指 輪

「コレ、やるよ」
足を止めた士度が、思い出したように花月へ振り返る。

軽く投げるように手渡されたのは、細いリングだった。
 環の部分は細めで、銀色。中央には
原石のままの、半透明な蒼い貴石が
埋め込まれている。

「わ…綺麗だね。士度のオリジナル?」
「あぁ、マドカにと思ったんだけど、
楽器弾く指に、コレはまずいかと思ってな」

 確かに、時価数億というストラディヴァリウスを
持つ手に、指輪は嵌め込めないだろう。
マドカ本人は無邪気に喜び、大事にするだろうが
周囲の視線は厳しいに違いない。
「かといって、俺が使えるデザインでもねーしな。
似合いそうだし、やるよ」
 清涼な印象を与える、、繊細な指輪は
花月の細く長い指にぴったりだった。

「これってお揃いだよね」
いたずらっぽい微笑を浮かべ、士度の胸元を飾る
ペンダントヘッドを指差す花月。
 
 意匠は異なれど、使われてる材質や
基本のモチーフは、同質なモノで。
 目敏いタイプなら、ペアであると
気付けるだろう。

「士度が付けるには、不似合いだし
捨てるのも勿体無い。…かといって他の女の子に
上げたりして、美堂君達にバレたりしたら、
何言われるかわからない。
…で、消去法で僕…ってとこかな?
いいよ、共犯者になってあげる」
 クスクスと楽しげに、指輪をかざす花月を、
バツの悪そうな顔で、見返す士度。

「…だからって、ゴミ箱代わりに
押し付けたんじゃねーぞ」
「うん、わかってるよ。
…ありがとう、大事にするから」
  士度は、気に入った相手にしか
物を贈ったりしない。 この指輪も
自分が上げても良いと思う相手で、
一番似合いそうだから という理由で
くれたのだろう。

「お礼に、食事おごるよ。
この後、空いてる?」

 花月に連れられたイタリアンレストランは、
カジュアルだけどサービスのしっかりした、
感じの良い店だった。 
 躾の行き届いた店員は、ペアの
アクセサリーを付けた二人を特上の笑顔で迎え、
しっかりカップル席に案内する。

『……俺は ここでもヒモ扱いか!?』
食べる前から、支払の図を想像して
ブルーになっている士度の姿が、そこにあったことは
触れないでいてあげよう。


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この二人は、気心知れた でも慣れ合わない仲。
マドカちゃんと親衛隊がいる限り、どうしたって
浮気になっちゃうからね(^^;)
 無理やり告白させるとしたら、
どちらかの死の間際ぐらいしか、思いつかないので、却下です。