最強なる存在

「姉者、花月。提案がある」
見廻りから帰ってきた 十兵衛と俊樹が、
生真面目な表情で 2人に詰め寄る。

 風雅本部で、お留守番組となっている
花月と朔羅は、何事かと顔を見合わせた。

 ねぎらいのつもりで、お茶の用意をしていた
朔羅は手を休め振り返り、同様にお茶菓子を
広げていた 花月も、手を止めた。

「改まって、何かしら?」
見廻りの最中、不審なものでも
見付けたのだろうかと、微かに
憂慮する様子を見せ、朔羅が尋ねた。

「…2人とも、何か鋳物を 持ち歩くつもりはないか?」
「「え?」」
 綺麗にユニゾンした声は、勿論投げかけられた
花月と朔羅のものだ。

「その…花月と朔羅の攻撃は、美しいと思う」
十兵衛の背後で、何と言葉を挟むべきか
悩んでいた様子の俊樹。
意を決したように続けるのは、
下記の意見だった。

『風雅幹部は甘そうだと、周囲に認識されている』

 「勿論 俺達は、2人の戦闘の際の
優雅さが、強さに裏付けされたものと充分に
理解している」
「あぁ。だが…己の力量をわきまえぬ
愚か者も、無限城には多いということだ」

 憮然と言葉を続ける 見回り組は、
何か不愉快なことがあったのだろう。
 よく見れば、拳や服裾に
僅かだが戦闘の痕跡が、残されていた。

「…鋳物ねぇ…構わないけど、
身の回りに今あるの、これ位よ?」

 気分を害した様子も無く、飄々と
朔羅が差し出したのは…鍬であった。

 クワ…。勿論地面を 耕す、原始的農機具である。

「僕も…これ位かな…」
そういいながら 伸ばした花月の手の先には
鎌が握られていた。

「…鍬に鎌…?なぜそんなモノを…」
「2人が見廻りにいってる間、暇だから
朔羅と 家庭菜園始めたんだよね」
「えぇ。やっぱり身近に 新鮮な
野菜があるほうが、助かりますもの」

 つまり、十兵衛と俊樹が 留守にしてる間に
2人は着々と空き地を開拓していたのだろう。

 十兵衛と俊樹の脳裏に、その武器で
闘う 花月と朔羅が構成される。

「筧小姫 傍流 奥義  開墾!」
「風鳥院流外伝 秘義 草薙!」
 武器を握った、朔羅と花月。

コンビネーションでの、闘い。
 ザクザクと敵がなぎ倒されていく様子は、
脳内仮想空間で、どのように美化しようとも
…スプラッタかつコメディーの惨劇にしかならない。

「…でも、普段持ち歩くにはコレ 不便だよね」
「そうですね。武器屋にでも頼んで
折畳式にしてもらいましょうか?」
 鍬と草鎌を手に、悩む様子の声に、
十兵衛と俊樹が我に返る。

「いや、やっぱり この案は却下だ!」
俊樹の声が、必死に聞こえるのは気のせいか。
「そうだ。やはり、姉者や花月には
そのような攻撃、
ふさわしく ないだろう」
珍しく、慌てたように俊樹に同意する十兵衛。
 
 親衛隊2人が、あくまで無意識に
描いていたのは、薙刀や短剣で
華麗に舞う花月と朔羅であって、
間違ってもクワを振り上げて闘う図などではない。

 周囲の雑音が何だというのだ。
そんなものを、潰して回るこそが
俺たち親衛隊の役目であろう。
無言で目を見合わせた、十兵衛と俊樹は、
互いに頷く。
「すまなかった、姉者 花月。
今申し出たのは、単なる思い付きだ」
「単なる自衛策の一種として、考えただけだから
忘れてくれ」

 
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 お茶の後始末をするから、と親衛隊2人を
追い出して、ティーカップを洗う朔羅と花月。
「…美しい戦いを好む、花月さんが
よく あんな申し出 聞きうけましたね」
「朔羅こそ」
「……」

 休めることなく、食器を
片付けていた手が同時に止まり。
そして、同時に吹き出した。

「あぁ、可笑しかった。十兵衛と俊樹、
本気でクワで闘う 朔羅を
想像してたよ」
「それを言うなら、草刈鎌で
敵を討つ花月さんの姿だって」
クスクスと笑う、朔羅。

「…全く 持ちなれない武器で
闘ったって危ないだけなのにね。
朔羅が 鍬差し出すまで、どうやって
説得しようか 悩んじゃった」

自覚はないが、 意外と外見を気にする、スタイリスト
十兵衛と俊樹の、性格を読みきった
見事な花月と朔羅の連携。

 この二人が最強であると言われるのは、
戦いの強さではなく、不戦で勝利を得られる
このような点にあるのだが。

…筆頭 対象者である十兵衛と俊樹は、
 一生気付かないであろう。
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80000HIT 凪月様リク「最強の朔羅、花月とその被害者」で
ございました(笑) 最強というより最凶…?
な結果になってしまいましたが、リクエストに沿って
無理やり性格付けするまでなく、自然体に
書いてこの結果になりました。
被害者が、自分が被害者であると気付いてませんので
ある意味OKかと。
 リクエスト ありがとうございました〜。