操り師

憎くて 憎くて 愛おしい花月

お前に出会わなければ、孤独など知る事はなかった。
お前に出会わなければ、嫉妬など知る事は無かった。
お前に出会わなければ、焦燥など知る事はなかった。

 一人での存在に充実し、どこまでも舞い続けていられたのに。 
何も考えず、何も煩わされず、何にも囚われず---。

 醜く育つ所有欲。出遭った事への、理不尽な怒り。
キレイごとなどいらない。誰を傷つけても、全てを敵に回しても
花月が欲しい…。

「お前が、俺の前に現れたんだ。 狂わせたのも、お前だ。」
 決して留まらず、奔放に駆け続ける花月を、
手に入れたいと思ったときから、俺は俺でいられなくなった。
 歪んだ欲望。 

 その、望みはいま かなう。



壁を背に、気を失った花月の唇を、俊樹がやさしく拭った。
 僅かに残った血の汚れが淫靡的で、
そうと意識せず、愛撫の指を這わせる。
 滑らかな肌に、血が昂ぶる。
もつれる黒髪の下の、細い首筋。

 まさぐる手のひらの中で、しなやかな弾力
をかえす肌に、思考が侵食される。
 この絹のような白い肌に、己の名を刻み付け、
鎖をつけ、髪の毛一筋まで 所有する。
 封印していた己の欲望を目前に、震える自分の指先が、情けなく新鮮だと
俊樹は自分を嘲けた。

触れ合う寸前にまで、近づく唇。
「ん…」
わずかに触れた傷口に、花月が苦しげに身じろいだ。
 「風鳥院花月」に捧げる、「風雅親衛隊 俊樹」としての
最初で最後の口付け。
 少年のような横顔が、せつなげに花月を見つめる。

次に眼を覚ました時、花月は既に花月ではない。
己の意志を持たぬ、優美な人形『オルフェウス』だ。
 悲しい確信と、奇妙な充実感。

「眼を覚ませ。…オルフェウス」
花月の指先が、ピクンとわずかに震動した。瞼がゆっくりと持ちあがる。
うつろに開かれた瞳に写るのは、支配者の自分だけだ。

精緻な美貌には、精神的な封印が施され
見る者に陶酔と恍惚を与える、俺だけの人形…。

…きっと 今の自分は 怖気立つほど醜く
禍禍しいに違いない。
 長い間焦がれた相手を前に、そんな事を考えている自分が
おかしくて、俊樹は嗤った。

「行くぞ オルフェウス」
「…はい…」

この声がある限り、もう何もいらない。
誰であれ、消滅させる。
 望んだ世界を、手に入れられたのだから…。

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小部屋入りかなー?とも思ったのですが、、
ちょっと情けないバージョン(笑)でしたので無理矢理こちらに入れちゃいました。
今の感情に走りやすい、俊樹もスキですが、
登場初期の悪役俊樹 大スキです♪