東堂と巻島は、紆余曲折の末、結局同じ大学へと進学をした。 仕事の手伝いと言っても、実際に大学を出てからのほうが動けるし自分のためにもなると説得をすれば、親と兄も納得をしたのだろう。 前もって国内での進路を定めておかなかった分、東堂に誘われた時も、迷いはなく選べたのを幸運に思う。 同じ大学に進むことを、東堂はこれ以上はないほど、歓び歓迎をしてくれた。 ならばいっそ、同居しないかと持ちかけた東堂に、巻島も経済的にもその方が便利そうだと頷く。 内心ではこっそり、几帳面で料理の上手い東堂が一緒ならば、いろいろ楽だという計算が働いていたのも事実だ。 自分が東堂を振り回していると言う自覚はあったが、東堂はそれすら幸せそうに笑う。 金城や田所とも違う、明るく暖かい友人が一人増えたと、巻島も幸せだった。 だが、最近の東堂はおかしかった。 同居してしばらくは、巻ちゃん巻ちゃんと浮かれたようにともにいることを好んだのに、最近は料理屋食事が済めばさっさと自室に籠ってしまう。 片付けや洗濯なども、巻島の不在のときを狙っているようで、同じ家にいながらも顔を合わせる時間が随分と減っていた。 成人も迎えたし、いつまでも高校時代と同じようにはふるまえんよと、苦笑して言うが、東堂は変わらずに好きだと言って来ているのが謎だ。 これが部活が違うだとか、学部が異なると言うのであれば、生活環境も違うしと言い訳ができただろう。 だが東堂は、なるべく巻島と同じ場所にいたいと、時間割もほぼ重ねて取っていたのだから、それは無理だ。 巻島は自分が何か、東堂にしてしまったのだろうかと、悩むしかなかった。 ――今日も、巻島が眠ってしまっただろう時刻まで、東堂はバイトを入れていた。 そっと音をたてぬように鍵を開けて、室内に進めば東堂の予想に反し、リビングの明かりはまだついていた。 ガラステーブルの前に座って、一人ワインボトルを傾けている巻島の体が、ゆらりと倒れ掛かり、東堂は走りよって支えた。 「おーとうどぉ…おかえりショォ…」 いつもふわりと甘い香りがする巻島からは、今日は強烈なアルコール臭が漂っていた。 「…巻ちゃん、酔っ払っているのか?」 「よってないショォ」そう言って巻島はクスクスとあどけない子供のように笑った。 「おかしいショ東堂が三人もいるショォ」 確実に、酔っている。 ボトルを取り上げて、後ろに隠せば巻島は赤い目元のままムゥと睨む。 「オレのらぞ…かえせ……」 「巻ちゃん きちんと舌も回ってないではないか 普段そんなに酒を飲まないのに、どうしたというんだ」 上機嫌に笑っていた巻島の顔が、急に曇る。 眉根をきゅっと寄せ、支える東堂の腕に絡みつくように、腕を伸ばした。 「とうどぉが…悪いショォ」 すりっと頭を猫みたいにこすりつけられ、東堂の鼓動が跳ね上がる。 「なんで、おまえ……オレを避けてるショ?」 多分これを聞きたくて、それでも素面では巻島の性格上とても無理で、酔っ払ったのだろう。 伏せた顔は見えないが、きっと今巻島はつらい顔をしているに違いないと、東堂は俯いた。 ――最初は傍にいられるだけで、良かった。 だが一緒に居れば、それ以上のものも欲しくなる。 風呂上りの巻島が、無邪気に気持ちよかったショといい香りを漂わせたり、ふとした折に白い首筋を露わにしたり、 無防備にじゃれつくようにされるたびに、歓びと同じぐらい苦しさも増していった。 巻ちゃんが、欲しい。 欲しさのあまり、手折ってしまいそうだ。 ベルトで拘束をし、タオルで目隠しをして、嫌だと泣く巻ちゃん。 泣きながら、赦さないと自分を罵る彼を想像するだけで、暗い情欲は猛り狂う。欲しい、ほしいと。 悟られてしまっては、終りだと東堂は内心で己を嗤う。 「避けてなどおらんよ、巻ちゃん」 ―嘘だ 「今日は頼み込まれたバイトが長引いてな、遅くなってはしまったが」 ――嘘だ、嘘だ。 いつもまっすぐに自分を見る視線は、きっと逸らされている。 東堂の言葉ひとつひとつに、巻島は泣きそうな目で、抗議する。 「…オレと一緒に暮らすのが、イヤになったのか?」 「そんな訳ないだろう」 巻島の上気した頬と、潤んだ瞳を見てしまっては、箍が外れてしまう。 そう思い、さりげなく目線を外した東堂の両頬を、巻島の細く長い指が包み込んだ。 「じゃあ、こっち向くショ」 ごくり、と喉が動くのが解った東堂が、そっと指を外させようとしたが、巻島はいやいやと首を振り、むしろ抱きつくように、東堂の首後ろへと手を回した。 「巻ちゃん……ならんよ……」 今度は隠す様子もなく、東堂はあからさまに巻島から顔を背けている。 しばし東堂から、視線を外さなかった巻島は、きゅっと唇を噛んだ。 数秒そうした後、巻島は意を決したように、 「や…やっぱり……もう嘘は……いいショ はっきり……言えよ…」 と睫毛を濡らして、東堂を睨む。 「言えとは…何をだ」 「……だから……オレを……見るのも嫌になったって…」 バイトだ飲み会だといって、全然帰ってこないし、帰って来ても目をあわせようともしない。 用件をそそくさと済ませて、自室に東堂は帰ってしまう。 家賃の問題を気兼ねして、別々に暮らそうと言い出せないだけなら、ただのルームシェアの相手だと思って、オレも接すると巻島は呟くように言った。 「…東堂、オレと、友人と言う関係が辛くなったショ?」 最後の理性が砕かれる音が、東堂の脳裏に響く。 ――オレは何度も言ったはずだ、巻ちゃんが好きだと、ずっとずっと一緒にいたいと思っていると。 手を出したら、嫌われると思って耐えてきた。 巻ちゃんがくれる『好き』が、自分と違っていても、傍にいられるのだからそれで満足しようと思っていた。 なのに。 あれだけ言葉でも態度でも示しているのに、通じていないというのか。 「……そうだな」 冷たい東堂の声に、巻島の背がびくりと動いた。 泣き出さぬよう、懸命に堪えてるだろう巻島の様子に、ゾクリと嗜虐めいた心が湧き上がる。 嫌われていると言いながら、自分の手で囲い込める範囲から逃げない、この無防備さはもう罪だ。 巻島がいとけなく、疑いない眼で接してくれば来るほど、自分の色に染めたくなってきてしまう。 ――だから、あまり顔を合わせぬようにしていたのに。 だが、もう赦されるだろう? オレが手を伸ばしたのではなく、巻ちゃんがオレの腕の中に、自分から堕ちてきたのだから。 「巻ちゃんと、友人で居るのが辛いと思い始めていたのは事実だ」 言葉の鋭さとは裏腹に、東堂の手は優しく巻島の輪郭を辿った。 その相反する動きの意図が読めず、巻島はただ蛇に魅入られてたカエルのように、目を瞠ってそのままでいる。 他人が見れば、何故逃げないのだと言わずにいられないほど、あからさまな狙い。 しかし当人は、自分が食われるなんて予想もしないで、ただただ困惑をしているだけだ。 「と…う…どう…?」 鍛錬で硬くなった指先が、巻島の頬を下り喉へとおりる。 巻ちゃんの急所で、柔らかい皮膚を愛でているのだと、東堂は目を細め言った。 意味がつかめぬ巻島が、無意識に東堂の胸元に掌を置いて、距離をとろうとしたが、失敗だった。 先ほどまでと違う、いやな胸騒ぎに、巻島は自然と眉根を寄せてしまう。 つかまれた手首を、そのまま東堂のくび後ろに回された。 されるがままだったのは、先ほどまでみずから同じ体制を取っていたからだ。 「………逃げろよ、巻ちゃん」 自分の組んだ足の上に、腰を密着させるように東堂が抱き寄せる。 わけが、わからない。 「逃げろって……お前が……オレを捕まえてるショ?」 「そうだ …オレは逃がしてやろうと思っていた」 一度手に入れてしまえば、二度と離せなくなる。 さえない顔をした巻島の唇が、至近距離でなんと言っていいのか解らぬように何度も開閉し、そしてまた開かれる。 その薄く開いた唇は、何も処理をしていないのに、濡れたように官能的で、淫らだった。 腰を抱いたままの手とは反対側の手が、巻島のシャツのボタンを外した。 片手だけで器用に、3つ目までを外されたと思ったら、東堂の鼻先がそこに埋められ、匂いを嗅がれている。 スンッと音を立てて、東堂の顔が脇のほうへと向かい、巻島は反射的に身じろぎをした。 汗はかいていないし、きちんと手入れもしているが、他人に鼻先を入れられたい場所ではない。 …性的な動作のようで、咄嗟に警戒をしてしまった。 妙な反応を示してしまって、東堂は訝しい表情をしているだろうと、うかがえば意に反し東堂は笑っていた。 その口元は笑いを刻んだまま歪むことないのに、優しげな表情と裏腹に乱暴な動作で、巻島の残り3つのボタンは、はじかれる。 伸ばされた指先が、身頃部分の隙間から入り込み、巻島の白い肌を伝った。 「東堂…なに……して……」 「巻ちゃん、オレは…辛いといっただろう…お前と友人でいるのが…」 「クハッ……嫌いになったから、嫌がらせってことかよ」 無理して、泣き笑いのような表情を作った巻島を、それ以上喋らせたくなくて、東堂は強引に唇を塞いだ。 綺麗な巻ちゃん、こんなことをされてもまだオレの真意に気が付かない。 ――犯して穢して、汚れさせて、オレのもとに引きずり寄せたくなる。 最後の理性を断ち切ったのは、お前だ。 オレは友達でいるために、懸命だったのに。 脳の芯が白くかすんで、もう目の前の獲物をとらえることしか、考えられなくなった。 「んっ……もう、やだ……やっ…は…ッ……」 くちゅくちゅと淫らな水音が響き、息もたえだえといった風情で巻ちゃんがオレの頭に指を乗せる。 髪の毛を握ろうとするその仕草は、オレを引き寄せたいのか剥がしたいのか、自分でも判らぬほど力がないさまに、溶けきっていた。 屹立した巻島の下肢に、顔を埋めることはもはや東堂にとっては、ご褒美だ。 当初懸念した、いかに好きな相手とはいえ同性にそんな真似ができるだろうかといった不安や、いざとなったら反応しないのではないか といった心配は、巻島の裸身を見た瞬間に吹き飛んでいる。 触れたい、さわりたい、あちこちに唇をつけて、舌でその感触を味わいたい。 自分のガリガリの体を見られるのがいやだと、電気を消したがる巻島の手首を押さえていると、この上もなく高揚した。 巻ちゃん、巻ちゃん……巻ちゃん…… 知り合ってから、脳裏で何度も穢してしまったその裸身の実物は、妄想の数倍エロかった。 「アっ」と意に反して出してしまったみたいな声を洩らせば、切なそうに眉を寄せ、涙目になる。 その細い指先が美しくて、口に含めばヤケドでもしそうな勢いで、振り払おうとされた。 もう自分のものだと決めたのだから、逃げるのは許さない。 その罰だとばかりに、両膝を広げその間に割り込み、熱を持ち始めた股間を東堂が押し当てれば、巻島はきゅっと唇を噛んだ。 シャツの下の胸の尖りが、固くなりうっすらと透けている。 「……まだ触っても居ないのに……巻ちゃんヤラしいな」 と薄い布の上から舐め取れば、巻島の背は大きくしなった。濡れた箇所が半透明に乳首に張り付き、気化する熱で知らぬ感覚を与える。 ますます固くなるそこを、東堂は目を細めて眺め、シャツの上から執拗に舐め続けた。 「やだっ……尽八、それ……やっ………」 べっとりと張り付いたシャツが、気持ち悪いと巻ちゃんが絶えだえに、訴える。 「…気持ち悪い…? この反応で?」 東堂は口端を上げ、素直でない獲物の言葉を聞き流すようだ。 つんと尖った胸先を指でこねくれば、耐え切れないように巻島は、腰を後退させ逃げるみたいにあがく。 ほんの数センチの、わずかな距離の移動で、何ができるというのだろう。 だが優しい恋人の仮面を被った東堂は、仕方がないとばかりに吐息をついた。 「…でも巻ちゃんがそういうなら、仕方がない 脱がしてあげよう」 最後に残っていたボタンを外せば、薄桃色の胸先がぬめるようにてかり、姿を現した。 女のように膨らみはないけれど、手を這わせれば吸い付くようになじみ、ほどよい弾力のある胸。 慎み深い薄い胸とは裏腹に、巻島の乳首はこの上もなく艶やかだった。 ――これを、レース中や後に放り出す、無防備さが許せんよ きゅっと搾乳するみたいに摘めば、巻島はいやいやと首を振った。 「いたっ…… もっ……そこ触んな…… あっ…っ」 「随分と感じやすい… 巻ちゃん自分でもここを弄ってるの?」 「……んなコト……しなっ……あっ! やだっ…やっ!」 執拗に摘み、指先でこねるように動かせば、ダイレクトに触れている腰に、熱が集まるのがわかる。 自分だけではなく、巻島も興奮しているのかと思うと、それは支配欲と喜びに代わった。 「巻ちゃん 巻ちゃんのエロいここ…誰にも見せられないよう、ピアスでもつけてみようか」 思い切り尖りをひっぱり、皮膚との色の境目を舌でくすぐる。 両胸に針を刺して、チェーンで繋いだ鎖をそれぞれに繋げる。 心臓のある左乳首には、青い石を、そしてその対の乳首には玉虫色に光る鉱石を。 ……すばらしく、美しいだろう姿に、想像した東堂の目が細められた。 肉食獣の冗談交じりで、東堂が「食べたいな 巻ちゃんのあちこちを」と耳元で囁けば、巻島は幾分かの本気を察したらしい。 「やっ…」 小さく怯えた風情で、咄嗟に胸を押そうとする仕草が、愛らしかった。 荒く息を吐いて、必死で声を噛み殺そうとしているその姿が、たまらない。 自分を抑えるのに精一杯で、物理的な抵抗をもはや忘れてすらいる。 両掌で自分の唇を押さえつけている巻島は、どんなに声を殺しても、動作のひとつひとつに体を震わせていて、何の意味もないというのに。 その様子にうっすらと笑みを刻んだ東堂は、一息に巻島のボトムを下着ごと剥ぎ取った。 「えっ…あっ……!」 まだ硬くなりきっていない、でも角度を持ち始めていた巻島自身が姿を現し、東堂の目線を奪う。 先端は濃い桃色で、幾らか皮膚の色で隠されていた。 そして本来ならば巻島の地毛である茂みがあるはずの箇所は、滑らかにツルツルだった。 「……巻ちゃん、ここは……」 体毛も薄い巻島だから、というにしても見事に何もない。 いやらしくツユをこぼし始めている屹立した性器と、子供のような下腹部はミスマッチで、それゆえ尚更に色情をそそった。 「…あっ… ジロジロ…見てるんじゃ……ふっ…ゥ…」 潰れたマメで、硬くなった掌を下腹部に這わせると、巻島は尿意を我慢でもするみたいに「やっ…」と手首を剥がそうとした。 もちろん力ないそんな動作は、なんの抑制力にもなりはしない。 そんな些細な反抗がいとおしくて、もっともっと骨抜きにしたくなる。 「答えないのならば…それでも構わんが」 かわりにとばかりに、そのまま巻島の熱を握り、先端に舌を這わせた。 「はっ……やっ……東堂…なにっ…………っく…ふ…」 足指を反らすほどの快楽に見舞われ、東堂の頭を引き剥がそうとする巻島。 巻島が徐々に昂ぶっていくさまに、東堂の息は荒くなるばかりだ。 逃げようと腰を振るさますら、艶やかな痴態にしか見えやしない。 東堂が夢中でくびれを舐め取り、先端をくにくにと刺激すれば、巻島はぽろぽろと泣き始めてしまう。 「あっ……やっ……やぁ……」 「……オレは、逃げろといったのに……寄ってきた巻ちゃんが悪いのだからな」 「ひぁっ…やだ…東堂やだ、もうやめ……!ヒック うっ……ふぁ……永久……脱毛したショォ……」 しゃくりあげるような呟きに、一瞬東堂の指がとまった。 何を言っているのかと、問うような視線に巻島はレーパンを履いてるときに邪魔だったから、高校時代にと、小さく続けた。 ようやくツルツルだった下腹部について、巻島が弁明をしているのだと気が付いた。 ―――オレと走っている横で、すでにこんないやらしい下腹部になっていたのか 宥めるつもりでの巻島の言葉だったが、裏目に出たようだ。 呆然と巻島を再度見下ろした東堂は、ゆっくりと舌なめずりをして、巻島の怯えを楽しんでいる。 そして東堂は、巻島をあえがせる為に、ひたすらに射精感を促す行為を繰り返し始めた。 歪んだ泣きボクロと、口元のホクロがひたすら脳裏に焼きつくようで、東堂は貪るようにあちこちを湿らせていた。 我を失い、無意識に腰がビクビクと揺れる巻島を見て、東堂の嗜虐欲は深まるばかりだ。 物欲しげにせり立つ竿の根元を、ぎゅっと封じ込めれば、潤んだ瞳が懇願するように見つけてくる。 「…巻ちゃんの、こんな顔をずっと見たかった…」 産毛の一つ一つまでが、逆立つような快感に支配され、巻島の顎を掴む。 いやだと首を振って逃げられぬよう、強い力で固定して、二度目のキスをした。 まだ熱を解き放てていない巻島は、見ないでと繰り返しながら、我を知らず腰を揺らしていた。 「もう……やだ……、東堂……やっ……ぁ…」 東堂を、怒らせてしまった。 無理をしながらでも、友達として頑張ろうと努力をしてくれていたのを、自分はきっと踏みにじってしまったのだ。 怒らせて体を暴かれて、巻島はようやく自分が東堂を好きなのだと気が付き、絶望をした。 愕然とし、一切の抵抗をやめた巻島を、東堂は訝しげに見下ろした。 抑制がなくなった東堂は、もう容赦がなかった。 呆然と恥辱にまみれていく巻島を、あざ笑うかのようにあちこちを奪いつくしてく。 「…女みたいに、濡れヌレだな巻ちゃん」 「やだっ…違う…… やっ……あ――ああっ…」 きっと、東堂はもう自分の顔すら見たくなくて、なのにしつこく問い詰められて、キレてしまったのに違いない。 助けて、と縋るように指を伸ばせば、東堂は満足げに巻島の耳朶に「諦めてくれ」と囁いた。 ――あさましい、魅力もないこんな体に、東堂は嫌がらせでもよく触れようと思えたものだ 内に押し込められている甘い痺れは、耐え切れないところまできている。 ねじ伏せたくせに、東堂は時間を掛けて巻島に官能を教え込み、体を開かせようとしていた。 愉悦と後悔と、濡れた粘膜の音の全てが、巻島を責め立てる。 東堂は自分の心まで、折り取ってしまいたいのだろうか。 赦して、ごめんなさいとうわ言のように呟いて、泣きながら東堂の名前を呼ぶほど、紅潮した東堂の獰猛な笑顔は深まって行く。 「あっ…もう……出る……出るから、離し……あっ…やっ……っ……」 「巻ちゃんイカせてって…オネダリできたら、ご褒美をやるよ」 「な…に……? あんっ……ん…ふっ…」 「言えよ お願いって オレの手でイキたいって…」 「……あ……とうど…ぉ……おねが…… イキた……い…お願っ…」 もう無理と膝を立て、背筋をわななかせ、力なく悲鳴じみた嗚咽を洩らせば、ようやく東堂は巻島の欲望を放たせてくれた。 脳の奥がぼうと麻痺し、乱れた肢体を隠す動作すら、できやしない。 達することで、脱力感に凌駕させた巻島の表情すべてを、東堂はつぶさに観察をしていた。 もう、気が済んだのだろうかと投げだしていた下肢に力を入れるより早く、東堂は再び突起を握った。 甲高い吐息を洩らし、拒否をしようとしても、東堂は淫靡な動作で巻島を再び煽るだけだ。 「もう……やだっ……東堂……やっ……」 「巻ちゃん……もっと早くこうすれば、良かった」 「ひぁっ……!駄目ショ東堂、そこは…っ」 巻島の両膝をすくい、開脚させる。 先端から溢れた汁で、すでにぐちょぐちょのソコに、東堂は迷うことなく舌を差し入れた。 「ひっ……東堂、駄目ショ!!やだっ…!やっ… ああっ……」 自分でも触れたことのないような箇所に、東堂が顔を埋め、尖らせた舌先でシワをほぐしていく。 下腹部で、東堂の切れ長の瞳がその弛んでいく蕾を、冷静に観察しているのが、巻島のいたたまれなさを増すばかりだ。 一度達して、敏感になっていた体は、すぐに悦楽に囚われてしまった。 「うっ…ふぁっ……ヘンになる……やだ……東堂…」 意思に反し腰が揺れ、濃い鴇色をした秘所は、何かをもとめるかのように穴をきゅっと萎ませては広げている。 「もっともっと、変になってよ巻ちゃん…」 怯えたように顔をそむける巻島を、東堂は満足げに見遣り、己の下衣を解き広げた。 爛れたような灼熱が、胸の奥を支配し、もう東堂は巻島を自分のモノにすることしか、考えられなかった。 繋がった部分が灼けそうに熱く、痺れて力が入らないのに、これ以上はないほど脈打ち、肉の窄まりを味わっている。 「あっ……――東堂ぉっ……もっ……無理……」 押し入ってきた凶暴な先端が、巻島の敏感な箇所に触れた。 がくがくと体を震わせる、その様子を見た東堂が、執拗にその襞を分け入り、えぐるようにすれば巻島は爪先まで反り返り、涙を流す。 「巻ちゃん……熱いな……たまらんよ……くっ……」 体内に煮えたぎる奔流が注がれ、昂ぶる肉はさらに侵入を深くしていった。 「もう……やっ…… あっ…ああ……」 「巻ちゃん… 気持ちイイ……もっと……もっと巻ちゃんを頂戴?……っ」 何度目かの肉壁への刺激を受け、連続して達してしまった巻島はそれでも赦されず、また腰を抱え上げられる。 ぱちゅぱちゅと、連結した部分からは卑猥な濡れた音が耳を支配した。 「は……――あ、…っ ひっダメ、もうだめ無理……っやめ……」 「…ダメだ お前が気を失っても、奪いつくす」 「……やっ……ひぁっ!……っ……」 二度目までは覚えていて、そこから先は波に呑まれたみたいに、もう記憶にすら残っていなかった。 意識が落ちる瞬間、 「もう…オレと巻ちゃんは友達ではないな」と、言われた気がした。 ―――これで、最後なのか。 犯されて、奪われて、やっと好きだと自覚したのに。 恍惚とした脳裏の奥底で、巻島は泣いている自分を思い描いていた。 まだ聞こえる濡れた滴の音が、ぐちゅぐちゅと室内を充たす。 熱くて、痛くて、気持ちよくて、鈍く疼いて、甘く刺激されて、もう何も考えられない。 ……いっそここで貪りつくされてしまえば、東堂と一つになれるのに。 そんな馬鹿な考えがおかしくて、自嘲するように巻島ははかなく微笑み、東堂の名前を声にならない声で呼んだ。 「好きだ」 と聞こえたなんて、きっと幻聴だったに違いない。 意識を失う巻島は、東堂の言葉の意味を、いまだ理解していなかった。 |