(…今日も好いお得意のおかげで、店で最高値のリングが売れたわ)

鼻歌交じりでの帰路、ガラス張りの扉から出た瞬間、
コツンと軽い手応えを感じた。
誰かにぶつけたらしいと気付き、慌ててヘヴンが謝る。
「ごめんなさい、ちょっとぼっとしてて…」
「あ、いえ…こちらこそウインドウのジュエリーに見惚れてて…」
 返した言葉の持ち主は、清しい微笑みで会釈をした。
 簡素な身なりではあるが、清潔で 本人の可憐な容貌とあいまって
見ているだけで 同性のヘヴンですら 心地よく感じられる。
…まぁ、性別に関しての 勘違いは置いといて。

「ホント、ごめんなさいね。よかったら、中でもっとよく見てみる?」
 お詫びも兼ねて、招き入れようとすると、相手は慌てて
顔の前で両手を振るった。
「いえいえ、とんでもない!そんな、迷惑なんて本当に被ってませんから」

 ふと目にしたその手に、見覚えのある指輪。
「…あら…?」
それは、確かに 先日売却したばかりの…ある意味強烈な記憶を
伴う商品であったから、間違いない。
「あの…唐突で 申し訳ないのだけど、…貴方の御家族に
ちょっと古風な…締まった日本風男子なハンサムさん…
いらっしゃるかしら…?」
 ちょっと困ったような問いかけに、花月は首を傾げ応える。
(古風?家族??…って 今ここにいて、僕の家族って…
十兵衛だけだし…この人、十兵衛の知合いかな?)
「あ、はい。身長の高い…こう ちょっと髪を伸ばした感じの…」

(ってことは…!!! この子が首輪の妹!! た、たしかに清楚な和風美人!
く、首輪を付けたい気持ちもわかるかも…って違うわ!
ひ、人として その嗜好はちょっと問題あり…あ、いえ人の趣味に
どうこう いうつもりはないのよ、でも、妹相手ってのは ダメよね)
 軽い衝撃と、いきなりの出来事にパニックに陥るヘヴン。
「あの…?」
 いきなり固まってしまったヘヴンに、 おずおずと声をかける花月。
 その言葉に我に帰ったヘヴンは、がっしと指輪を嵌めた手を両掌で
包み込む。
「…ツライ事があったら、いつでも云ってね。貴方ぐらいの器量なら
よろこんで うちの店の販売員にでも、すぐに雇うから」
「ウチの店…って ここは貴方がオーナーなんですか?
お若いのに、凄いですねぇ」

噛み合ってない会話の後、なぜか涙ぐまれたヘヴンに見送られた花月は
内心首を捻ったまま、買い物を続けるのであった。


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とりあえず、ヘヴンさんと花月を出遭わせて見ました。
あり?でも誤解解けてない…
どころか ますます 溝が深まったような(笑)