白春


「十兵衛っ俊樹っ!起きて起きてっ」

透き通るような声だった。
一瞬、その急いだ声音に、敵襲かと身構える。

ドアを開け、飛び込んできた、花月の顔は
それはもう、見惚れるぐらい、嬉しそうな笑顔。

「雪だよっ、雪っ」
「雪?」
「そうっ!すごいんだよ!!一面真白でねっ」


子供のように。
(事実、年齢だけ考えれば、ほんの子供に過ぎないのだけれど)
はしゃぐ花月に、彼を誰より愛しく想う二人は、何も言えない。

こんなあどけない顔は、いつぶりだろうか、と。
そんな風に、思ってしまうのだ。


「花月、寒くはないのか?」
「平気だよー!それより早くっ溶けちゃうよ」
「花月」


叱咤する十兵衛の声に、拗ねたような表情を見せて。
縋るように俊樹を見たが、俊樹も全くの同意見だった。

さすがの花月にも、勝ち目はない。


「もうっ分かったよーだ!二人とも嫌いっ!子供扱いしてさっ」
「ならば、もう少し大人な振る舞いをすることだ」
「筧に同じくだ。少なくとも寝巻でこの寒い中、外に出ようとする大人はいない」


べー、と舌を出して。
そして、もう数歩で踏み込める外を背に、花の咲くように笑む。
優しい人。
可愛い人。

「仕方ないな…」



ふわり、と。
十兵衛の来ていた、白い上着が、花月の頭から着せられた。
それは、丁度、花嫁のつける、真白のヴェールのように。


その花月をそっと横抱きで抱き上げ、俊樹は笑う。
裸足に靴を引っ掛けただけの、姫君のために。


そうして、三人で、白色に染まった外へ出る。


「綺麗だね…」
「ああ…そうだな」


地獄を絵に描いたような、無限城さえ。
今、こうして、白に包まれて。

全てを許されたかのように、白へ、還り。


「まだ降ってる」
「本当だ…」


名残のように、零れ落ちてくる、その真白な、空の花弁を。
上着の余りで、そぅっと、受けとめて。


「十兵衛、俊樹」
「何だ?」


真白な肌、けれど頬は、寒さのせいか、仄かに、紅。
そして、笑って。


「…大好きだよ」


春はすぐだと、そう、告げた。


----------------------------------------
葵月千夜様から、
すてきな小説を頂いちゃいました!! 
…きゃーーーーーー、サイトやっててよかった!
キリ番でも何でもないのに、こんな好いもの
頂けるなんて〜♪
読んでるだけで、幸せになれる風雅の光景です。
俊樹が、横抱きにスッと花月を抱えちゃうんですよ!?
かっこいいいい!!!←落着け。
十兵衛も、大人でステキだ! 花月かわういーーv
ほのぼの幸せ情景が、浮かぶ
お話で、こちらまで幸せのお裾分け頂いた気分です。
ありがとうございましたv