ゆうしゅけくんの誕生日
7月7日という誕生日を持つ(仮)パパと、8月8日という誕生日の(仮)とーたんの間にできた子は、丁度その中間の日7月の23日に二人の元に現れた。

そう、それは現れたとしか表現ができない誕生だった。
前の晩にいつも通り、二人して並んでベッドに入り、翌日は平日だから何もせずにそのまま就寝して、朝起きたら東堂と巻島の間の位置に、赤ん坊がいたのだから。

「……なんショこれぇ……」
「ハッハッハ 巻ちゃん!これは赤ん坊と言うものだぞ!」
言わずもがななことを、二人して呟いたのは、頭が混乱の極致にいたからだ。

これが玄関前にいたと言うのであれば、
『東堂……怒らねえから素直に白状するショ… どこの女相手だ?』
と確実に凍りついた笑顔で巻島は問い詰めていただろう。

だが幾ら東堂に捨てられた女(仮)がいたとしても、鍵のかかった家の中、ベッドで隙間なく眠る二人の間に、赤ん坊を置いて去っていくというのは不可能だ。
何よりその赤ん坊は、困ったようなタレた眉と、目元のホクロ、ほんの少しウェーブがかかった細い髪と、巻島がそのまま乳児になったかのような姿をしていた。
これが東堂に瓜二つというのであれば、浮気疑惑は固定されてしまっていたかもしれない。

だが巻ちゃんに…そっくりだなと、言外に疑われても
「オレにそんな甲斐性あるわけねえショッ!?」
と逆切れしたような訴えを返され、そしてそれはこの上もない説得力を持って、東堂を納得させていた。

巻島の隠し子ではないと判明したからには、東堂がその子供を溺愛するのは当たり前だ。
いやもし万が一隠し子であったとしても、こうまで巻島とそっくりの顔で、ヨチヨチ歩いて「しょ…しょ?」なんて呟く赤子を見れば、同じルートを辿っていたに違いない。
とりあえずその赤子を、二人の子供として認知するまでは、一致した。

「……オレが父さんショ」
「役柄的にいうならば、オレが父だな!」
「おうちでご飯作ったりお掃除するのは、多くは母親ショ!だからおめェが母さんでいいッショ!」
「おうちとか、可愛いな巻ちゃん! だが譲れんよっママは巻ちゃんだ!」
のやり取りの後、不毛な会話に疲れた二人は巻島を『パパ』東堂を『父さん』と呼ばせることで、妥協をした。

「…とぉたん、おたんじょうび、なんでもいいしょ?」
小さかった赤子は成長し、まだ回らぬ舌で東堂を、『とぉたん』と呼ぶ。
一方『パパ』と呼ばれるはずだった巻島は、残念ながらそう呼ばれてはいなかった。
毎日毎日ゆうしゅけが言葉を覚える前から、『巻ちゃん 巻ちゃん 巻ちゃん』という言葉を呪詛のごとくに聞かされ続けた影響か、
どう教え込んでも「まきちゃ」としか、ゆうしゅけが呼んでくれないのだ。

思惑通りといわんがばかりに、ほくそ笑んで東堂はゆうしゅけの頭を撫でる。
「そうだぞぉ とーたんとまきちゃ よく出来たな」
「とぉたん! まきちゃ!」
「すごいぞ、ゆうしゅけー!」
「しゅごいー!」
えへんと下手くそな笑顔を向けるゆうしゅけは、幼かった不器用な自分を思い出し、巻島を少し赤面させた。


「ん?ゆうしゅけ 欲しいものが決まったのか?」
礼儀や常識といった場面では厳しいことも言うが、それ以外ではでれでれの父である東堂は、雑誌を読む手を止めた。
ソファの上で、おいでと両手を広げれば、ゆうしゅけと呼ばれた子供は、その膝の合間に入り込み、そっともたれかかった。
「あのね……ゆうしゅけ…………ほんとぉに…なんでもいいしょ…?」
言いにくそうに、もじもじと躊躇うところが、東堂の親心というツボを的確に突いた。

「勿論だともゆうしゅけ! お前のとーたんはすごいのだからなっ欲しいものを何なりというがいい!」
「…おい、お前あんま適当なコト言うなショ」
ゆうしゅけの両脇に掌を差し入れ、たかいたかーいと持ち上げた東堂の後ろに、冷静な声が響いた。

巻島は東堂のように、徹底した甘やかしはない代わりに、静かに見守っているスタンスだ。
「何でもとか言っても、無理なものだってあるショ」
リアリストとしての、公平な意見に自信に満ちた男は満面の笑みで「ないなっ!」と返す。
丁寧にゆうしゅけを膝上に座らせた後、指差しでのオマケ付だ。

「おまえのパパととぉたんは、共稼ぎでしかも一流と認められた二人だ おもちゃでもぬいぐるみでも、…そうだ、ロードバイクでもいっそ別荘でも構わんぞ」
「ほんとぉ?」
「本当だとも!ゆうしゅけは遠慮をしていたのか?かわいいなあ さすがオレ達の息子だ!!」
はしゃいだ声で、きゃあきゃあ言うゆうしゅけの頭を、東堂はこれでもかと撫で回した。
ここまで親ばか振りを徹底すれば、巻島は苦笑するしかない。
実際二人とも稼ぎはあるので、国を買ってくれとでも言われない程度であれば、都合がついた。

だが。

「えっとね……ゆうしゅけ……にーたん、ほしいしょぉ」
「ファッ!?」

幼い息子のお願いは、金で片付くものではなかったのである。
「……オレは適当なこと言うなって止めたッショ……」

飲み掛けていたコーヒーを見詰め、責任は全てお前だと目を合わせようとしない巻島。
「ゆゆゆ、ゆうしゅけ……それは……ちょっと……」
「なんでも…、とーたん……だめ……しょ…?」
我侭をいって泣き喚くのであれば、対処はできたかもしれない。
だがこれ以上はない程、ショげた顔で見上げてくるゆうしゅけに、東堂は内心で頭を抱えた。

父としての威厳が破れる姿、まして言ったことを即座にウソですと撤回する真似は、息子に見せたくはない。
巻島は自分は諌めたという立場だが、やはりゆうしゅけが困り顔の様子を、眺めていたくはないのだろう。
そっと自室に戻ろうとしたところを、東堂が強い力で手首を掴んだ。

「巻ちゃん……今から頑張れば、ゆうしゅけに兄を作ってやれるだろうか…」
「できる訳ねえショ!百万歩譲ってもできんのは弟か妹ッショ!」
そもそもゆうしゅけだって、目が覚めたらいきなり『いた』のだから、どこをどう頑張っても、弟もしくは妹ができるかすら不確定なのだ。
だからといって、オレは関係ねえショと言い切ろうにも、すでに巻き込まれてしまっては通用しない。
「お前が兄貴役やってみるとか……どうショ」
「なるほど、その手があったか!」

意気揚々と、ゆうしゅけに
「オレがこれからゆうしゅけの、にーたんになるぞ!」
と屈みこみ向き直った東堂。
しかし、唇をきゅっと噛み締めたゆうしゅけに
「とぉたんは、とぉたんしょ… にーたんになったら、とぉたん、いないいないになるっしょ」
と涙ぐまれ、可愛すぎかなんだこれ人類最終兵器かと呟きながら、頭を抱え悶絶している。


「……お前んトコの荒北とか新開って、バイト代払えばゆうしゅけの兄貴役とか、やってくんねえ?」
思いついたみたいに巻島が言えば、東堂はしばし考える風情になった。

「確かに荒北も新開も、兄貴という性格にはぴったりだ だが…人見知りのゆうしゅけに、初対面からあの二人では難しいだろう」
「…だよなァ どう見ても東堂より年上っぽく見えるし」
「おい待て巻ちゃん それはオレが童顔だと言う意味か!?」
「………クハッ ノーコメントっショ じゃあ真波はどうだ?」
東堂の知り合いの中で、巻島が知る限りではもっとも若く見えていた相手を名指しする。
しかし東堂は同意せず、それどころか真顔で詰め寄ると、巻島の両肩をがっしり掴んだ。

「…巻ちゃん いいかよく聞いてくれ オレは世界一巻ちゃんを愛している巻島二ストだ」
「お、…おぅ」
マキシマニストってなんだよと思いながらも、有無を言わせぬ迫力に巻島はこくこくと頷く。

「しかし幾らこのオレでも…巻ちゃんの不思議さと天然さと、真波の自由さと電波さを掛け算されては……手に負えんのだよ…」
よくは解らないが、ゆうしゅけと真波が揃えば面倒を見切れる自信がないと、東堂は言っているようだ。

かわりにとばかりに、
「巻ちゃんのトコの…金城と田所はとても兄貴分として面倒見が良さそうだったが?」
「……いや……確かにあの二人は、すっげぇ兄貴とかにオレも欲しいと思うっショ…でもよ…」
言いにくそうに、小声になっていく巻島に変わり、東堂が続けた。
「確かに荒北たち以上に、『ゆうしゅけの兄』は…キツイな」
「ショ」
二人とも高校時代から、下手をすれば引率に間違えられていたレベルだ。

「ああ、ならばあの赤い髪の後輩くんはどうかね?」
「鳴子かぁ…アイツは確かに、年下とかに友達っぽい兄貴役ができそうだけどなァ」
む、としばらく考え込む巻島は、首を振った。
「多分アイツのアグレッシブさに、ゆうしゅけじゃついていけねえショ」
元々サービス精神の塊で、人一倍元気だった鳴子だ。
大人しく人見知りのゆうしゅけタイプを相手にしたら、某テニスプレーヤーのように「頑張ればできるでぇっ!!」と熱く指導を重ねるに違いない。
それはそれでいいことなのだが、それを誕生日にというのは、少々違っている気がした。

「ならば…」
「そうだな、小野田が一番ショ」
顔立ちが若く、人見知りなタイプにも笑顔で接し、インドアでの行動も厭わないという後輩だ。
しかもいまだに巻島を慕い、東堂を尊敬しているという態度なので、お願いをしてもカドは立たないだろう。
携帯を取り出しかけた巻島を制し、東堂が自らのそれを取り出した。
「ゆうしゅけに、何でもと言ったのはオレだからな オレからきちんと頼ませてくれ」
実は巻島が渡英時に、互いに連絡を取り合っていたと今更聞いて、驚く巻島を尻目に東堂は小野田の番号を押した。

**
「こんにちは ゆうしゅけくん」
「しょ……しょ」
「はじめまして…と挨拶したいんだけど、ボクは君が小さい時に何度か会ってるんだ だからこんにちは」
照れくさそうに、巻島の膝後ろに縋りつき隠れるゆうしゅけに、小野田は屈みこんでにこりと挨拶をする。

「ほらゆうしゅけ 小野田くんがにぃたんになってくれるのだぞ、きちんと挨拶をせねば」
ゴールデンウィークアなどに休日出勤が重なっていた小野田は、東堂の頼みを快諾した。
職場では休日手当て申請より代休を取れと言われたのと、祝日が重なったので丸一週間予定を空けてくれたというのには、頭を下げるしかない。
バイト代をいらないといい、それどころかお邪魔するのですから食費ぐらい払わせてくれと言う小野田を、説得するのは大変だった。
東堂と巻島は相談の結果、小野田が不在の際に、カバン奥にバイト代はこっそり忍ばせておこうという事で、結論している。

もじもじしながら、小野田の前に現れたゆうしゅけの頬はつやつやと期待でばら色だ。
「…にーたんショ?」
「うん、そうだよ …といっても、ごめんね?ボクがここに居られるのは一週間だけなんだけど…」
「しょ?」
よくわからないと首を傾げるゆうしゅけを、小野田が抱きかかえる。

「ゆうしゅけくん、お兄ちゃんができたら何がしたかったのかな」
小野田の笑顔を向けられたゆうしゅけは、こそりと耳たぶ近くに口を寄せ
「あのね、ナイショしょ ゆうしゅけ自転車乗れるようになって、とぉたんとまきちゃ びっくりさせるっしょ!」
「そうか!頑張ろうね!」

耳近くで本人は囁いたようだが、所詮は幼児。
傍にいた東堂と巻島は、内容がまる聞こえでその可愛らしい秘密に、頬が緩みそうになるが聞こえないフリをしている。
巻島はまだ口を噤むぐらいなのだが、東堂は膝を握り無言で小刻みで震えていた。
おそらく内心では互いに(うちの子まじ天使…!)と叫びまわっているのだろう。

自転車とゆうしゅけは言っているが、実際に乗ろうとしているものは、三輪車だった。
幼い頃の巻島が、使っていたというものが用意されている。
本来ならばとっくに捨てられていただろうものだが、巻島家の収納場所はかなり広く、場所に困らないため綺麗な状態のままで保管がされていた。

東堂からしてみれば
「三輪車で転ぶとは……どういう仕組みだ巻ちゃん…」
と真顔で問いかけたいものだが、巻島の幼い頃そのままだというゆうしゅけは、何度も器用に三輪車で転んでいた。

「あの、じゃあボクとゆうしゅけ君でちょっと公園行って来ますね」
いきなり幼児と二人だけになっても大丈夫かという問いかけに、小野田は平気だと三輪車を片手に、もう片手でゆうしゅけの手を引いて歩いていった。

「……ゆうしゅけが……独り立ちしていくって……こんな気持ちなのかな…巻ちゃん…」
「クハッお前大げさッショ!」
うっすらと涙ぐみかけている東堂の頭を抱いて、巻島はニヤリと口端を上げた。
「…ナァ東堂、久しぶりの二人きりっショ」
「巻ちゃんっ!!」
急遽絶好調になった東堂は、寸前までゆがめていた顔を瞬時に最高の笑顔に変え、巻島の肩を抱いた。

**************
「ぃまっしょ」
「ただいま戻りました!」
靴を脱いだゆうしゅけが、巻島のもとへ走りぎゅっと抱きつく。

「ゆうしゅけ、おかえり …今日はメガネくんと何をして遊んでもらったんだ?」
おいでと両手を広げた東堂に、とてとてと向かうゆうしゅけは、にぃと不器用に口の両端を持ち上げ
「ナイショっしょ!」と得意げだ。

「ゆうしゅけ、じ、自転車乗ってないしょ!」
「……そうか、ゆうしゅけは自転車以外で遊んだんだな」
「しょっ」
下手な嘘のつき方もほほえましく、大人側はゆうしゅけが身振り手振りで、公園までの道のりを話すのを目を細めて聞いていた。

「…で、小野田ァ…コイツ三輪車乗れるようになりそうショ?」
「ふふっ 大丈夫ですよ ゆうしゅけ君が晴れ姿を披露した時は一杯祝ってあげて下さいね」

三輪車で転びまくると言うのも、ある意味特殊能力かと思うが、記憶の中のゆうしゅけは、とにかく転びまくっていた。
泣く代わりに「しょぉ…」と小さく呟いて、うつむく姿には、おろおろとしかできない自分と違い、後輩はうまく指導をしてくれているらしい。
巻島が内心で苦笑をしていたら、その後輩は
「なんだか巻島さんに教わったことを、小さな巻島さんに教えてるって…不思議な気持ちです」と照れくさそうに頬を掻いた。

ゆうしゅけの誕生日当日。
東堂が腕をふるって料理を用意し、巻島はデリバリーでケーキや誕生日用のデコレーションを準備している。
本来はそれらはサプライズ的に整えるものかもしれないが、小野田も混じり、きゃっきゃと楽しそうに浮かれるゆうしゅけとともに、お誕生日会のセッティングは進められた。
かなりいびつ……いや、オリジナリティ溢れる折り紙のリングを繋げたものは、大きさや太さがバラバラなだけでなく、
何故か時折切ってもいない正方形の折り紙が、輪の一部に詰められている。
「かっこいいショ!」
と目を輝かせるゆうしゅけのセンスに、東堂は「そ、そうだな」と返すばかりだが、巻島と小野田は両拳を握り
「お前センスあるッショォ!」
「すごいね!ゆうしゅけくん!」
と絶賛だ。

ケーキや料理を食べ終え、巻島からのプレゼントだと、幼児用のヘルメットを貰ったゆうしゅけがにまりと笑った。
「とぉたん、まきちゃっ! ゆうしゅけ!じてんしゃ練習したしょお」
テーブルの食事後もそのまま、袖を引いてマンションの共有プレイロットへ東堂と巻島はつられ行った。
嬉しそうに新しいメットを被ったゆうしゅけが、三輪車に跨りえへんと咳ばらいらしきものをする。

「みるっしょぉぉぉ」
……あ、転ぶ。
そう予想した東堂と巻島とは反対に、小野田はぐっと深く頷いた。
「そうだよ!ゆうしゅけ君その勢いで頑張って!」

体をぐらんと左に倒したゆうしゅけは、今度は大きく右に倒れる。
だが何故か、車輪は安定して倒れることはなかった。
そのごも『くはっ』と笑いながら、体を揺らしそれでも前へと進み続ける。

「ど、どういうコトショ…?」
「す、すごいなゆうしゅけ……」
呆然とする東堂と巻島に、小野田は向き直った。

「ゆうしゅけ君は、巻島さんのスパイダークライムに憧れていたんです」
だから中途半端にぐらぐらと体を揺らし、そのせいで三輪車に乗れずにいたので、いっそ思い切り体を倒してみればと助言してみたと小野田は続けた。
普通ならばそこで転ぶはずなのだが、何故かゆうしゅけはそのリズムでバランスをとるのがもっとも適していたらしい。
周囲から見ればあぶなかしいの極致の、三輪車芸。
「…さすが、巻ちゃんの子供だ!」
「クハッ お前ェの子でもあるショ」
涙を流しながら、拍手を連打する東堂と、平気なフリをしながらやはり涙ぐんでいる巻島がほこらしげに駆け寄ってくるゆうしゅけの頭を何度も撫でた。


「……かえ、かえっちゃ いや、しょぉ……」
ぐしゅぐしゅと脛に抱きついたまま離れないゆうしゅけに、小野田はこれ以上はない困った顔になっている。
「ほら、小野田も一週間以上は休めないショ」
巻島がなだめ、離そうとしてもいやいやと首をふり、ゆうしゅけはますます強い力でしがみ付く。
「しゃかみち、ゆうしゅけの にいたんしょぉぉっ」

「ゆうしゅけくん…ごめんね でもまた今度遊びに来るから」
「ほんと、ショ?」
「もちろん!だから、ね 今日はばいばいしなくちゃダメなんだ」
「こんどっていつしょぉ… あしたっしょ?あしたのあしたっしょ?」
「え……えっと……… 週末……ぐらい…?」
お邪魔して大丈夫でしょうかと目線で問いかける小野田に、両親(仮)はこくこくと何度も頷く。

(すまないね、メガネくん)と拝むようにする東堂に、小野田は首を振って笑った。
「ゆうしゅけ君、ボクからもお誕生日プレゼント送らせて欲しいな 何か欲しいものはある?」
そっとズボンを握っていた指を外させ、小野田が目線を幼児にあわせ屈みこむ。
「たんじょうび、しょ?」
「そうボクに大事な弟ができたんだから、ボクからも何かね」

「えと……えっと…しょぉ」
こしょこしょとうつむいて囁いた言葉は、小野田にしか聞こえなかった。
「え……と……… うーん……それは…」

ゆうしゅけの頼みを聞いた小野田の眉尻が、困ったみたいに下がる。
ただでさえ一週間振りまわして、これ以上散在まではさせられないと、巻島は小野田を呼び寄せその肩を抱いた。
勿論すかさずその手を東堂が外し、自分がその場所に入り込んだのはお約束だが、東堂も同様の心配はしていたのだろう。
「無理をいったようだな、すまないメガネくん 言ってくれればその…失礼だがこちらで用意させてもらう」
なあと目線で問いかける東堂に、巻島は首を縦に振った。

「あー……えっと……」
いいにくそうな小野田に、そんな高価なものでも頼まれたのだろうかと二人は息を呑む。
ちらりと小野田が後方を振り駆れば、小野田がまた来てくれると、安心したらしいゆうしゅけは眠りへと落ちていた。
「お、ゆうしゅけ眠ってるショ 悪ィな最後まで面倒かけて」
「いえ、そんなこと…ボクも楽しかったです!」
「…巻ちゃんはいい後輩を持ったな……オレからも改めて感謝をするぞ、メガネくん」

さあこれで、心置きなくゆうしゅけのナイショな内容も言えるだろうと微笑む二人に、小野田は思い切ったように言った。

「ゆうしゅけくんはっ!にぃたんが出来たから今度は弟が欲しいそうです!!」
「「え」」
「すみませんっ!!幾らボクが頑張ってもこればかりは無理ですので、お二人で頑張って下さい!!!」

それでは失礼しますと、頭を大仰に下げ、後輩は扉から走り去っていった。

「……ゆうしゅけには、少なくとも来年までは待てと言い聞かせねばな」
「おい」
「さあ、頑張ろうか 巻ちゃん!」
「ちょっと待て」


ゆうしゅけを抱きかかえ、部屋へと連れて行く東堂は、ニィと男くさい笑みを浮かべた。
「一週間、ご無沙汰だったからな」
と低い声で巻島の耳朶近くで囁いた東堂は、しゃがみこんだ巻島に「風呂の用意をしてこようか?」と悪戯げに微笑んでいた。