記憶と事実

「うーん ウチでは挨拶だったから
年なんて覚えてないわ」
 記憶を辿るように指を
こめかみに 当てていたヘヴンが、首を振る。

「……酔っぱらった銀次さんに
(推定)8歳の時 奪われました」
 ぼそりと呟いたのは、マクベス。
心成しか、据わっている目。

「えっ!? ごめん
俺…そんな事しちゃってたんだ…」
「いえ…いいんです…。
あの時は 酔っぱらった来栖さんと
2者選択でしたから…」
「ま、ヒゲ親父選んでたら、コゾーがヤツ当たりで
テメー御自慢コンピューター
破壊しまくってただろうな」
「えぇ…それに比べたら…フ…」
 旗色の悪い銀次が、慌てて振り返る。
「で、カヅっちゃんはいつ?」

「え…と…。実は…
その…」
 恥かしそうに、うつむく花月。

 話題は ファーストキスはいつか。
生まれた時から無限城に居る者や、
外国育ちのメンバーの中での、
この初々しい反応。 
 その気が無くても、思わず注目をしてしまう。

「どーせ そこのサムライと
初めて会ったときとか ぬかすんだろーが」
 
 即座に十兵衛の襟元を掴み上げ、
拳を振り上げる俊樹。

「いえ…」
「じゃぁ、雨流に攫われた時にでも
されちゃった!?」

 銀次の言葉が終るより先に
俊樹の胸倉を持ち上げる十兵衛。

「いえ… その…
実は まだ…なんです…」
「………まだ?」
「はい」

 真っ赤になって、小さく頷く花月。

「やっぱり…ヘン…ですよね?」

「変じゃない、変じゃないぞっ 花月!」
声をそろえる男どもの、後ろに見えるのは
『ビバ 清純派!』の文字。

「花月… いつ、何が起こるか
わからない世の中だ」
「? そうだね」
「俺は…すでに初めてではない(らしい)
が、気持的にはお前と同じだ。
今、…俺と済ませておかないか」

「おぉーーーっと
これは 雨流はん 積極的に
出たぁーーっ!
 直後 背後から、無数の飛針が襲撃!」
 実況中継をはじめた笑師は、とうに安全地帯に
避難済みだ。

「俺…うまいよ?
試すんならお得だけど」

「親衛隊二人が、骨肉の争いを繰り広げる
背後、ホストが果敢に挑みかかる!
あ、遠当てと飛針の コンビネーションが
襲った」

「あら、どうせなら
年上の女ってシチュエーションは
お勧めよv10000円でどう?」

「…さすがに 女性相手には
手を出せない親衛隊! さぁどうする?
…あ、花月ハン自ら 丁重に
『気持ちは嬉しいが、
お金で すませたくはない』とお断り」


 喧騒が一段と広がり、絶叫と
無言の押収が飛び交う中、扉をノックする音。
 
「マクベス〜ジイちゃんが…
あ、花月さん!」
 ぱっと、顔を明るく笑うレンに
花月も微笑みかける。
「…何の騒ぎ、これ?」
「えっと…ファーストキスはいつかって
話題だったんだけど…」
「ふーん ファーストじゃないけど、
俺も花月さんとkissしたよねv」

 無邪気な少女の発言に、一瞬にして
室内が静まり返る。
「え…?」

「ホンマでっか?!
レンと花月はん いつのまにそんな仲に!?」
「何言ってんだよ、てめーにも月光仮面の時…
あ、そっか あん時花月さん
朦朧としてたもんね。ほら、十兵衛さんに
背後から襲われて、爺ちゃんの所につれてく前だよ」
「そういえば…」
「もっとも、オレも女の子だと
思って 薬飲ませたんだけどさ
で、花月さんはいつだったの?」

 重い沈黙が、立ち込めた室内。
レンが不審げに、周囲を見渡す。
「オレ…何か へんな事言った…?」
「ううん。そういえば、そんな事もあったね。
…とりあえず、僕のファーストキスは
普通に 年下の女の子とだったみたいで、
安心していたんだ」
「…?ふーん 良かったね」

 そこには
『風雅時代 無理矢理にでも
奪っておけば…!!』と後悔に沈む数人と
無駄に 追い掛けまわされる破目から
逃れられたようで、安堵している花月の姿
があったのは 言うまでもない。
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92000リク ギャグで「逃げる花月/小説」を古都さまより頂きましたv
 あれ…逃げる前に お話終っちゃってるような…