花月への贈り物を選ぼうと、宝飾店に足を
運んだ十兵衛。
 だが、生来 あまり興味のない分野であった為
どういった物が相応しいのか、ショーウィンドウの前で
固まってしまう。
「…お客様、プレゼントですか?
よろしければ…あら?」
 丁寧な物腰で近寄ってきた店員の
上げた、軽い驚きの声に 十兵衛もつられ
眼を合わせる
「う…」
「えっと…サムライ君だったわね。寄寓ね
彼女へのプレゼントかしら」
 そこにいたのは、鏡の店で接客をした相手
ヘヴンだった。

さすがに 夜の時分とは異なり、
露出を抑えた服装であったので
一目では気付かなかったのだ。

「いや…彼女では ないのだが…」
 妻である、花月に送るのだから、確かに彼女にではない。
だが、この言葉は ある種の誤解を招いたようで。
「へぇ…」
(彼女じゃないとすれば、家族かしら?
このタイプが、片思いの相手にプレゼントって
発想はないし)
さすがのヘヴンも、それが妻であるとは
思い当たらなかったらしい。
「良ければ、選ぶのを手伝うわよ?
どんなイメージかしら」
「そうだな…。歳は俺より下で、清廉で可憐。
流れる黒髪が美しい…和風美人というのか」
(年下…ってことは 妹かしら。和風美人…
うん、そんな妹いそうだわ)
「そう、具体的でわかりやすいわね。
なら、何が欲しいかも決めているのかしら」
 内心の疑問を隠した、接客のプロである
ヘヴンのにこやかな表情に、十兵衛は一瞬躊躇する。
 勿論第一希望は指輪なのだが、
『結婚指輪を押し付ける、独占欲の強い夫』
と思われるのではないかという、
疚しい気持ちからの迷いである。

(指輪…の他に、どのような装身具があったか…
腕につけるのが 腕輪で…足につけるのが足輪
鼻につけるのが鼻輪…)
 何やら軽いパニックを引き起こしている
十兵衛の思考は、間違った方向に飛んでしまっている。
 
彼の探していた単語は「ネックレス/首飾り」であるが。
…飛んでしまった思考から、彼の口を突いたのは
「そうだな…首輪はあるか?」
という一言であった。
 端整な顔立ちで、至極まじめな表情。
(これは…冗談…な口調では
なさそうね… 妹(本当は違うが)に
首輪… この男 真っ当そうな顔をして
超マニアーーーーーッ)

 笑みを貼り付けたまま、凍りついたヘヴンを
不思議そうに眺める十兵衛。
 自分が、目の前の人物に どういったランク
付けをされたかを知るのは、いつの日であろう。
*******************
十兵衛が、自分一人でジュエリーショップに
入る&お買い物は大変だろうと、お手伝いに
ヘヴンさんをさしむけたのですが…
 すんません、結局選べなかったです(^_^;)