【東巻】 そのゲームの先に おまけ


♪まーきちゃん まーきちゃん どーして可愛いの
そーれはね山神に 愛されたからあ〜♪

ウゼェ
なんで寝起き一番にガキの頃よく歌ったフレーズで、アホ丸出しな歌を聴かなくちゃなんねえんだ。
朝っぱらからパオーンなんて幻聴が聞こえてきやがる。
…ああ、窓を開けて寝たのが失敗だった。
隣の部屋から、続きが聞こえてくる前に、窓へ向かい、隣室へ
「ウッセェぞ ゴラァッ!!うっせぇよっ!!!」
と怒鳴って睨みつけるが、返ってくるのは、満開全開フルスロットルに笑顔な表情の東堂だ。
「おお荒北か!空は澄んで最高の天気だな! うるさい?そうか すまんね!幸せすぎてなっ」

――これは関わりたくない

おおよその事情は解っている、…というより、全部の事情がわかっていると言ってもいいだろう。
昨日東堂は、総北の巻島裕介に告白をしたのだ。

事の起こりは、寮内でのUNO大会だった。
惨敗を喫してしまったのは、オレら箱学自転車競技部。
その理由はというと、福チャンの前で3人が続けてドローフォーを出しやがると言う鬼畜な真似をした奴らがいたからで、福チャンは悪くない。
サッカー部とバレー部と、東堂テメェだ覚えていろ。

残枚数を計算し、各部で集計、そこで一番トップになった部活が、一番びりになった部活に命令を出せると言うルールだった。
一位になったバレー部が出してきたのは、自分たち部員に、一日ロードバイクを貸してくれというもの。
まあ男なら一度は乗ってみてぇと、いう気持ちはわからんでもない。

だが自分用に手塩をかけたバイクで、しかも相手は素人。
集団で走ってトラブルになっては困ると言えば、箱学での自転車競技部への支援を知っている奴らばかりで、なるほどと納得をされた。
じゃあと代わりに出されたのが『部員の誰かが告白をして来い』というものだった。

自慢じゃねえが、オレらにそんな甘酸っぺえ相手はいない。
唯一後輩の電波には、幼馴染の女がいるがアイツが「罰ゲームだから告白するね」なんて言ってきたら、相手の子が可哀想過ぎるだろう。
女に縁があるのは東堂と新開だが、ヘタに告白なんてしたらトラブルの元だどうするかと、悩んでいたら、解決策を出してきたのは、当バレー部だった。
いわく、「東堂がいっつもうるさい マキちゃん に告白してきたらいいじゃん」

それを聞いて沈黙をしたのは、オレ達だ。
部員ぐるみで緘口令を敷くまでもなく、全員で「マキチャン」の正体を隠しているが、相手はライバル校の男だ。
嘘をつけない福チャンを除いて、オレと新開と東堂で、口裏を合わせるという案も出た。

東堂が告白して成功したといえば、あの鬼電を不思議に思う奴もいなくなるだろうし、一石二鳥だ。
だが敵もさるもの、告白見届け人に福チャンを指名してきやがった。
福チャンなら嘘はつかねえと、信頼するその気持ちはよぉくわかる、…がこの場合はマズイ。
結論として、ならばいっそマキチャンに事情を話し、芝居を頼もうという事になった。
あの鬼電をなんのかんのいいつつ、着信拒否にしないし、一応各レースの打ち合わせにも利用しているというのだから、まあ乗ってくれるだろう。
借りはつくることになるが、告白してフラれたと言っても、東堂が電話をしてりゃ一発でバレるリスクにくらべりゃお安いものだ。

人ごみの絶えない上野公園だけど、あの髪は助かった。
もともと東堂とはルートを決めているので、ちょっと見失ってもあの玉虫色を探せば、すぐに見つかる。
おーおー東堂の、ヤニ下がったツラ。
他人のデートのあとをつけるなんて、馬鹿馬鹿しいが福チャンも新開も、結構恐竜の骨などを見ては楽しそうだ。
オレは屋根からぶら下がってる、ガメラの子みたいなでけえ亀の骨が面白かったし、360度スクリーンも結構悪くなかったと思う。
360度スクリーンで、映像が急降下した瞬間、手すりをぎゅっと握ってた福チャンは、ちょっとかわいかった。

その後アイツら訪れたのは、クレープ屋だった。
新開がオレも食いたいと言い出して、たまにはいいかと付き合ってやったら、ものすげぇボリューム。
無理だと新開に押し付けて、別の売店にポテトを買いに行く途中、あーんとやってる巻島を見た。
クリームをスプーンに山盛りにして、東堂に食べされている。
東堂はすげえ嬉しそうだけど、ありゃクリームに飽きたな。その証拠に
「東堂、苺欲しいショ」とクリームの代わりに酸味のあるものをよこせっつってるんだから。
「イチゴが欲しいなんて…巻ちゃん天使か…!」
…幸せそうでなによりだ、ウゼェ そして巻チャン案外悪女なんじゃねえかアレ。

いやでも本人が素で、東堂はその素の行動をよろこびまくってるんだから……結論、関わるのはやめておくポテトうめぇ。

上野は何回か来てるが、神社があるとは気づいてなかった。
東照宮?日光じゃねえのそれと聞けば、福チャンが動物園から見える五重塔の方だと言われた。
さすが福チャン物知りィ!
「なあ…荒北 東堂はいつも通りに見えるんだが、あれは友人としての普通の行動ではないか?」
……普通じゃねえよ福チャン!
男同士でクレープ食って…いやオレらも食ってるけど、クリームあーんはしてねえし

東堂はもともとウゼェぐらい明るいのがほとんどで、逆にああいう風に照れくさそうに黙ってるなんて、オレら相手にはぜってえやんねえ。
まあでも、気づかない福チャンの純粋さは大事にしなくちゃなんねえから東堂にもっとイチャつけってメールしとくか。

ちっちゃい鳥居が並ぶ神社は、縁結びだそうだ。
なんつーか、東堂の行動パターンは見え見えすぎて、こちらが恥ずかしくなりそうだ。
遠目に見える巻チャンが、なんだか寂しそうに呟いているのが見えた。

そろそろ日が落ちるという時刻になって、東堂はまた元いた場所の方へ引き返していった。
科学博物館から少し奥に行ったところは、緑が多く丁度人気も絶えている。
とっとと済ませろバカ、演技なんだからちゃっちゃと切り上げろバカという、念波が通じたのか、東堂が足を止めた。
「好きだ」という声が聞こえる。

「さて帰るか」
「え」
「寿一?」
「東堂は今、巻島に好きだといったのを確かに聞いた 俺は告白を見届けろと言われたが、結果を見て来いとは言われていない」

……さすが福チャン!!!おっとこまええええええええ!!!
だよな、その通りだ!告白してこいっつーオーダーは受けたけど、結果を報告しろとは一言も言われてねえ!!

それに、まあ。
一日アイツらの行動見てる限りでは、…巻チャンもまんざらじゃねえように見えた。
人の恋路はなんちゃらっつーことわざを聞いたこともあるし、何より巻チャンがらみの東堂は、ひたすら近寄りたくねえ。
じゃあ帰るかと、オレ達三人は東堂を置いて、先に帰るとメールをした。

…そして、翌朝が今日だ。
結果は聞くまでもねえ…、っつーか聞きたくもねえ。
先に帰ったオレらは、東堂が巻ちゃんに告白をしたという報告を、バレー部の奴らにした。
ついでに、結果が本人に聞けと。
ぶっちゃけオレらは、ペナルティーも終わってまで、関わりたくねえ。

うわさが回って、寮内のほとんどの奴らが、東堂の帰宅を待ちわびていた。
そして待っていたことを、後悔したに違いねえ。

スキップをしかねない勢いで、極上の微笑み。
玄関を開けるなり、東堂は叫んだ。
「なつかしの我が寮よ…今朝と変わらぬのに何故今日はこんなにも輝いて見える!」
「解っている…それはオレの心が輝いているから…」
「灰色のこんな無機質な壁まで、今のオレには愛おしい なぜなら!今日は特別な日だからな!!」
「おお なんだお前たちオレの幸せを聞きたいのか?おいおいせっかちだな靴ぐらい……こらどこへ行く」

どこまで一人小芝居を続けるつもりだ、コイツ。
これ以上はない幸福顔で、へらへらしながら帰った東堂に、全員答えは見えたのだろう。
そして男としては、いい加減一人に搾りやがれと思いながらも、全力で恋の素晴らしさをぶつけてくる男なぞ
ウザくて仕方がないものだ。
……特に、恋人なしの立場としては。

こうして、箱学寮内では誰もが答えを聞くまでもなく、マキちゃんと東堂が付き合い始めたと認識された。

問題は、自宅通勤のやからだ。
ウカツにも「東堂、昨日マキちゃんに告白したんだって?」とクラスで発言したから、大変だった。
女子は叫ぶ。
賭けは男子寮内のみで行われていたから、女子が知らなかったのは当たり前だ。
「どういう事よ!?」とつるし上げを食らってるのは、東堂ではなく、ウカツ発言の当人だ。
そしてそれを尻目に、他の男どもは「マジ!?」「結果どうだった!?」と男子寮生全員が「バカやめろ」という質問を、思いっきりしやがった。

―――ウゼェ
ちげーよクレープは可愛くあーんしてくれたじゃねえよ、廃棄物を無駄にしねえ処理だよ
腰を抱いたのは、オレのメールを利用したからだろ、ボケ
縁結びの神社で好きな人と一緒に来れるのは幸せだって言ってた?一般意見じゃねえのソレ

「それでだな…オレの告白を聞いて巻ちゃんは一滴の涙を流したんだ……美しかった……」

演技のつもりでつきあってやってたら、マジ告白されて泣いたんじゃねえのかよ
大丈夫か巻チャン、俺ら最後まで見届けてなくて悪かった、東堂の迫力に負けて「つきあってくれ」「オ、おぉ?」とか言っちゃったのを、
このバカが勘違いしてるんじゃねえよな?

「そして…オレは巻ちゃんの目をそっと塞ぎ…やさしくキ…おおっとこれ以上は言えないな!シャイな巻ちゃんが怒ってしまう!」
にやにやと、口元を覆い隠す東堂、マジうぜぇ……!
「巻ちゃんの唇は……柔らかかった…………」

飲みかけの、ベプシが鼻に入った。

巻チャン、ご愁傷様。お前オレら箱学で、明日には誰一人名前を知らぬものはない、存在になってるわ。
東堂に告白されて、しかもキスまで済ませているとの情報付きで。
うっしムカついたから、巻チャンに東堂がどこまで話したかをチクってやろう。
確か新開は、総北の田所のメルアドを知っていたはず。

…相手は流石に隠しとかないと、マズいよな じゃあシンプルに
『巻チャン キス おめでとー』と田所に送ってやれば、伝わるだろう。
その結果、しばらく着信拒否にでもなりゃあいい。ざまあ。

……翌日。
「こんなにオレと思いあって、二人で結ばれた…いやまあ肉体的にはまだなんだがオレと巻ちゃんなのに一日たっただけで
巻ちゃんが着信拒否するなんてことはありえんよ!つまりこれは巻ちゃんが何らかのピンチに陥っていて電波も通じない状況にあるという事か
もしくはなにものかが巻ちゃんの携帯をよからぬ目的で奪ってを操作しているに違いない!」
「…で?」
「だからフク、オレは今日千葉に少し行ってくる」
「そうだな、心配だろう行って来い」

福チャン!!駄目だ!!!
この状態の東堂を行かせたら、マジ今度は裁判沙汰ストーカー扱いされかねねェから!!!
箱学出場停止のピンチになるから!!!とめてえええええっ!!!!

結論 やっぱり巻島が絡んだ東堂にカラむと、ロクなことにはならねえ
オレは!!もう二度と!!!ごめんだからな!!!