだね…」
 優しく 哀しい 花月の返事。
 
「…今まで、周囲を はぐらかせていたのは
計算では なかったのか…」
 いらただしげに、こめかみを揉む
十兵衛の言葉の意味がわからず、顔を
上げた花月。

「俺が…運命という相手は
花月… お前しかいない」

「……僕?」

「俺の幸せは、お前と共にあることだ。
お前が拒絶し、…逃げても 
どこまでも 追い掛ける。
…それを 運命だと 貴様も
諦めて、受け入れろ」
「…嘘…」
「ここまで 鈍い相手に
無理強いしようとしていた 自分が
卑劣極まりないと 自嘲に陥るな」
「それは…十兵衛も 
僕を好きで居てくれたって…こと?」

 今度は 無理矢理ではなく、軽く指を添え
花月の細い顎を引く。
半ば呆然と、虚空に視線を浮かせた花月の
目蓋を、そっと指で閉じさせ。
 優しく重ねた唇で、十兵衛は応えを返した。


「俺の幸福を 望むなら
…いつまでも 俺を傍に 置いてくれ」


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1周年企画 キリリク第2段 ふーかさんの
「十花で。ちょっとHっぽいやつ!!!」リクです(笑)
プチ16禁と あったのですが、ぎりぎりのラインが難しく
メンタルでえっちっぽくしてみました。
御不満でしたら  精進します。
ただし そうなると 16禁越えて ただのエロに
なってしまう 気もしますが(^_^;)