俊樹が花月宅を訪問した日、十兵衛は、またまた鏡から頼まれ、ホストのバイトをするはめになっていた。
あいかわらず、気は乗らないが、割のいいバイトなので、また花月に何かプレゼント出来るかもしれぬと
渋々承諾したのである。。

今月ももう末である。。。
この店のbPは、もちろん美堂蛮なのだが、何故だか今月は銀次の成績がよく、
もしかすると蛮を抜いてbPになってしまうのではないか、、という状況にあった。

今日は新規で大口のお客が来ていた。。。。
「兄がここにきていると聞いてきたんだけど、、、、」
聞き覚えのある声・・・・・・
「雪彦くん?」
「?どこかでお会いしましたっけ?????」
「俺だよ。。。銀次だよ」
「ぎ??銀次くん???ほんとのほんとに銀次くん???」
雪彦が見紛うのも仕様がない。。。
雪彦が出会った銀次は、普段のほわ〜〜っとした、お腹ばっかりすかせているかわいらしい銀次。。。。
目の前にいる彼は、バリッとスーツを着て、きちっと髪の毛をセットした、涼しげでどこか気品があり、
王者の風格さえ兼ね備えた「ライ」という源氏名を持つ、美貌の青年であった。
「ぎ!銀次くうううううん!!かっこいい!!この前はかわいい感じだったけど、、
今日は見違えちゃったよ!とっても素敵!!僕、ファンになっちゃった!」
CHU−★
ほっぺにキスをする雪彦。
それをみていたのは、ライ命!!寝ても覚めてもライライライ!
三度の飯よりもライ!心の炎はメラメラと貴方に向かって燃えているのよ!!!・・・・な炎の女、氏家火生留である。
そう、彼女は、ライこと銀次をbPにするべく散財するためにやってきたのだ。

「ちょっとちょっとなによ!あんた、私のライに何する気?」
「?銀次くんって、キミのものなの???そんな風には見えないけどな、おばさん」
「お!おばさんですってええええええ!!」

火生留が雪彦に向かって火を噴く!!
地獄絵巻さながらの光景が目の前に展開する。
あまりの恐ろしさに、止めることも出来ず、顔面蒼白で呆然と立ち尽くす十兵衛に鏡が声をかける。
「筧くん、、他のお客さまを安全なところに誘導してくれるかな?あ、それと割れ物や高額なものも運んでくれるかな?」
「あ。。はい」
こういう状況に慣れているのか。。。店長のあくまでも普通すぎる態度に魂の抜けかけていた十兵衛も冷静さが戻ってくる・・・・・・
そういえば、、今日は、いつもより店内の装飾品が少ないようだ。。
こうなることを予見して、高価なものを極力置かないようにしたのかな???
まぁ、、彼のことだから、、保険とかかけているだろうが、、、

ボヘミアクリスタルの灰皿などを回収しながら、恐る恐る振り返ってみる・・・・・
銀次をめぐっての恋の炎は、鎮火するどころか、油を注いだかのように、ますますヒートアップしていた。。。
恋しい人遭いたさに江戸の街を焼き尽くした八百屋お七以上の地獄の業火が銀次と雪彦を包んでいた。。。
不幸中の幸いは、ここにあのハイソなお医者さんがいなかったことである。。
彼がもしいたら、、、、店は全焼になっていたであろう。。。。

「お、、、、恐ろしい、、嫉妬の炎だったな。。。」
重い足取りで、帰路につく。。。。
米屋の角をまがると遠くだが、アパートがみえてくる。。。
小さく燈った窓の明かりが、、いっそう十兵衛の足を速くさせようと促しているようだった。

小走りにいっきに駆け抜け、ドアをあけると、ぷ〜んといい匂いと。。。
一日の疲れもどっかにふっとんでしまう、、愛しい妻の天使の笑顔。

「お帰りなさい!!遅かったね。待ってたよ!はやくごはん食べよ!お腹すいたでしょ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「じゅ、、うべぇ????」

地獄から天国へ。戦地から我が家へ帰ってきた兵士の気持ちってこんな感じだろうか??
そんなことを考えながら、思わず花月を無言で抱きしめる。

「すまんが、、このままでいてくれ・・・・」
そういって、抱きしめた腕に、力を込めた。。。

しかし、、、嫉妬の感情というものは、、恐ろしい。。
花月にいいよる奴がいれば、、、俺も冷静ではいられない。。。
遠く懐かしい感覚が蘇る。。。

花月と祝言をあげるはずであった、、、雨流俊樹。。。。。
彼は今、どこにいるのであろう。。。。

さっき、曲がった角にある米屋に俊樹がいることも、、時々彼がここを訪れていることも。。
十兵衛は、知るはずもなかった。。。

今日も長い一日が終わりをつげようとしていた。

***********************************
ふーかさん所の旦那は優しそうなので、むしろ嫉妬で冷静じゃない
旦那見てみたいかも(笑)
すりすりされてる花月と旦那の可愛らしさと 泥沼の銀次三角関係の
対比のイラストが笑えます。
しかし、カオル姐さんに喧嘩を売るとは… ユッキー…素晴らしい。

「角に有る米屋」の 具体性がステキ。