RFSのRIO様からの 頂き物v

・らいばる2・


金色の前髪を照らす夕日が
現VOLTS幹部 遠当て使いの顔に濃い影を落す。

憂いに満ちたその表情は
日本人離れした髪そして瞳の色と相まって
端正な容貌を際立たせ

彼に このオフィスに入室がてら
こっそり ややミーハーな視線を送ってくる
女性幹部の姿も少なくはない。

そんな光景を横目に
マクベスはコーヒーを飲み下しつつ
傍らの女性に話しかける

「ねえ朔羅」
「はい」
「雨流があーんな顔してるのは何でかって知ったら、
彼女等はどんな顔するんだろうね?」

傍らで囁き合う2人の会話など耳に入らぬ様子で
ひたすら真剣に 窓越しに無限城の外
ある人物が住む方を見つめていた雨流俊樹は
ため息一つ吐くと身を翻し歩き出す。

筧朔羅は困ったように微笑しつつ、
自分の弟がいる向かいの部屋へ行く俊樹の背を見送る。

「花月が絡むと、よくあんな風になる子でしたから」

*   *

「筧。折り入って相談がある」

慣れない手つきで
視覚に不自由ある者向けにセッティングされた
パソコンのキーボードを叩いていた十兵衛は
友の声に見えぬ眼を上げ
ただならぬ気配に眉をひそめる。

「何だ、雨流」

憂いを張り付かせたまま、
じっと床に視線を落している俊樹。

そんな両者を 朔羅とマクベスは
廊下越しに
扉開け放たれた隣室から見守っている。

まだ始まらないの、と呆れ気味のマクベスが
2杯目のコーヒーに口をつけた時。

俊樹は意を決したように顔を上げ。

問う。

「俺に『たれ』について教えてくれ」
「? これの事か」

友のため速攻で差し出したそれは
いわゆる料理に使う
茶色の液体入ったガラス瓶。

瞬間。

飛針使いは壁際まで吹っ飛ばされる。

「誰がその『たれ』の事を言っているかこの阿呆が!!」

大袈裟にも村雨流の技を繰り出し
わななく俊樹をしらけた目で見やりつつ

「…なんで十兵衛はあんなもん持ってるんだろうね」

至極まっとうな疑問を口にするマクベスに

「笑師の教育のたまものですねv」

あの子もギャグってものが分かってきたのね、と
朔羅はふんわり 的外れな答えを返す。

「……違うのか」

憮然とした表情で身を立て直しつつ、

「違うも違わないもあるか!
俺がそのようなものの事をわざわざ貴様なんぞに聞くと思うかっそのくらい分かれ!!」
「では何だ!?」

至って真面目に(ギャグのつもりはなかったらしい)その身を案じた友に
吹き飛ばされたばかりか
「なんぞ」などという言葉まで投げつけられ
筧家の長男は憤りに声を荒げる。

「『たれ』だ『たれ』何とか! 雷帝が時折なるというあれだ!!」

「……雷帝、が?」

ぽかんと口をあけた十兵衛は
腑に落ちたように手を打ち

「『たれ銀』か」
「そう、そんな奴だ!」

その脳裏には 無限城で再会時
「十兵衛〜〜〜ひさしぶり〜〜〜v」と 間抜けな声と共に近寄ってきた
奇妙な生物の姿が甦る。

「たれ銀。あれは…光失う前、一度見た事はあるが…」
「雷帝は昔からあんな姿になる事があったのか」
「いや、VOLTSとして無限城に在った時にあのような姿になった事はない」

答えつつ、何故雨流が「たれ銀」の事など
こんな真剣な眼差しで聞いてくるのか ―

考え込んでいた風の俊樹は
そんな十兵衛の内心に生まれた疑問に答えるように
重ね問う。

「どうすればあのような芸当を身につける事が出来る!?」

間。

「……何故お前が『たれ』る技など身につけなくてはならないのだ?」
「花月のためだ!!」

向かいの部屋では「朔羅、コーヒーはもういいよ」「はい」等という会話が
和やかに行われている。

「……。…何故、『たれ』る事が花月のためなのだ?」

戸惑いつつも飛針使いの真面目な男は
最愛の幼馴染の名にぴくりと反応しつつ
必死な友の願いを理解しようと
懸命に頭を働かせる。

「お前がマクベスのためにギャグの修行をするのなら
俺は花月のために『たれ』る修行をする! そういう事だ」

さあもうこれで分かったろうと、得意げな顔の俊樹に
十兵衛は益々眉根を寄せ。

「…つまり?」
「つまりお前がギャグでマクベスの心を支え理解し和ませたいように
俺も花月の心を和ませたい!
いやむしろ和ませれるようにならねばならんのだっ
かつて花月を傷つけたこの俺は!!」

「神の記述」での闘いを
苦々しく思い返しているように
シリアスな眼差しで己が両手を見つめる ―
俊樹が「傷つけた」のは決して花月だけではないのだが
拳合わせ漢同士分かり合った十兵衛等は
別物として除外されているらしい。

「そのくらい出来るようにならねば、花月に申し訳が立たんっ!!」

「いや『たれ』などせずとも、花月は…」

   お前の事をとっくに許しきっている
飛躍する友の理屈に、さすがに頭に痛いものを感じつつ
そう続けた十兵衛の言葉は
途中で遮られる。

「いいやいやいいいいや!!
俺は何としても花月に償わねばならんのだ!!」

っていうか、こんな事に周り中巻き込んでる方が
こっちと花月に申し訳ないとは思わないのかい ― と
やっと面倒な山越えたという顔でため息一つ吐き出すマクベスの姿は
やはり眼中になく。

独り世界に入り込み 頑なに言い張る遠当て使いを前に
さしもの一本気同類の飛針使いも途方に暮れる。


先刻まで 俊樹がひたすら
その住む方を見つめ想っていた
優しい笑顔の彼の人
(俊樹の脳裏ではバックに点描が飛んでいる)

花月との確固とした絆持つ十兵衛には
俊樹の「建前」の裏に いくら自分が花月を望んでも
所詮筧と風鳥院の500年の時の流れには割って入れぬ身    ならばせめて

かつて自分達風雅から花月を奪った
ライバル<恋敵>ともいえる雷帝がそうしているように
『たれ』て花月に子猫やぬいぐるみのように愛でてもらい
あわよくば膝の上に乗せてもらい髪を撫でてもらって    等という夢を見る
いぢましいいじらしい男心がある事など
推し量るべくもない。


「それにあれだ! お前だってギャグなんぞの修行をするより
マクベスの敬愛する雷帝の芸当を身につけた方が
マクベスの支えにもなるというもの!」
「!」

ギャグ「なんぞ」には不服気な表情を見せるが
自分と共通した彼の花月への一途な想い
マクベスのためにという一言
それに俊樹と「共に」新しい技を身につける修行を ― そんなほのめかしは
忠義に厚く友情好きなサムライの心を動かしたらしい。

この上また人を疲れさせるネタ増やすのかいという
隣室の少年のぼやきは
この2人の耳に入ってはいない。

「そうか。そこまで花月を想い、己に新たな試練を与えようというのであれば!
この筧十兵衛 及ばずながらお前に力を貸そう…」
「そうか、分かってくれたか筧!」

がしと手、握り合い暑苦しく盛り上がり
何事も修練鍛錬だと早速「たれ修行」のため
場所を移す元風雅親衛隊を横目に。

「脳味噌まで筋肉で出来てる奴等の矯正ってどうやったらいいもんだろうね」
「…あれでもあの子等は花月の事もマクベスの事も想ってるんですよ」

再度困ったように笑う、母性さえ感じさせる
理解あふるる女性の言葉に
それは分かってるけどね、花月クンにも同情するよ    と
14歳の少年は21の男どもより よほど大人びた表情で
何度目とも知れないため息と共に天井を見上げる。



*   *


数日後。


「はい、銀次さんv どうぞ」
「あーんv」

大盛りのオムライス その一匙が白くしなやかな手により
大口開けた珍妙な生き物に運ばれて

「美味しいねえvv カヅっちゃんも、食べる?」
「いえいいですよ、僕は」

もごもごと幸せそうに味わいつつ
じゃあもう一口vとねだる甘え声が店内に響く。

HONKY TONK では絃使いの膝の上
ちょこんと座った『たれ銀次』が
彼のおごりで昼食を食べさせてもらっていた。

テメエが人に食いモン分ける余裕あるなんざ
明日は槍でも降ってくるんじゃねえかと憎まれ口叩きつつ
睦まじい二人の傍らで
冷めたコーヒーすすりつつ ふてくされていた蛮は
ふと何かを思い出したように問う。

「おい、糸巻き」
「何ですか?」
「もし、銀次以外の奴が  」

先日ここに訪れた遠当て使いの姿を思いつつ
名は出さずの問いかけに
笑顔で返された花月の答えは
蛮の予想通りのもので。

ああそうだろうなと答える声に
そうですよとにこやかに応じてくる  
貴方も結構な相棒バカですねと目を細めつつ。

銀ちゃん良かったねー嬉しそう vv と にこやかに見守る夏実にレナに
眉目秀麗な彼目当ての女性(一部男性)客も増やしてくれた
きちんと支払いをする常連に上機嫌な波児

平穏なHONKY TONKのいつもの風景

その穏やかさを破り駆け込んでくる
すさまじい形相の男二人

「「花月!!!」」

疾走してきた勢いそのままに 息切らしつつハモり叫び
床に倒れ込む二人の男の背後で
がらんがらんと派手な音を立て
店の扉が閉まる。


「十兵衛…に、俊樹?」

滅多な事では動じない絃使いは
只ならぬ勢いと様子にやや呆気にとられつつも
自分を呼ぶ彼の騎士と侍に応じる

っていうかここまであっさりお前の居場所にたどり着いちまう
こいつ等の存在自体が怖いんだがなと呟く蛮に
銀次さんに対する貴方だって同じようなものでしょうと
冷ややかな言葉の絃を放ちつつ。

床に臥した2人は彼等が想ってやまない心の主の呼びかけに
がばっと同時に顔を上げ、


「「花月見てくれーー!!」」

再度ハモり叫び、ここ数日の「たれ修行」の成果を披露する。

がき、と音を立て外されたらしい関節
あっけにとられ見守る他ないHONKY TONK メンバーの眼前で
見る間に170cmを越える成人男子二人
十兵衛そして俊樹の身体がぐにゃりと揺れ

彼等本来の身長からは2/3程に縮まる
   その美形と言っていい顔立ちはほぼそのままに

それは確かに「たれ」ていると言えばたれているが

「たれ銀次」の人としてありえなくも
可愛らしい2・5頭身のそれと比べて
いかようなものであるか

改めて言うまでもない。

コーヒーを噴出す蛮
新聞を持ったまま固まる波児
ティーカップを取り落とすウェイトレスその一
ティーポットを落すウェイトレスその二

「わーい仲間だー♪♪」

二人の姿にあっさり適応し喜んでいるのは
一緒に床でびちびちはね始める
”オリジナルたれ”天野銀次だけである。

「…俊樹……十兵衛…」

ゆらりと立ち上がる”元無限城下層階最大勢力風雅リーダー”の背に
黒いオーラが見えるのは
気のせいだろうか。

品あるいつもの身のこなしで
二人の傍らに歩を進め

「ありがとう、二人とも。
僕のために… そんな芸当 を身に付けてくれたんだよね」

浮かべた柔和な笑みの裏に尋常ならざるものを感じ
美堂蛮の背には寒気が過るが

”花月命”と盲愛する親衛隊2人には分からないらしい

そうか分かってくれるかそれでこそ我等が主!!などと
涙を流し感激している

不気味に「たれ」たままで。

しかしその感動も
数瞬後に打ち砕かれる。

彼等の主は優雅に首肯し
優美に顔を微かに横に傾げ

告げた。

「でもね。僕は君達2人にはこんな事望んでないから。
こーゆーくだらない事は2度としないでよね」

聖母の笑みと共にかけられた
絶対零度の言葉に

雨流俊樹の心身は固まり凍りつき。

壊れた。


   白けた空気の中

「あ、先輩。雨流さん風化しちゃってますよ?」
「やだーお店ほこりっぽくなっちゃったよぉ片付けなきゃ」

粉々に砕けた遠当て使いを目に
冷たくも現実的に対応するウェイトレス2人の背後で
同じ男として報われなさ加減に同情しつつ
新聞の影 見なかったフリを決め込むマスター。
同様にただひたすらタバコをふかす邪眼使い。

「くじけるな雨流! そうだやはりギャグだ!!
マクベスのためそして花月を喜ばせるためにも
今度は俺と共にギャグの修行をしよう!!」

唯一 我が身を案じ 友情の想いたっぷりな言葉をかけてくれる
友の気持はありがたいが今は心底憎らしいのみで
頼むからほっておいてくれと失望の中
心底そう願う雨流俊樹に

告げられる「天使の言葉」

空気読めず 騎士&侍の側 ひたすら無邪気にはね続けるたれ銀を
ふわりとその細腕に抱き上げつつ

涙目で見上げる地獄の騎士に投げかける
絃使いのこの上なく優しい言葉。

「僕は君そのままが大好きだからね?」

   いつかブラウン管上の無限城ベルトラインに突如現れた
教会で繰り広げられたように
見てる方が恥ずかしくなるくらい接近する二人の横顔

雨流俊樹の反応がいかようなものであったか
ここで描写するまでもない。

花月の腕の中「そうそう、カヅっちゃんはそうだよ〜♪」と
ぷるぷる手を振るたれた相棒と
振られた先にある歓喜の涙にむせぶ俊樹を交互に見比べつつ

やっぱこいつがライバルじゃ報われねえなと
美堂蛮は苦笑いと共にタバコの煙を吐き出す。




先刻の蛮の問いかけに対する
花月の返答

『そうですね    銀次さん以外の”たれ”なんて見た事ないから
分かりませんけれど。きっと』

コーヒーを口元に運び にこりと笑って

『こんなに可愛らしく”たれ”る事が出来るのは
この世で唯一人 銀次さんだけですよ』




END.
****************
RFS様の キリ番を踏んで、「たれ(銀)について
悩む親衛隊」の小説下さい とおねだりさせて頂きました。

RIO様〜 こんなツボな小説 頂けて 幸せですv
見た目イケてるのに、どっかずれてて
一生懸命な俊樹・即座に「たれ」を差出すマジだかボケだか
不明な侍・二人を見守るマクベス朔羅・オムライスを
食べるたれ銀〜 あーもう、どれをとっても
好きすぎる…。

ちなみにこのお話「2」とある通り「1」もございます。
LINKページより是非 どうぞ