偽りの教育


自分に勝っても、表情一つ変えずに賞状やトロフィーを受け取っている相手に、絡んだのは数回前のレースだった。
それから現在まで、半年もたっていないだろう。
先頭集団で、目立つ髪色に気づいては『うわ、またいるよコイツ』なんて思っていたのに、東堂は気づけば目が玉虫色を探すようになっていた。

表彰式が終わる前には、必ず追いかけ、自分が勝った場合には誇り、巻島が勝てば勝利者らしい振る舞いを教授した。
気づけば呼び方はタマムシや巻島から『巻ちゃん』に代わり、東堂のロードレースに欠かせない人物にまで昇格している。

「巻ちゃんっ!」
表彰式が終われば、東堂を探そうともせずに、巻島はそそくさと姿を消している。
それはなんだか、自分をおざなりにされているようで、東堂は意地でも毎回、巻島を探し出しては、肩をつかみ呼び止めていた。
あれだけ派手な髪と、目立つ黄色のジャージという取り合わせなのに、巻島は自分の気配を殺すのが上手い。
ふと、気づけばもういないというのに慣れる前に、東堂は巻島を捕獲する目を手に入れていた。
「…オレ、もう帰るとこショ」
「ならんぞ巻ちゃん! こういった場合はまず、互いの健闘をたたえるべきだ!」
そう言った東堂は、少しダルいみたいに髪を指で梳き流した、巻島に何故か頬を紅潮させた。

暑いからと腹部近くまで下ろされたジッパーは、巻島の白い肌を惜しげもなく晒していた。
ほんの少し巻島が屈めば、確実に隙間から胸の突起は垣間見えるだろう。
首筋に残る汗に、数筋張り付いた髪の毛さえ、なにやらいかがわしいほどの色気を放っている。
「ま、巻ちゃん!もう少し……周囲に気を配れ!」
そう言って、先ほど下ろしたばかりの新しいタオルを、東堂は巻島の首へと巻いた。
「……ショ?」
ふわふわの肌触りは気持ちよく、首筋を生々しく伝う汗を吸収してくれて、気持ちいいが、巻島には理由がわからず、首を傾げるばかりだ。

咄嗟に首筋や胸元を隠したくて、タオルを巻島に巻いてしまった東堂は、首を傾げられ、慌てて言い訳を考える。
「今日はライバルとしてオレ達は最高の勝負をした! こういう場合はな、身に付けているものを何か交換しあうのだよ」
「え……そう…なんショ? じゃあオレも……」
ゴソゴソとバッグを漁り、巻島が取り出したタオルはブランドものだった。
これをそのまま、貰ってしまうのはどうだろうと、東堂は再び言い訳を重ねる破目になる。
「…あ、洗ったら返すからな!次のレースにも参加しろよ」
「……スポーツ選手がユニフォームとか交換するのって、お互い洗ってまた返すのかよ?」
サッカーやテレビ中継の多い競技で、そういった光景を眼にすることも少なくないので、東堂の言葉を疑わなかった巻島だが、洗濯して返すのだとは知らなかったと目を瞠る。
「そ、……そうだぞ巻ちゃん!互いの汗や努力がしみ込んだ物を、リフレッシュさせることで、また新たに戦おうという意味になるのだ」

―――嘘です、すみません

「知らなかったショォ……東堂は、いつも色々教えてくれるショ」
淡々とではあるが、感心したように呟かれて、東堂は訂正する機会を持たぬまま、無言でタオルを自分のカバンへと詰めるしかなかった。
焦れたような、照れたような不思議な表情をした東堂が、きゅっと唇を結び、巻島の手首を引いた。
「と、東堂…?」
「こっちだ、巻ちゃん」

微笑んだ巻島の顔を見て、思わず手首を掴んでしまった。
もう帰ると言っていた巻島を、少しでも東堂は自分の傍にとどめておきたかった。
数回前のレースは、東堂と巻島が、コンマ以下の数値も重なるという同着だった。
先に表彰台に上った巻島の肩を抱き、笑顔で手を振る東堂の横で、巻島の無表情な様子を見て、無愛想な男だと勝手に判断する者が存在するのを、東堂は腹立たしく思う。
悪意なく、むしろ東堂に好意的な反応だったのだろうが、無意識に東堂は眉を顰めていた。
なんだか自分を、貶められた気分にすらなる。
その時すでにもう、『巻ちゃん』と呼んでいただろうか定かではない。
とにかく去ろうとした巻島を捉え、東堂は
「オレがお前に、レース以外の常識を教えてやる!」と一方的に言い放っていた。

迷惑と困惑がないまぜになった巻島は、逃亡しようとしたが、一度決めた東堂はしつこかった。
巻島が途中全力で、ロードバイクで逃げようとしても、落ちることなくどこまでも着いてくる。
段々人気の来ない場所に逃げ込んでしまい、巻島は自分の窮地を悟り、諦めてそれ以来『東堂の教え』にそれなりに耳を傾けるようになっていた。
実際世間ごとに色々うとい巻島にしてみれば、田所や金城がいない場所での東堂の助言に、救われていた事も多かった。

他者に声を掛けられ、どうしていいのか強張っていれば、すかさず東堂が割り込んできて会話を拾ってくれる。
レースの申し込みをうっかり忘れていれば、電話で確認してくれる。
まれに鬱陶しいと思うこともあるが、子供が親に反抗するのに似た心持での感情とは別に、言ってることは正しいことが多いと、巻島も徐々に東堂を受け入れ始めていた。

今回のレースはゴールが、スポーツ競技場も可能な大規模な公園であったので、施設内にシャワーも設置されていた。
「帰る前に、こういった設備があれば、利用していくのもいいものだぞ、巻ちゃん」
ようやく振り返り、脚を止めた東堂に、巻島も、大人しく頷いた。
汗でベタベタした体で帰るより、さっぱりできるのならば、それに越したことはない。
シャワーは有料なので、お小遣いを少しでも大事にしたい学生たちは、あまり利用しないようだが、ペットボトル一本より安い価格であれば、巻島には安いものだった。
それでも一通り身を清めた先陣者たちは存在したが、東堂や巻島は少し遅れて入ったからか、運がいいことに貸切状態だ。
あまり人ごみが好きでない巻島が、ジャージファスナーを開けながら、
「ラッキーショ」と横を見れば、東堂は頬を紅潮させながら、「そうだな!」と力強く同意していた。

東堂は、巻島に合わせてどうやら待ってくれているらしい。
肩から上が覗ける隣のブースから、なにやら真剣な面持ちで、湯を浴びながら巻島を見ていた。
顔が上気しているのは、湯気に当たっているからだろう。
だが元々のんびりと行動し、同時に髪を全体まで洗うのに手間取ったり、クリームを擦り込んだりしている巻島は、東堂より時間がかかってしまう。
「東堂……先、出てていいショ?」
「えっ!?…あっ……いや、そそ、そうだな!」
東堂はそう言ったのに、どうやらお湯を冷水に切り替えたらしく、勢いを増して頭から浴びはじめた。
同時に
「落ち着け…オレ………落ち着くのだ……白い肌がなんだというのだ……ウサ吉の腹部の方が白い……桃色の………が……なんだと……」
お経のようなものを唱え始めた東堂が、そこで口を噤んだ。
「エロいし卑猥だ!! 落ち着けるものか巻ちゃんっ!!」
いきなりそう言って、シャワールームを東堂は出て行く。
「……な、なんだったんショ……」
呆然としたまま、巻島は隣のブースの冷水を勢いよく噴出す蛇口を、そっと閉めた。

「…気持ちよかったショォ」
「そうか、それは良かった」
すでにいつもの様子に戻っていた東堂は、ベンチに座り、頭を抱えていた。
「…具合、悪いショ?」
カッターシャツを羽織っただけの状態で、うつむく東堂を覗き込めば、東堂はベンチの後ろに音をたてて倒れこむ。
「うぉあっ!」
「だだ、大丈夫か 湯あたりでもしたのかよ!?」
「……いや、平気だ……それより巻ちゃん そのようなはしたない格好で、男を誑かすのはどうかと思うぞ…!?」
「お前の冗談はたまにわかり難いショ」
「いや、冗談ではなくてだな!!」
再び頭を抱えた東堂は、「逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ」という、どこかで聞いたことのあるフレーズを繰り返していた。

まああれだけ元気に叫べるなら、大丈夫だろう。
東堂のタオルで、体を拭いた巻島は、どこかくすぐったい気持ちになり、「ショ」と小さく笑った。
その様子に息を呑んだ東堂が、タオルを手に勢いよく立ち上がり、巻島の肩を掴む。
「東堂 …どうかしたのかァ?」
タオルで首筋を拭いていた巻島は、首をかしげてただ見返すが、東堂は何事かを言いかけては唇を閉じるという行為を繰り返していた。

ぼんやりとその様子を見詰めていた巻島の髪先から、ぽとりと水滴が落ちる。
それを腕に受けた東堂は、熱い何かが当たったみたいに、慌てて肩から手を離した。
「ま、巻ちゃん!その……だな、オレは勘違いをしていた!」
「なんの話ショ」
「先ほどオレは交換したものを洗って、互いに返すと言ったが、それは古い伝統のようでだな!今は交換したアイテムはそのままでいるようだ」
スマフォで調べたのだと東堂は言うが、そのスマフォは巻島の視界に見当たらなかった。
それでも東堂の行動がおかしかった理由が解った、巻島はニィと口端を上げ笑う。
「お前勘違いしたから、恥ずかしくて変だったショォ だよなあ、ワールドカップなんかでユニフォーム交換したら、また戻すの大変ショ」
うんうんと頷く巻島に、東堂は畳み掛けた。

「その通りだ!だから本来ならば、先ほどのタオルは交換したままにしたい」
そこで息を吸った東堂は、巻島の首にかかっているタオルを半ば強引に奪い、ほぼ濡れた様子のない、巻島のタオルを頭から被せた。
「だが巻ちゃんのブランドタオルに比べたら、オレの今回のタオルは使い古してしまったものだ 申し訳ないので、次の機会に改めて交換してくれ!」
そう言いながら、東堂は濡れたタオルをそそくさと折り畳み、簡易ファスナーのついたビニールパックに仕舞っていた。
「…別に、いいのによ」
「そうはいかんな! あ、巻ちゃん頭を拭いてやろう 座るといい」
強引に巻島をベンチに座らせ、頭をタオルで拭く東堂は、本来の快活な姿に戻っていて、巻島を安心させた。

カチャリと後ろ手に閉めた部屋の扉を、ロックする。
レースで疲れたので、しばらくそっとしておいてくれと言っておいたので、邪魔は入らないだろうが、集団生活での無条件の知恵だ。
ベッドにのそのそと上がり、ビニールパックを取り出せば、それだけで東堂の下腹部にずくんと、脈が走る。

ファスナーを開けて、濡れた体をぬぐった湿るタオルを取り出す。
ふわりと、巻島の髪から漂う香りがした。
「……っ……!」
タオルに顔を埋めるようにして、音がするほど荒く呼吸をすれば、鼻腔は巻島の匂いでいっぱいになった。
「巻ちゃんっ……巻ちゃん……」
目をつぶって、片手で下着ごとボトムをずらし、触れた昂ぶりはもう、硬くなり始めていた。
屈んでこちらの様子を窺う巻島の見せた、胸の先端は桃色だった。
炎天下のレースのあとでも、焼けていないと思った滑らかな肌は、着意の下ではもっと白かった。

屹立した下肢からは、滴が幾らでもあふれ出てきて、東堂の手を汚す。
このタオルを、巻島が使用していた。
首筋を、腰を、滑らかな双丘を…エロい乳首をこのタオルが触れたのかと思えば、東堂の脳裏は白く霞む。
無防備にシャワーを浴びている巻島の、胸の尖りを舐めたいと思った。
「くっ……巻ちゃん……っ…」
東堂の脳内で、巻島を寝台へと押し倒してみる。
怯えた表情をした巻島の両手を、頭上に掴み拘束し、シャツは乱暴に破り取り去る。
震えて薄い横腹や脇を晒した巻島の姿は、この上もなく悩ましげで東堂に邪まな熱を植えた。
(あっ…嫌ショ、東堂 やめ……)
ビクついた涙目の巻島を想像に、血がざわめき、官能の波が押し寄せる。
(…やっ… 東堂、東堂ぉ……やめ……)

――この体は、どこまでオレを狂わせるのだろう

ひょろひょろとした、頼りない風情で、オレを抜いて一着になった。
オレの気持ちを奪い、心を奪い、視線を奪う。
目の前で大きく揺れる腰は、レース後に思い起こしてみると、どれだけ卑猥なことか。

脳内の巻島は、東堂に見られているだけでも敏感に揺れ、反らした背は誘うように、胸の尖りを差し出している。
(東堂ぉ…… あっ…)
タオルを噛み締め、いっそう巻島を脳内でよがらせてみれば、東堂はあっけなく白濁を放ち、達していた。

己の欲情とないまぜになった恋情だが、巻島に隠すのは容易だった。
一度巻島は相手を内部に入れてしまえば、ほぼ無条件的に信頼し、東堂のいう事も口答えしながらも、渋々と受け入れる。
どうせ取り替えるならば、新品ではライバル同士の交換として意味がない。
使い慣れたものを交換しようと、手に入れた巻島のタオルは、もう何度となく東堂の夜の重要アイテムとして使用された事か、目の前でほやんとスポドリを飲む男は気がついていないだろう。
ペットボトルの蓋が、硬くて開けられないと黙って困っているのが可愛い。
ストローがないと、一生懸命自分のカバンを漁っているのが可愛い。
そっと巻島用に準備していた、コンビニで以前に貰ったストローを差し出せば、輝いた顔をするのが可愛い。

日々思いが募る中、東堂は巻島邸に泊まる機会を今日、得ようとしている。
ロングライドという名目で、週末の部活を休み千葉を訪れた東堂は、突然の大雨で巻島の家への戻ることを余儀なくされた。
「すげェ雨ショォ…」
そう言いながら、寮でも食堂や娯楽室にしかないような大型テレビをつければ、神奈川方面の電車はそこかしこで運転中止というテロップが流れていた。
「これは……参ったな」
「泊まっていけばいいショ?」
帰宅する前から、そう思っていたらしい巻島は、風呂を用意してるから先入れと、東堂を促した。
だが東堂は、寮などへの連絡があるからと、巻島に返す。
「じゃあ 悪ィけど、オレ先に入るショ」
「ああ、すまんね」

悪いと言った巻島の言葉は、長い入浴時間にかかっていたらしい。
土砂降りの後でもタオルで水気はふき取っているし、風邪を引く時期でもないので東堂はあえてゆっくりしろと声をかけておいたが、しばらくすると落ち着かなくなった。
興味のある相手、タオルの残り香を嗅いだだけで勃ってしまうという相手の部屋に、一人きり。
ごくり、と喉が動いた。
「い、いかんぞ! 巻ちゃんはオレを信頼して部屋にまで上げて……」
頭をぶんぶんと振った東堂が、ぎゅっと目を閉じる。

深呼吸して、ようやく落ち着いた後、目蓋を持ち上げれば、目に入ったのは巻島のスポーツバッグだった。
開いたファスナーの隙間から、今日利用していない公式サイクルジャージが覘いている。
――ならん、ならんよ……このオレが、巻ちゃんのジャージパンツの匂いを嗅ぐような真似をしては…!
だが意志とは裏腹に、東堂の手はゆっくりと、そちらに向おうとしていた。

あと少し、で布地に触れようとした瞬間、カチャリとドアノブが回った。
「…何してんショ?」
巻島が扉を開けたときに目に映ったのは、ブリッジのような格好で、すさまじい勢いで後退して壁にぶち当たっている東堂だった。
その動きと髪の毛の触覚のせいで、どうもあまり人類に好まれない生物の動きを連想し、巻島は眉を顰めた。
「いいい、いや なんでもないっ!何でもないぞ巻ちゃんっ そうか風呂が空いたかでは使用させて貰うとしよう!」
そそくさと部屋を出て行った東堂を、巻島はただ首を傾げて見送っていた。

(と、東堂尽八……今日はどれほどの極致に追い込まれねばならんのか……!?)

気軽に先湯を譲れば、当然だが後から入ったものには痕跡が残る。
巻島の髪から漂う香りが湯気で充満し、巻島の浸かった湯船に残るお湯。
横にあるスポンジはまだ湿っていて、これは巻島がたった今、体を洗うのに利用したものに違いない。
荒くなりそうな、呼吸を意志で押さえ込む。
「落ち着け……オレ ……山神の意志の強さを見せてやる時だ!」
エコーする般若心経が響くバスルームは、家族がいたら不審がられただろうが、幸い家人は不在だった。

「勘弁してくれ、巻ちゃん……」
のぼせそうなほど長い時間、風呂に浸かっていた東堂は、巻島の寝台脇でガクリと膝を折った。
滑らかな手触り良い長い髪は、シーツの上で広がり、巻島はくうくうと心地よさげに、寝息を立てている。

――無防備にも、ほどがあるぞ 巻島裕介!!

指を頭の上に置き、そっと髪を絡ませるように梳く。
ダメだ、離れなくてはと思うのに、手は巻島の指先に触れ、腕にさわり、首筋を撫でてしまう。
早く目を覚まして欲しいという思いと、覚まさないでくれという願いの、どちらも本物だった。
そっと胸に手を這わせれば、布越しに硬くなる箇所に気づく。
息を殺しながら、その屹立を摘み、捏ねるように転がせば、巻島は「んっ…」と甘い声を洩らした。

慌てて指先を外せば、巻島はまだ目覚めていなかったようで、また眠りに陥っている。
薄い布越しからは、もたげた胸の突起が張り詰めていた。
「……もう、無理だ……… 限界頂点だ……!」
そっと巻島の体を跨ぐように馬乗りになり、耳朶に低く東堂は囁いた。
体を片手で支え、片手で巻島の腰から密かな窄まりへと掌を添わせても、巻島はまだ目覚めない。
そのまま指を、巻島の下腹部に当て、脚の付け根から優しく往復させれば、巻島は緩く反応し始めていた。

いっそ荒っぽく下着ごと毟ると、ぬめり始めた先端が汁を滲ませ、角度を持ち始めている。
幾ら巻ちゃんが相手でも、男の性器などを見たら、その瞬間に萎えるかもしれないという、東堂の淡い期待は見事に裏切られ、燃え立たせる。
薄い下生えに、淡い肉色した先端部は、グロテスクなところなど微塵もなく、血をざわめかせる。
「……かわいい……巻ちゃん……」
眦を細め、東堂がその肉茎に指を這わせた瞬間、頭上から掠れた
「な……何してる……ショォ……」という呆然とした巻島の声が響いた。
ビクついた様子で、反射的に脚を閉じる巻島の膝裏を、力尽くで東堂はこじ開け、それでもにこやかに笑った。

「なに、巻ちゃんが寝たまま勃たせていたのでな レースが不完全燃焼で、体が疼いていたのだろうから、オレが昇華させてやろうと思っただけだ」
「だ……だけ……じゃ、ねえショ!?」
「恥じることはないぞ、巻ちゃん 闘争本能は性欲とも近しい関係だ だからライバルであるオレが責任を持って処理するのは自然な理屈だろう」
「ど、どこか自然……あ……っ……!」

東堂にいじられ、喜悦を覚え始めていた巻島の先端部からは、ぬめりが滲み、巻島の身を竦ませた。
「巻ちゃん、もちろんこんなことは…他人にさせてはならんぞ」
「する訳……ねえショォ……っふぁ……」
拒むように首を振っても、湧きだす快楽は、巻島の全身から力を奪っていった。
くびれや竿を何度も東堂の、鍛錬で硬くなった指が往復し、巻島の体を火照らせていく。
「あっ…… いや……っ……東堂……!」
気づけば下腹部に当たる東堂も、硬く猛り、剥きだしにされていた。

「は…ぁっ……」
東堂が荒い息で、露出した先端を、巻島の濡れたくびれに擦りつけ、掌でその二つを覆う。
「あっ……東堂、離せっ……もう……イく……」
「いいぜ巻ちゃん……オレも……っ…」
何度か往復するようにしごかれ、強く撫でられ、巻島の脳裏に白い光が満ちると同時、腰が小刻みに揺れ、欲望を解き放っていた。

ひっくと、子供が泣くような声を出し、顔を上気させた巻島が涙をこぼす。
「ヤって……イヤだって言ったショォ……」
「…でも、気持ちよかったろ?巻ちゃん」
証拠とばかり、巻島の目の前に、白濁で汚れた手を差し出す東堂は、意味ありげにそれを舌で舐め取った。
「……!」
慌てて身を起こした巻島が、ベッドサイドにあるボックスを取り、ティッシュでその掌を拭ってやった。
「なあ巻ちゃん、恥ずかしいことじゃない 性欲のコントロールも体のつくりには大切なものだ」
もっともらしく告げる東堂に、巻島は解ったような解らないような顔で、曖昧に頷く。
「そ……そうなんショ…?」
「そうだ だからたまには…こうして互いに抜き合うことで、バランスを整えておくことも大事なのだよ」
まだ疼くような腰を、東堂は優しく撫で、優しく微笑んでいる。

膝をすりあわせ、もじもじと恥ずかしげにしていた巻島は、そういうものなのかと素直に感心していた。

「すっきりしたら…また眠たくなってきたショォ…」
あふと欠伸をした巻島は、こてんと身を横たえると、満ち足りたようにまた眠ってしまった。
東堂がそっと頬に掌を添えれば、うっとりするみたいに、すり寄せてくる。
(ふぉっ………!)
自らを慰めるのと代わらぬほどの、甘美感が東堂を支配した。

「こんな無防備で、かわいい巻ちゃんを……他のやつに知られる訳にはいかんな」
好きだという自覚より先に、深い独占欲に捕らわれた東堂は、薄く笑う。

「東堂はすごいショ、オレの知らないことをいっぱい知ってて…その…気持ちよくもしてくれるショ」
「ハハハ巻ちゃんっ!このオレにそこまでさせるなど、お前ぐらいだぞ オレの大事なライバルだからな!」
「あ、あんなコトまでするなんて… 金城や田所っちには嫌がられるだろうし、恥ずかしくて無理ショ…」
「……そんな所も愛らしいな、さすが巻ちゃんだ だが卑下はいかんな、巻ちゃんはオレを魅了するほど美しい!」
(金城や田所相手に、巻ちゃんが同じ真似をしようとしたら、オレは何をするか解らんよ)

今日も巻島を、怯えるほどの快楽で痺れさせ、オレ以外とは決してこんな真似をしないように教え込まねばならんなと、東堂は当然と目を細めた。
「お前もキモいでいいショ……でも、あんがとナ」
クハッと、巻島が顔を紅くし、照れたように口端を上げる。
今夜も、この唇から懇願を引きずり出し、あらぬ場所を堪能しながら、ライバルであるのだから当然だと囁こう。

「と、東堂……今日も……する……ショ?」
頬を染めながら、東堂のシャツを引く巻島は、たまらなく愛らしい。
「巻ちゃんが、したいのなら」
主導権はそちらだと誤った誘導をさせ、返答を待てば、恥ずかしそうに巻島は
「…したいショ ラ、ライバルだったら普通ショ?」と頷く。
歪んだ東堂の執拗な教育は、いつしか巻島自身にもその毒を移し、偽りの常識で巻島を染めていた。
だが何も気づかぬ当人は、東堂を相手に甘く幸せな感情に、今日も包まれている。