「…いーなぁ じゅーべーの おべんと、今日も
美味しそうで」

先ほどチラシラブレターを見つけ、一番に囃し立てた
同僚の 銀次が もの欲しげに覗きこむ。

常に菓子パンや、出来合いの弁当ばかり食べている
銀次は、あまり手作りの惣菜など食べていないのだろう。
十兵衛が無言で差出した、箸の先には玉子焼き。
「…え? これ食べて良いの!?」
キラキラと輝く瞳は、夢を語る幼稚園児のように
純粋に光っていた。

「おいしぃねぇ。十兵衛、いいお嫁さん貰ったよねぇ」
もごもごと、味わうその姿は、
本当に幸せそうだ。
「…普段の食事は、どうしてるんだ?」
「え? 閉店間際のスーパーとかで、
半額のお握りとか 狙って買ってるよ」

「その… そちらは、なぜ駆落ちを…?」
ふとした 会話から、互いに事情有る者と知った
十兵衛が、聞いてみたく思っていたことを、尋ねる。
「俺ねぇ、蛮ちゃんが 大好きなんだ」
それは、最大の理由にはなるだろうが、原因では
ないだろう。ツッコムべきか悩む十兵衛だが、
銀次の言葉はまだ続いた。
「だからね、一緒にいたかったんだけど
周りがさ…ヤングエグ…エグ……えっと、
忘れちゃったけど、お金持ちのお医者様と
くっつけって言うんだ」

「それは…」

「でね、その医者俺のこと
『解剖してみたい程大好き』で、しかも
『美堂クンもセットで、喜んでお相手しますよ』
…って プロポーズしてきたんだけど…
…怖くてさ」
 それは、そうだろう。

「で、蛮ちゃんの方も
『切り刻みたいほど愛してる』って眼帯ヒゲ親父とか
『兄弟みんなで愛してる』っていう多重人格者とか
に追っかけられてて、疲れちゃって。
…で、二人で逃げたの」
くったくなく銀次は笑うが、…すごい台詞だ。

己の道は、イバラであるかと覚悟をしていた十兵衛で
あったが、上には上がいるものだと
つくづく人生について、考えさせられてしまう。

(----ところで、三時間ほど前から
薔薇を抱えた男が ずっと貴様を見詰めていると
教えてやるべきだろうか…)

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旦那の日常小説に、一言台詞で登場した
同僚クンはこの人かなァ…と妄想から
またしても、新たな設定が…(笑)

ふーかさん、私の妄想は外れてますか?