ああ人生に涙あり

『大きくなったら、暴れん坊将軍になりたいな』

「…というような話を、昔 花月としたな」
「…っ」

吹き出すのを堪えるように、俊樹は甲を口元に当てた。
笑い声こそ洩らさなかったが、細められた瞳や
微かに震えた様子から、それが耐えているだけだと判る。
 楽しげに語っている十兵衛と俊樹の傍らに、
拗ねたように頬を赤らめた、花月。

風雅の核である、3人が集うているのは、ありがちだが
これは、めずらしい光景だった。
「風鳥院に テレビはなかったからな」
むくれる花月を、フォローする十兵衛の声も
笑っているのだから、花月の機嫌が直るわけもない。

 十兵衛と出会って、こっそり筧家に遊びに行った際、
初めて見たのが、某時代劇だったのだ。
 花月の言葉は、幼い子どもが
「大きくなったら、正義の味方になるの」と
言っているのと同程度だが、
楚々とした外見から、放たれた言葉だっただけに
十兵衛に強く刻まれてしまったらしい。

 雑談中の話題から、ばらされてしまった
思い出話に、むくれる花月。

 白い肌が上気し、唇を尖らせる様子が可愛くて、
つい俊樹も、続けてしまう。
「で、その夢は かないそうか?」
「……先の副将軍クラスには、なれたから
いいよーだっ」
 謎掛けのような、花月の答えに
俊樹が十兵衛へ、視線で問い掛けるが、
こちらも意味が掴めなかったらしい。
 首を傾げ、意味を探っている。

「あら、じゃあ 私はお銀ってところかしら?」
 にこやかに顔を覗かせた朔羅が、
話を繋いだ。
「姉者、それはどう…」

---ドゴォッ!!
十兵衛の言葉が、終わらぬうちに
背後に爆音が響いた。
 瞬時に、臨戦体制を整え、
襲撃者の方向を、睨み据える親衛隊。
「何者だ!」
「ここにいるのが、風雅相手と
知っての狼藉か!」

 クッ、と場違いにも笑い声が洩れる。
身を屈め、さも可笑しげに 笑い転げる
花月と朔羅。
 訝しげな顔の、十兵衛と俊樹に
身振りで謝りながら、敵のいる露地を
花月が指差す。
「…ごめん、ごめん。あまりに
タイミング良かったからさ。
あの人たち…懲…、懲らしめてもらえる?」
「か、花月さんったら、お茶目さんっ」
笑い転げる、花月と朔羅。
頭に『?』という疑問符を一杯に浮かべ、
それでも律儀に向かっていく、十兵衛と俊樹。

 一撃、で片は付いた。
 風雅の名を聞いた途端、及び腰になっていた男達は
単に、美人二人と優男二人がいる。とだけの判断で、
絡んできただけであった。
 平謝りを続ける男たちを、それ以上乱暴するのも
躊躇われ、花月の判断を仰ぐ二人。
「…今後の為にも、
ここに居るのが、誰か紹介してあげたらいかが?」
クスクスとまだ笑いながら、朔羅が口を挟んだ。
 
 今しがた、闘っていたのは十兵衛と俊樹二人だけだ。

二人が離れた隙に、チャンスとでも勘違いされ、
再び来られても面倒、と俊樹が頷いた。
「ここにいるのは、『絃の花月』だ。
きさまら如きが、敵う相手ではないぞ」
 「ひっ」
短い悲鳴をあげ、男達は逃げていった。

 もう平気だぞ、とばかりに振り返れば
そこには 何故か爆笑している朔羅と花月の
姿があった。

「か、花月さん こうなったら
『絃』印の印籠でもつくらないと」
「ほ、本当。 まさか ここまで
形式踏んでくれるとは、思わなかったよ」
「やっぱり、最期は花月さんが『もう いいでしょう』
って とめて、『追って沙汰がある』という決め台詞も
使うってのは、どうかしら?」

しばし意味を考えた後、
こめかみに指を当てる親衛隊二人。

(…俺達は す○さん か○さん かいっ)



追記: 後になって、鮮血のジョーカーこと
笑師春樹と出遭った花月と朔羅は
「…あれは、うっ○り八兵衛に 欲しいよね」
「えぇ、ぜひとも逃がしたくないわ」
という 会話を交わしていたとか いないとか…。

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4コマのネタから、思い付いたお話。
今はメンバーチェンジして、いない人も含まれてますが
気にしないでねv(それ以前に、何人の方が
水戸黄○を見たことがあるか>汗)
ちなみにタイトルは♪人生 楽ありゃ〜の歌のことです。