【東巻】緊迫のクランクイン

ツイッターで『リアルに仲が悪い俳優東堂尽八と、モデル巻島裕介が、実写映画弱虫ペダルに東堂・巻島役として出ることになって、
こんな奴と仲良くしなくちゃいけない役なんてとか思ってたら、思いがけない面を色々見ちゃって、ヤバイ…好きだ…になるお話はどこかにありませんか』
と呟いたら、てしまゆさんが乗ってくれたので、調子付いて書いてみました(笑)
*****************



その日都内有名某ホテルにおける、一番の面積と収容人数を誇る鳳の間は、緊迫した雰囲気に包まれていた。
金屏風の前に並べられた数多くのマイクと、詰められた報道陣にカメラの数で、事情を知らぬものでもなにかとてつもない、記者会見が開かれるのだろうと予想された。

しかしその緊迫感は、悲壮な空気やぴりぴりした要素はごく薄く、祭りの前のどこか高揚感がともなうもので、待つ者達も期待に満ちた表情だった。

「来たぞっ!!」
一昔前のフィルム式カメラと違い、デジタルは多くの音をたてない。
だがそれでもまるで点滅するライトのように、幾度も瞬くフラッシュや、カメラの撮影がある方向に揃って向けられたことで、
その日の主役たちが入ってきたのだと、誰もが察する。
もっとも注目されているのは、数人の行列の中央に立つ二人だ。

一人は腰まで届く玉虫色の長い髪をした、中性的な魅惑をもつ男で、もう一人は伸びた背筋や所作も美しい、正統派な美形と呼べる男だった。
この二人はこれから撮影が開始されるドラマ、『弱虫ペダル』でメインキャラクターを演じる巻島裕介と、東堂尽八だ。

ドラマタイアップの記者会見となれば、その主役たる出演者たちは華やかな笑顔を浮かべ、愛想が良いのが普通だ。
だが東堂と巻島の表情は、ギリギリ不機嫌をあらわさないものの、仮面を貼り付けたような無表情のまま、並べられた席についた。

かたや、実力派イケメン演技だけでなく、軽快なトークやバランスよい知識でバラエティにもトーク番組にも引っ張りだこの東堂尽八。
かたや、英国を中心に西洋圏で、マキシマブランドを定着させるのに一役買ったといわれる舞台モデルの巻島裕介。
どちらも日本では名高い有名人だが、この二人の競演だという理由だけで、今日の報道陣は集まったのではない。

―――実は、この二人はまだ今日が初対面だと言うのに、犬猿の仲として有名だったのだ。

きっかけは日本に所用があって、帰国した際の巻島へのインタビューだった。
巻島のモデルとしての知名度は随分と高いが、あまりトークなどは得意でないと噂だった。
インタビューを受け持った記者は新米で、話題に困り、日本で有名な東堂尽八は巻島とは色々な意味で対照的だが、どう思うかと尋ねた。
その際に巻島は、しばらく無言になった後
「……悪ィ そいつ、知らねえショ」
と答えたのを、リアルタイム放送で東堂が見てしまったのが、発端となっている。

あくまでも正統派を貫くのを美学とする東堂は、奇妙な髪色をして、喋りもたどたどしい、日本の芸能界について知ろうともしない巻島に激しく反感を持ち、
「…日本の常識を知らぬような相手に、知らないといわれても、こちらとしてはどうという事ないな」
とあてつけのようなコメントを返してから、二人は色々な面で比較されるようになっていた。

その二人が、競演。
しかも役柄は実名をそのままに、親友かつ永遠のライバル、一生の友とまで言い切る…噂によるとそれ以上にも見えるのではないかという役柄を、演じると言うのだ。
注目を集めない方が、どうかしている。
主人公とそのライバルである、若手アイドル坂道と真波は、すでに記者会見を終了している。
他の出演者たちも、別途会見はあるのだが、この冷え切った関係の二人は、好奇心も刺激して多くの者たちが実況を眺めていた。

すでに番組内容や、各日程などは公表されているので、ある程度の前振りの後は競い合うような質問が巻き起こる。
「東堂さん、巻島さん!お互いについてをどう思われますか!?」

動画サイトでは、コメントも可能で、画面は多くの「www直球過ぎるwww」といったコメントで埋めつくされた。

「…話すのが苦手だといって、周囲と合わせようとする心を持たない者が、芸能活動をするのはどうかと思いますね」
日頃表情豊かな東堂が、冷笑を浮かべ鋭利な言葉を発するが、巻島は涼しい顔だ。
東堂の台詞が終わったのを聞きとげた後、
「このオファーをもらってから、出演予定者達の色々な録画見てきたショ …自分が目立てばいいみたいな演技する俳優なんて、プロとはいえないショ」
とそのまま言い捨てた。

あからさまなイヤミに、東堂は冷笑すら消し去り、目を細め巻島を睨む。
一見内弁慶なようだが、実は負けず嫌いらしい巻島も、表情は変えぬままその視線を受け止めていた。

なおこの瞬間の二人の様子は、多くのコラ画像を発祥させた。
初期のうちは、二人の周囲に火花が散るという画像だったが、いつしかその火花はハートに変化し、写真の下部には
『二人の愛が目覚めた瞬間』ときらびやかにデコレーションされた蛍光ピンクの文字になっているが、それは余談だ。

その後も好奇心を抑えきれぬ様子で、質問者たちは
「実際にあったお互いの第一印象を!」と問えば
「……タマムシ」
「カチューシャださいショ」
と、もう取り返しのつかないムードが漂う。
だがそのピリピリした空気は、かえってヤラせでないと伝わるもので、視聴率はうなぎ上りだった。

「えー…、お二人はまだソリの合わないようなのですが、何故この出演依頼をお受けになったのですか?」
そんなに嫌なのに、断らないのかというのは、一般市民たちの意見を代弁したのだろう。
「共演者はともかく、この作品の東堂尽八という役柄はオレの為にあると思ったからだ」
「……自分を貫こうとする、巻島裕介と言う役柄に、惹かれたからショ」
東堂も巻島も、この役は自分の為に作られたと聞いて、大いに納得をすると同時に、他人に演じさせたくないと思ったのだと答えた。
共演者についても説明は受けたが、仕事はきっちりと行うとも続ける。

「それでは、実際どのようになるのか…は本番のお楽しみとして、相手の名前を呼ぶシーンを演じてくれませんか?」
すでに台本を読んでいるのであれば、その互いへの嫌悪感を消す演技をしてみろと言ってきたのは、シニカルなコメントが多く有名なレポーターだ。
まるでケンカを売るような、その言い振りに東堂は、かえって意欲をかき立てられたようで、
「よかろう」と立ち上がる。

その瞬間、空気は変わった。
切りつけるようだった空気は、見る間に拭い去られ、表情は柔らかく、どこか甘さすら湛えたものへと変化した。
「楽しいな 巻ちゃん…!! 本当に夢のようだよ できればこの時が永遠に続いてくれとさえ思うよ」
恋人の睦言のような、低く魅力的な声に、その場の女性たちは一様に頬を染め、息を飲んだ。

見るものを夢心地に誘う、整った顔は先ほどまでの表情は欠片も滲ませず、優しく巻島を見ていた。

実況中継のコメントは、多くの女性らしき書き込み主の『東堂様ーーーーいつもの指差すポーズをやって!!
m9(廿▽廿)』
という弾幕で埋め尽くされていたが、一部男性視聴者たちからも
『ちょwww待てwww その台詞は最愛の奴と、結婚式前とかに言う台詞www』
『野郎相手でもその口説きができるのかww東堂ちょっと見直したwww』というコメントがちらほらと混じっていた。

すかさずその台詞を受けた巻島が
「手を抜いてたらここにはいないっショ 尽八ィ!!」
と挑戦的に、笑った。
それまでの無表情で、淡々とした応対は幻であったかのように、圧倒的なオーラを放ち、ニヤリと上げた口端は別人にすら見える。

となりにいた東堂すら、巻島のその変化には、かすかに息を飲んでいた。
玉虫色の派手な髪色とは対称的に、本人の存在感は希薄で、空気みたいにその場に佇んでいたのが、突如として鮮烈な色彩をあふれ出させたようだった。
演技として巻島を見ていた東堂が、思わず凝視してしまったほどだ。

こちらへのコメントの反応は一言
『…鳥肌がたった』というものが大半だったという。
細く白いその肢体から、あふれ出る色気は独特のもので、一部マニアな熱狂的な巻島ファンを、この会見で生んだと噂されている。

これから撮影は、しばし箱根の山での籠りきりで、多くの出演者たちは他の活動を断り、撮影に専念をはじめる。

話題のドラマの撮影開始まで、あと一週間を切ろうとしていた。

************************************
オマケ あくまでも自分の勝手な設定

巻島裕介 中学を卒業と同時に、既に英国でマキシマブランドを展開させていた兄の元に行き留学。 ただ飯ぐらいも心苦しいと、たまに手伝いを
       していたりしたら、いつのまにかモデルをすることになっていた。
       基本中性的な服が多いが、まれにシャープだけど女性向けデザインの服や、奇抜なメンズ服を着こなすので、他ブランドのデザイナーにも個性的な服を
       着せるのに重宝したいと、羨ましがられている。 奇抜な服は一部REN.MAKISHIMAのデザインではないとの噂もあるが、公式では回答されていない。
       トークは苦手、カメラも不得意なので、モード界の舞台モデルが中心で、私生活などは謎が多い。
       天才肌とか紙一重とか言われるタイプに、好かれやすい。しかも好意と言うより、執着と言う言葉が似合いそうな惚れられ方なんだけど、幸い鈍いので
       当人は気がついていない。

東堂尽八 実力派若手俳優として、芸能界で人気。和風男子や、爽やかなのに憎めないアホ…もとい陽気なイケメンとして、ドラマなどではひっぱりだこ。
       演技だけではなく、軽快なトークと育ち柄ゆえか、若手に似合わぬ礼儀作法を知り古風な知識に満ちていると、トーク番組や教養番組、バラエティなどにも
       多く出演している。
       事務所『ハコガク』には幼馴染の新開、荒北もおり三人ワンセットでゲストとして招かれることも多い。軽いノリではあるが、仕事にはきっちりとしており、他人に
       対しても、いい加減な働きは許さないので、舞台モデルのドラマ参加というのは、元々歓迎していなかった。
       女性全般のみならず、基本目上の人には礼儀正しいが、一旦『相手にするまでもない奴』と判定されると、ゴミを見るような目で見られるがそれもご褒美。
       愛すべきイケメン枠として、一部男性にも人気がある。

荒北靖友 新開・東堂と三人で歩いていたところを『ハコガク』にスカウトされた。東堂と新開はともかく、オレへは義理で声をかけたんだろうと、芸能活動をするつもりは
       なかったが、わが道に突っ走る傾向にある二人を、諌められるのは君だけだとマネージャーや社長に泣きつかれ、いまだ在籍中
       ヤンキー役やキレたら怖い一般男子枠で定評があるが、東堂新開への扱いがバラエティーなどでよく知られているので、ネット上では
       『ハコガクのオカン』だとか、『野獣だけどオカン』などというキャラ付けがされている。持ちネタは、たけのこを額につけて真顔で「リーゼント」と呟くこと。

新開隼人 イケメンフェロモンタレント。ものすごく社交力が高く、どんな相手でも動じぬ応対ができるので、司会などに抜擢されることもあるが、スルースキルも高すぎて
       若手芸人のネタふりなどは、ものっそ自然にスルーするお笑い芸人キラーの異名も持つ。
       大食い選手権などに、イケメン枠などで参加して毎回決勝辺りまでは残るが、おなかがいっぱいになると「食べ物をおいしく食べれないのは失礼だろう?」
       とやる気をなくすので、優勝はしない。
      『ハコガク』や『総北事務所』と合同で行った、学園祭での直線徒競争は、奇声が聞こえたかと思うと同時に、放送中顔面にモザイクがかけられ、いきなり
      「しばらくお待ちください」という画像に切り替えられたという都市伝説がある。