花月と十兵衛は、買い物にきていた。
ちらしの特売のある大手のディスカウントショップは24時間営業で、
裏新宿の少し危ない場所にあったため、花月一人で行かせるのは不安だった
十兵衛は、仕事が終わったあとに一緒に行こうと申し出たのであった。

目的のものも手に入り、帰路につこうとした時、ふと、花月が足をとめた。。

「花月???どうした?」
「ね〜〜美堂くんが勤めてるホストクラブってここじゃないかな??」

−ホストクラブ MIRROR−
たしか、そんな名前だった気がする。。

「ね〜〜覗いてみようか!」
花月はそういうと、するすると入り口のほうまで行ってしまった。
「か、、花月!?ちょっと待て!?おい!」
「ちょっと覗くだけだよ〜」

まったく、おきゃんというのか、おてんばというのか、両方とも、女子に
対する形容詞ではあるが、、花月をたとえていう形容詞は、まさにそれ
そのものだった。
ずっと、家にしばられ、互いの家くらいしか知らない、箱庭で育った二人である。
裏新宿にきてからの花月は、みるものすべてがもの珍しいのか
、ちょっと目を離すと、、自分の興味のあるほうへふらふらと行ってしまい、
、あぶなっかしくてしょうがない。
もともと好奇心旺盛な性格ではあったが、ここにきてから、
特にその性質がめきめき頭角を現していた。

「美堂くん、いるかなぁ〜?」と、柱の陰からそっと覗いてみる。。。。
「か、、花月、、まずいぞ、帰ろう」
十兵衛がそういいかけたとき、背後から声がした

「いらっしゃいませ」
ふりかえると、、金髪の目元の涼やかな美青年がにこやかに立っていた。

「あ、、あの、、すいません、、僕たちは。。。」
適当にごまかして帰ろうと思ったのだが、
花月と十兵衛をみつけた蛮が歩みよる。
「よう!おまえら!来てくれたのか?」
そう言って近づいてきた彼は、この前、遊びに(いや、、食べに)
来てくれた時とは、雲泥の差で、、
髪を下ろし、小奇麗な格好をし、サングラスもはずしていたため、
端正な顔立ちがよりいっそう際立ってみえた。

「あ、、あの、、、美堂くんいるかなって思って、
ちょっと覗いただけだから、もう帰るよ」
「そう言うなよ!この前飯食わしてくれたからな。サービスするって!
さぁ〜お二人ご案内だ!」
そう促されて、とうとう、中へ入ってしまった。。。


不夜城、裏新宿、ネオン、自分達にはまったく縁のない世界だった。。
それが今、なんの因果か、、その真っ只中にいる。
美しい薔薇の花々、シャンデリアや大理石の輝く世界・・・・
十兵衛は、この異世界にきてしまったことをすでに後悔していた。
もっとも、居心地の悪い世界だった。。。
花月は??、、とみると、、好奇心で目が輝いている。。
は〜〜まったくえらいことになったと十兵衛は思った。


「はじめまして、鏡形而です。」
金髪の青年は、そう名乗った。
「飲みものは、何がよろしいですか??」
「あの、、御茶で。。」
花月がそう答えると、傍らにいるホスト達から失笑が起こる。
その笑いを断ち切るように蛮が口をだす。
「まったくよ。こいつら田舎もんだから、なんにもしらね〜んだよ。
水割りでいいよな?お前らにはドンペリとか期待しちゃいね〜よ。
間違ってもフルーツなんか頼むんじゃね〜ぞ。お前らには、
払えない金額だからな」
「み、美堂くん、、フルーツくらいなら大丈夫だと思うよ」
「ばぁか!スーパーで売ってる値段の果物とか想像してんじゃね〜よ!
あれの50倍くらいの値段だぜ」
ご、、50倍??そう言われて初めて、とんでもないとこにきちゃったと、
後悔する花月。

「美堂くん、いくらお友達とは言え、
お客様にむかってなんて口の聞き方ですか」
と、鏡が諌める。
「フフ、まったく彼は、いつもこんな調子で、
困っているんです。お客と喧嘩しては、
店の備品壊すしね。でも、こういうお客に媚びない態度がいいと、
彼を指名するお客様も多いんですよ」
ふ〜〜ん。そうなんだ、、と納得していると、
鏡がつかさず話しを続ける。
「お客さま方は、なかなか美しい顔立ちをしていますね。貴方は、
女性と見間違えてしまうくらいかわいらしいですし、それに、、」
そう言いかけて、鏡が十兵衛を見つめた。
(う。。。)その眼の鏡のようなするどい輝きに少し萎縮してしまう十兵衛。
「貴方などは、かなりなイケメンですね。髪を綺麗に整えて、
もっと綺麗な格好をしたら、かなり人気ホストになれると思いますよ。
どうですか?うちで働いてみませんか?」
(これは、、勧誘なのか!?イケメンとはなんなんだ?
ラーメンかなにかの一種か!?)
十兵衛が、、口ごもっていると、、花月が口をひらいた。
「だ!だめ!十兵衛が、ここで働くなんて嫌だ!!」
「花月??」
「フフフ。おやおや、お姫さまにお断りされてしまいましたね。それでは、
ごゆっくり」
と言うと、飛びっきりの笑顔を置いて、鏡が席を立つ。

「あの人、どこいっちゃったの??」と花月が蛮に問う。
「あいつは、たぐいまれな容姿と巧みな話術であっと言う間に
bPに上り詰めた伝説の男だ。今では、店を買い取ってオーナーやってやがる。だから、お前らなんかにかまってる時間なんてないのさ。ほら、むこうの常連客の金持ち連中のとこに行ったんだよ」
「へ〜〜〜すっごい人なんだね。」

花月が感心してると、、数人のホストが席につく。。
いわゆる「ヘルプ」という奴だ。
入ったばかりの新人や、指名客の少ないホストの仕事がそれだ。
こういうホストは、あまり場慣れしていないし、話術も巧みではないので、
何かをみつけては客をひたすら褒めちぎることが多い。
「え〜〜こちら、男の子?あんまり綺麗だから女の子だと思っちゃったぁ〜」
いかにもかる〜い感じのがんぐろな男が花月を褒めまくる。
その様子をみて、十兵衛は、かなりいらついていた。
「それにぃ〜〜すっごく綺麗な髪だね〜」と、ガングロが
花月の髪をさわろうとした瞬間、十兵衛の堪忍袋の緒がぷっつりきれた。

「花月に触るな!!!!」
十兵衛の声が店内に響き渡る。。。
「美堂、、、すまない・・・・・・・・」
そう言うと、花月の腕と取り、店の外へ出た。。。

「.・・・・・・・・・・・・・・・・すまない、、花月、、つい」
「いいよ。僕もちょっと辛かったんだ。。早く帰りたかったし、、
でも、かえって美堂くんに迷惑かけちゃったかなぁ。。。」
「そうだな、、お金も払わずに出てきちゃったからな。。また、家に招いて、、
今日の侘びをしよう」
「そうだね」
「なぁ、、花月、、さっき。。。。何故。。。鏡が俺にホストにならないか?と聞いたとき、嫌がったんだ?」
「だって。。。ホストになったら、さっきの人たちみたいなコトするんでしょう?
僕の知らない人と話したり、仲良くなったり。。。そしたら、、
きっと、僕のことなんか忘れてしまうような気がして嫌だったんだ」
「馬鹿だな。。俺がお前のことを忘れたりするものか・・・」
「ほんとに?」
「あぁ」
「よかった」
そう言って、ほっとしたような笑顔を見せる花月の手を、
十兵衛はそっと握った。

「さぁ。帰ろう。。。俺たちの、、二人だけの家へ・・・・・・・・・・・・・」

二人の背後には、、眠ることを知らない街の煌びやかで、、
人々の情念渦巻く、禍禍しいネオンがいつまでも輝いていた・・・・・
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嫉妬しちゃう花月がかわうい〜〜vv 大丈夫v花月を忘れたら、
それは十兵衛じゃありません。(記憶喪失ネタ、花月が記憶失ったら
必死な十兵衛が浮かぶけど、十兵衛が記憶喪失になても
花月は『十兵衛は… この方が…幸せかも』って
諦めちゃいそうで、やばいです)
髪下してる蛮ちゃん、美人さんだー♪