【東巻】まっすぐな泉の精霊さんと恋人たち



9/9 の東巻ワンライ、テーマ『爆弾』本誌・別冊と続けざまに爆弾落とされた東巻クラスタ的にナイステーマ!!



東堂編

とあるところに、東堂尽八と巻島裕介と言う恋人同士がおりました。
二人はある日、山の中を散策中に、とても綺麗で澄んだ泉を見つけたました。

「うわぁ…綺麗っショ…」
普段は困りがちに下げられた眉根をほどき、ふわりと微笑む恋人を見て、東堂は『そんな巻ちゃんのほうがずっと綺麗だぞ』と心の中で呟きます。
東堂の優しい視線にも気づかぬ様子で、泉のほとりに小走りで向かう巻島は、透明すぎて泉の底まで見えると身を乗り出して、泉を覗いていたのですが、ふとバランスを崩してしまいました。
「あ」
「巻ちゃん!?」
東堂が駆け寄りますが、それより早く巻島はばしゃんと水音を立て、泉の中に落ちてしまいました。

それほど大きくは見えなかった泉ですが、巻島は浮上してきません。
「巻ちゃーんっ!! 巻ちゃんっ!巻ちゃん!大丈夫か!?」
膝を折って、懸命に巻島を目で追う東堂ですが、どうしたことか、巻島の姿は確認できませんでした。

「巻ちゃん!?」
何度巻島の名前を、叫んだことでしょう。
どうしても見つからないとわかった東堂が、まさに泉に飛び込もうとした瞬間、ザバリという音がして、屈みこんでいる東堂の頭上に、影が落ちました。
巻島が立ち上がったのかと、急いで顔を上げた東堂の目に映ったのは、立派な眉毛でなぜか頭上にリンゴ、短めの金髪をした男でした。

「……誰だと問いたいが、そんな時間も惜しい どいてくれ!オレは巻ちゃんを…」
「まあ落ち着け オレは神の使徒の一人 泉の精霊フクという」
「落ち着いてなどいられんな! 一刻も惜しい今、どかぬというのであれば」
「巻島は、無事だ」

表情一つ変わらぬまま、フクは東堂へと告げました。
「無…事?」
安心し、脱力したように地べたに座り込んだ東堂に、フクは続けます。

「お前が落としたのは この」
ここで一度言葉を切ったフクの横に、いつしか水が形取り、東堂の知る巻島より幾分か幼く、少しおどおどした感じの短めの髪をした巻島がいました。
「まだ今は人見知りをするが、お前にはいつか必ずなついてくれて、その分一途に追い駆けてきてくれる巻島か」
もう一度言葉を切ったフクの反対横に、今度は大人っぽい雰囲気を纏った巻島がたたずんでいました。
「英国の空気が水にあったのか、ヘソ出しを厭わぬほど、ナイスバディかつアダルティになった巻島裕介のどちらだ ちなみにこちらの巻島はもうお前と大人の関係だ」
さらりと爆弾発言を落としてくれた泉の精霊が示すとおり、東堂と巻島はまだ、この泉のように清い関係です。

サラサラショートヘアの巻島は「東堂?」とフクの影から、小首を傾げてこちらを見ています。
大人びた雰囲気な東堂は、ヘソチラなシャツを気にすることなく、「よう東堂」と自然な笑顔で、こちらに手を振っています。

呆然と二人を見上げる東堂に、フクは
「さあ!どちらだ」と決断を迫ります。
左右を何度と首で往復させ、東堂の困惑が伝わりました。
それでも泉の精としては、決断を迫らねばなりません。
「さあ」
「……べ…るか……」
ようやく搾り出された東堂の声は、うつむいているせいか、途切れ途切れです。

「すまん、聞こえん」
「…選べるものかと言っているんだ!」
魂の叫びと言わんがばかりの表情で、東堂はフクを鋭くねめつけました。

「どちらかだと!まずその選択が間違っているではないか オレが落とした巻ちゃんは笑顔がまだ不自然だけど、時折見せてくれるふと表情を緩めた顔がたまらなく可愛いくて、
ちょっとツンデレは入っているけれどそのデレが出た瞬間にはオレはもう死ぬんじゃないかと思うほど幸せで、全力でオレと競ってくれて、オレに新しい世界をくれた巻島裕介だ!」
「……その通りだ よし正直なお前に……」
「それに!選べというのは何だ!オレの愛しい巻ちゃんは 何人いたって愛しいばかりで選べるはずがない!」
「む……」
「お前は本当に神の使徒なのか!? オレが、オレが仮に一人を選んだら他の巻ちゃんはどうするつもりだったのだ!」
「いや…こ、この巻島たちはオレの力をもって作り出した水から作り出した存在なので…」
「消し去るというのか! このオレの!大切な巻ちゃんをオレの目の前で!!」
「いやその、お前が本物を選びさえすれば……」
「このオレの前で存在する巻ちゃんを消そうとするなど!!許されることではない!!人の心を弄んでそれで後悔せぬというのかっ お前の血は何色だ!」
怒涛の勢いでまくしたてる東堂に、フクは鉄仮面こそ崩れぬものの、かなりの確率でたじろいています。

ここに付近を根城としている野獣がいてくれれば、
「ハァ!? ウッセ!!元々神サマなんてのは、人で遊んだり気まぐれだったりが当たり前なんだよ フクちゃんは充分上等な神の一員だろうが!」
とナイスアシストで噛み付いてくれたでしょうが、あいにく今は狩にでており、不在でした。

「巻ちゃん!巻ちゃん そちらのオレをまだ不審人物のような目で見る可愛い巻ちゃん!セクシーな細腰で、ゆったり微笑んでいる巻ちゃん!
そしてオレの永遠のライバルで誰よりも魂の近い友である巻島裕介……!」
拳を握り、衝動のままフクへと近づこうとした東堂ですが、フクはあいにく泉の中央付近に立っているので、不可能でした。
その分力を篭めて、東堂は叫びます。
「オレは!オレにとっては!!どの巻ちゃんも愛おしい大事な存在だ!!」

「…感動した 人ではない存在にすら抗うお前は、強い」
パチパチと手を叩く、金色の髪の青年は、心なしか目を潤ませていました。
「本来であれば正解者には、本物を戻してやるというのがこの泉のシステムなのだが…よかろう、特別にお前にはこの巻島二人もセットでつけてやろう」
フクの言葉とともに、東堂の背後には湖に落ちたはずの巻島、少し幼い巻島、アダルティな巻島の三人が勢ぞろいしています。

「「「東堂ォ」」」
耳慣れた鼻にかかったような、巻島の声が三重奏に聞こえるのは、幻聴ではありませんでした。

「…オレは!感謝せずにはおれんよ!!この山の神に!!!!」

それからの毎日、甲斐性のある旦那は三人を養うため、毎日どこかしらの山を駆け上っては、レース賞金を獲得をしています。
そんな生活ではさぞかしヘトヘトだろうかと思いきや、三人の巻島に囲まれて東堂のテンションは常に最高潮でした。

「オレの目前で…アダルティな巻ちゃんが、他の二人を愛でている図は…幸せすぎて死にそうなんだが」
「クハッ…ついでにお前も可愛がってやろうかァ?」
「そっちの巻ちゃんもっ!オレにそんな表情 滅多に見せてくれないのに!!」
「んー……じゃあ今見せてやるっショ おかえり東堂ォ」
「かかか、可愛いぞ!可愛いぞ巻ちゃん!! そしてまだオレを見てビクついてる巻ちゃんの愛らしさは 犯罪的だ…!今すぐかっさらって抱きしめて、その全身をこの身で確かめたい……!」
「……カチューシャ、怖いっショ……」
「怖くはないな! 巻ちゃん愛しているぞ!どの巻ちゃんもオレの巻ちゃんだ!」

こうして、四人はいつまでも幸せにくらしたそうです。

めでたし・めでたし(巻島編へ続く)

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巻島編

とあるところに、東堂尽八と巻島裕介と言う恋人同士がおりました。
二人はある日、山の中を散策中に、とても綺麗で澄んだ泉を見つけたのです。

「巻ちゃん!見てくれ二人のデートにふさわしい……うわぁっ!」
美しい光景に気を取られていた東堂が、恋人にも早くその景色を見せたいと、早足になりました。
ですが勢いづいたせいで、そのまま足元の石につまずき、東堂は泉へと落ちてしまいました。

「東堂! 東堂!?」
のんびりと光景を眺めながら歩いていた巻島ですが、さすがに焦った様子で、泉へと近づきます。
さほど大きくない泉なのに、水面を覗き込んでも、東堂の姿が確認できません。

「しょうがねえ…オレもあんま…水泳は得意じゃねえけど…」
足元にまとわりついては重くなると、ズボンを脱ぎ捨てたところで、泉から金髪の男が一人、沸きあがってきました。
「落ち着け巻島よ オレは神の使徒の一人 泉の精霊フクという」
目の前にいきなり、それまでの存在がなかった場所に男が現れたのですから、巻島は呆然と見上げます。

「お前が落としたのは」
フクが一度言葉を切ると同時に、巻島はぼんやりと『え、オレが落としたことになってんの?』などと考えていました。
巻島はそう、リアリストであるので、現実は現実として受け止めるとして、脳内処理が追いついていないのです。

「この口数も少なくなり、カチューシャもやめたアダルティな雄東堂か」
フクの横には、巻島を慈しむような優しい眼差しで見守る、自分の知る東堂より幾分か大人びた東堂が立っていました。
ゆったりと唇端を上げるその表情は、切れ長な眦を和らげるだけで、巻島への愛を大いに伝えていました。

そんな無口な東堂になれぬ巻島は、少し上気した頬で、ふるふると首を振って、それはオレの東堂じゃないと答えます。

「それとも まだ自意識過剰ともとれるが、それなりに実力はあり、何事にも臆することはない愛想は悪いがクールな雰囲気を持つ、スペアバイク東堂か」
理不尽に呼び出されたみたいに、不機嫌な目で「なんだ この玉虫」と巻島を睨む東堂ですが、まだまだ少年らしさを大いに残していて、
可愛い後輩と似た空気をどこかに持っていると、巻島の胸はきゅんと高鳴りました。
ですが、これも自分の東堂ではないと、巻島は答えます。

するとフクは
「…正直によく言った 褒美に本物の東堂と合わせて三人、お前にやろう!」
「いらねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! ちょっ!おまっ…何言ってんだ!?一人でもこっちはもて余してるッショ!こいつらにはこいつらのお似合いの相手が……」
「巻ちゃん」
アダルティ東堂は、一歩を踏み出し、反射的に後ろに下がった巻島の首に優しく触れました。

「…巻ちゃん、……オレでは……ダメか?」
耳朶で優しく甘く囁く、低い声に、巻島の背筋はゾクリとざわめきました。
現在長めのシャツで下半身をかろうじて隠しているとはいえ、巻島はボトムを湖に飛び込むため脱ぎ去っており、大変防御力の低い状態です。

「おいっ!離れろ 巻ちゃんはオレの巻ちゃんだ!!」

背後からまるで奪うように、抱きとめてきたのは、巻島のよく知る東堂です。
これはオレのだと主張せんがばかりに、ぎゅっと全身の力で巻島を腕の中に封じ込めます。

「玉虫…… よくわからんが、オレはお前を知ってる気がする」
マジマジとまっすぐに、でも笑顔でなく、真摯な表情で自分を見てくる年若い東堂は、新鮮でした。

どの東堂も、巻島にとっては大事な、心をときめかせる存在ではあります。ですがそれはそれ、これはこれ。
「無理無理無理っショ!! オレ死ぬ!!東堂三人プレゼントって嫌がらせかよ!無理だっ」
必死で訴える巻島に、フクは大きく一つ、頷きました。

わかってくれたかと、ほっと吐息をつく間もなく、フクは親指を立て
「巻島…お前は、強い!」
と言い、そのまま湖の中へ姿を消してしまいました。
「ちょっ……!待て!!おいぃぃぃぃぃっ!無責任すぎるッショォ!こんなん爆弾と一緒じゃねえか!?」

水面には、もう誰かがいたという痕跡はまるでなく、鏡のように落ち着いて、美しい周囲の景色が映りこんでいます。
これは、リアリストを自認しすぎた故の逃避反応で、夢見がちな自分にでもなってしまったのだろうかと、呆けた様子で泉を見たままでいる巻島ですが、
背後にはやはり、複数の人の気配がありました。

足音が、すぐ背後に近寄ってくる気配がして、水面には自分とともに、三人の東堂が、映っています。

「安心してくれ 巻ちゃん…オレ達が三人で話し合った結果、二日ごとの交代制ではどうかという話になったのだが」
……何が、とは怖くて聞けません。
体の奥から湧き上がってくる不安とは裏腹に、三人の東堂は優しく微笑み、巻島の頬に、首筋に、腰にと手をそれぞれ伸ばしてきました。

「「「幸せにするから」」」
複数聞こえてくる、少しトーンは異なるけれど同じ声。
巻島は眩暈がしそうな心持で、早く夢なら覚めてくれと、願うばかりです。

家族が増えたよ!やったね巻ちゃん!

「不吉なフラグ残してくんじゃねぇショォオォォォォ!」

めでたしめでたし…?

(*やったね!○○ちゃんの元ネタを知らん方へ
 知らんままでもいいのですが、万が一ググるのでしたら元作品を追い駆けずに解説だけを追うことをおすすめします)