愛の熱唱

「おっしゃぁ 次は俺様の氣志團メドレーだ!」
「ブッブー ざーんねんっ 次は私の『狙い撃ち』よ」
「…いつの歌だよ、ソレ。 ヘヴン てめー年齢20位
サバ読んで…」
 ドゴォッ 
 蛮が喋り終えるより先に、その後頭部にマイクが
直撃していた。誰もが犯人を判ってるが、タブーである
女性の年齢についての、差別発言をかました方が
悪い、と見ぬフリをしている。

「…そういや、まだ歌ってない奴いたな」
 振り返った蛮が、俊樹にマイクを廻す。
「いや…俺は…」
手をかざして、断ろうとする俊樹の背に、
酔っ払った笑師が、背後から抱きついた。

「なんや、ノリ悪いで雨流ハン! 
これから着ぐるミルミルとして、やってこーっちゅうに、
あきまへんな」
「…俺は そのつもりはない」
「っかー 冷たいお言葉! よっしゃ ワイがダメなら
花月ハン! 色仕掛け攻撃やっ!!」
 名指しされた花月は、一瞬 きょとんとしていたが、
直後、笑顔で頷き、立ち上がった。

 …こちらも酔っていたのだろう。 俊樹の横に座り込み、
そっとその膝に手を置く。
「俊樹… 僕のために 何か歌って?」
「花月…のために?」
「そう、僕の為に」
 上目遣いで、お・ね・が・い とばかりに
じっと自分を見上げる花月を前に、俊樹が
断れるであろうか(反語:いや断れない)
 無言でページをめくり、リモコンを打ち込む俊樹。


 ♪〜チャラララ〜 
 流れてきたのは、 もの寂しいイントロ。
だが、誰もが聞いたことのあるフレーズだった。
(…何の曲…だったけ…?)とみなが首を傾げる中、歌は始まる。
 それは、懐メロなどでよく聴く、
 狩人の『あずさ2号』だった。 

♪ 明日 私は無限城(ここ)を出ます〜
花月(あなた)の知らない どこかの土地へ
いつか二人で 行くはずだった
バビロンシティー 後にして

遠くの土地で考えるのは
花月の事だと わかっています
ゴールデンウィークお盆に年末
会社員では 抜け出せません。
タワーズアートから いつまでたっても
とても行けそうにありません
俺にとって 休まる場所は
やっぱり 花月の風雅なんです〜

 8時ちょうどの 風雅のミーティング
俺だけ参加できないな 哀しいな


   2番 
風雅のトップの 花月(あなた)と出遭い
私の心は 癒されました
そんな 花月の 可愛い笑顔が
男心 くすぐるのでしょうか
なぁ 花月 いつまでたっても
変わらず 愛すると誓います
私にとって 花月はいつも
かけがいのない存在なんです
8時ちょうどに 声を張り上げて
「永遠に愛しつづける」と 叫びま〜す

 半ば絶叫するように、歌い上げた俊樹は
(花月の為に唄ったぞ 誉めてほめて)とばかりに
下を見下ろす。
「…俊樹 いい声だよね」
 内容には触れず、にこやかに微笑を返す花月。


(天国の父様母様 申し訳ございません…。
僕は お二人の血を、直系で残せそうにありません。
棄てたりしたら、無理心中を計りそうな部下に加え、
自殺をしてしまいそうな、部下までが加わってしまいました。
 風鳥院の血筋を辿り、なんとか家は再興はさせますが、
お許しください…)
 
 俊樹ばかりに、想いは伝えさせんと
『天城越え』を替え歌バージョンで作り始めている
十兵衛。
 他のメンバーは、全てを諦めたような
花月の、疲れた笑顔を無言で見遣り、
変わるがわる肩を叩き、慰めていた。

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十兵衛の『天城越え』も聴いてみたいですが、元歌を知らないので
替え歌を作れません(笑)
 …花月には『流星雨』『月光』辺りを歌って欲しいです