東堂に抱かれたいと、思っていた。 会えば淫らな水音がするぐらい、執拗に舌を絡ませてくるのに、東堂はそれ以上進もうとしない。 それとなく促しても、気づかぬ体で受け流され、巻島は自分と東堂の気持ちは違っているのだろうかと、疑ってさえしまう。 自分が男だから、口接け以上に進んでくれないのだろうと苦悩した巻島は、他の男との経験をし、自らリードをすれば東堂と触れ合えるのかもしれないと、画策をした。 そのために計画をした、いわゆる出会い系での相手探しは、東堂に全てがバレていて、瞬時悪夢に囚われたのかと思ってしまった。 男同士の交わりを知るための、一夜だけの相手。 素性を知られぬよう、また相手の事も知らぬよう、その場限りで終わるはずだったのに、待ち合わせ場所に目深に帽子を被っていたのは、記憶によく残っている体躯をした 男だった。 まさか、と思う。 だがそれは現実で、帽子を外しながら、なじる冷たい東堂の視線に、自虐だけでは足りぬ愚かさを巻島は思い知った。 「巻ちゃんをずっと 抱きたかった」 そう温度のない声でいう東堂に、背筋がゾクリとする。 だがインターハイ前、抱かれる方の負担が大きい男同士のセックスは、耐えてきたのにと東堂は自虐的に鼻先で笑った。 「なあ巻ちゃん 男なら誰でもいいというのであれば、俺でもよかろう」 手首を握りこむ力を強め、東堂は腕を引く。 「あ…違う、ちが…… 東堂…」 「何が違うと言うんだ」 ――東堂が、自分を抱けぬだろうと思ったから、受身を学んでおこうと思ったなんて、許される言い訳ではない。 足をとめてあらがおうとしても、逃げようとするたびにそれ以上の力で戻されて、激情のままにラブホテルに連れ込まれた。 全身が麻痺したみたいに、言い訳も思いつかぬまま、巻島は寝台へと投げ出される。 「逆らわないでくれ 優しくするつもりはないが…押さえつけたい訳でもない だが巻ちゃん、恋人が他の男に身を任せようとしているのを知られれば、怒られて当然だろう?」 東堂の、黒い嫉妬の塊みたいな憤りはもっともで、険しい目つきや切りつけるような一言一言に、巻島は身を竦ませるしかなかった。 剥ぐような勢いで、布地を裂くくせに、東堂は巻島を傷つけぬよう慎重だった。 破られたシャツの袖は、そのまま巻島を後ろ手で拘束するための道具になった。 「東堂 東堂ごめ……ごめんなさ……」 「聞く耳もたんな 大人しくしていろ巻ちゃん」 抵抗するための手段を封じられ、ほどこうともがくほど、東堂の冷静な怒りをなお掻き立ててしまうようだ。 「無駄だ 諦めろよ」 それでも身をよじろうとする巻島の動きを、東堂は滑稽だと目を細め、口先だけの笑いを作る。 ――まばたきをすれば、涙がこぼれおちそうで、巻島はうな垂れるように、目隠しをされるまま、枕に頭を預けた。 東堂の腹立ちはもっともで、その露骨な嫉妬も、自分の罪だとわかっていると告げれば、まったく理解をしていないと吐き捨てるように巻島の言葉を切り捨てられる。 ぎゅっと、髪を後頭部に鷲掴みにされ、のけぞった白い喉が無防備に晒され、噛み付くように口接けられた。 視界が封じられ、何も見えないがはっきりと紅く、色づいてしまっている…どころか、歯形すら残っているかもしれない。 感情を昂ぶらせた東堂が、ゆっくりとその痛みが残る箇所を舌で辿る。 「通りすがりの奴に身を任せようなど…もっともっと ひどいことをされたかもしれない …オレも、してやろうか?」 苛立ちげに掴んだ髪を、今度は急にほどかれ、枕に頭が落ちれば、東堂が従順にさからわぬ巻島を「イイ子だ」と褒める。 巻島の全身が、その責め立てにゾクリとざわめいた。 くすぐるような、それでいて容赦のない東堂の指先は、巻島の敏感な箇所をひたすら嬲り、熱を持ち始めたら突き放すというのを繰り返し、巻島の不安定さを遊ぶ。 「ふぁっ……っ」 頭が快楽に満ちて、無意識に腰を揺らしてしまうが、その行動すら、東堂はなぶるように、巻島をいっそう追い詰めるだけだ。 「指だけでは足りないようだな」 あざけるみたいに軽い口調で、東堂は巻島の内腿に手を添えると、膝を押して開脚させた。 一方的に見られ、恥ずかしい場所を晒けだすことで、巻島の脈打ちはじわじわと大きくなり、先端から溢れたぬめりがじわりと伝い落ちる。 「あ…やだ……や…東堂…… も……っ…」 「まだだよ、巻ちゃん」 「ひっ…!?」 熱く濡れた粘膜が、巻島自身を包む。東堂の口に含まれて熱ばかりが高められるのに、解放はされず、根元をきつく戒められた。 ひたすら焦らし、巻島を弱い生き物へと作り変えるための愛撫。 「あっ…あぁ、」 くちくちと湿った音は、視界が塞がれている分ダイレクトに、巻島の性感を刺激する。 「やだ…東堂ぉ…… やだ…やっ…… お願……」 巻島の甘い声が、かすれて哀願になっても、東堂の冷たく作った声は変わらず、「まだ許さない」と答えるだけだ。 巻島の日頃のかたくなさは、どこにも感じられぬほど快感に昂ぶり、理性がほとんど消えた頭で、みっともないと思いながらも、目隠しの下、睫毛を潤ませながら 東堂に腰をすりつけてしまう。 意図せず東堂の太腿に触れられた狭間は、そのわずかな振動にすら、蕩かされて形を変える。 まだ経験もないくせに、東堂を迎え入れたくて、恥ずかしい窄まりが誘うみたいに収縮するのがわかった。 「ハッ……まだソコには触れてもいないのに、随分といやらしいな巻ちゃん」 「やっ…違っ……やぁ…」 東堂の残酷な含み笑いでの囁きは、的確でなにも違ってなどいない。 「だが いい眺めだ」 ほんの少し、東堂の鍛錬で硬くなった掌がすべるたびに、勝手に巻島の背筋がわなないてしまう。 「…そこは触れてはやらんよ オレ達にはまだ勝負が残っているだろう」 かわりにとばかり、東堂は巻島の胸の先端を、くすぐるみたいに突っついた。 そのまま指の股根で挟み込まれた突起は、しこりが増して、色濃く立ち上がる。 先端がぷくりと隆起し、巻島が無意識に背中をのけぞらせるたび、突き出されるように東堂の目前に捧げられ、まるで舐めてくれとねだっているみたいだ。 「そんなに淫らな姿を晒して、随分と楽しそうだな …まだ反省が足りないのか?」 東堂のかすれた声は、毒気すらともなっていて、獰猛に巻島が快楽に浸る隙を見逃さない。 敏感になった乳首が、熱くぬめる感触に包まれつつかれ、吸われ、巻島の頬から耳朶に刷けられた、淡い朱が色濃くなった。 じわり、と下肢に新たな滴がにじむのが解る。 「ひ……っ ん…」 ――鳥肌が、立ちそうだ。 眩暈とも快楽ともつかぬ感覚だけでも、消え入りたいほど恥ずかしいのに、東堂はわざときつく胸を吸い、ぴちゃぴちゃと音をたてて刺激をする。 「…ぁっ……東…堂ォ……も……やっ……許し…ゆるし…て…やだぁっ……あっ…」 すでに喘ぎでしかない、巻島の許しを請う言葉は、怯えが多く含まれているのに、まるで誘っているようにしか聞こえない。 ――巻ちゃん、巻ちゃん……オレにもわからんよ …どうすれば、正解だったんだ? 巻島を知れば知るほど、触れてそのすべてを知りたいという気持ちと、大事にしたいという相反する思いが深まるばかりで、東堂自身どうすればいいのか、解らなくなる時がある。 だがこうして、腰を震わせ涙目で縋る姿を見ては、ただただ貪りたい気持ちしか、残らなかった。 「巻ちゃんは……気持ちがよくなりたくて、どうでもいい男に抱かれようとしたのか?」 「ちがっ…違う……ちが…ぁっ…東堂 が……」 滾る血を抑え切れないように、東堂は巻島の後頭部の髪を掴み、のけぞる巻島へと口接けた。 無意識に逃げをうとうとする腰を、膝で押さえ込むように挟み抑えれば、巻島が顔を背けようとする。 だが、獰猛な力はそれを阻み、許さなかった。 「――んっ……んぅっ……」 上ずった呼気は、喉を鳴らすように巻島から漏れると同時に、粘膜がくすぐられ、力が抜ける。 「淫乱」 ―――違う、ちがう、ちがう…! こみ上げてくるのは、言い訳で、東堂の愛撫に全身で反応をしめしている自分の姿では、まるで説得力はない。 東堂を待ち望むように、腰をあげてしまうみっともない姿に、巻島はもう顔が上げられなかった。 「ふっ……と…うどぉ…… あっ ひんっ!」 「これでもまだ足りないのかね もっと…ひどくされたいらしい」 東堂の硬い皮膚をした指が、巻島の昂ぶりをくすぐれば、奥歯を噛み締めようとしても、嬌声はこぼれ出る。 小刻みに腰を揺らす巻島を、東堂は網膜が乾くのではと思えるほど、凝視していた。 「っあ…ンっ…… やぁ…」 喉がカラカラになって、すすり泣きながら、それでもこれだけは伝えなくてはと、巻島が無理に声を紡ぐ。 「東堂なら……ひどい、こと…しても、いいから……… 嫌いに……ならないで………おねがっ……東堂……」 舌足らずの子供みたいに、縋るように泣かれ、東堂は巻島を卑怯だと思いながらも許してしまう。 軽蔑して、少しでも嫌いになれればまだマシだったのに、自覚できたのは巻島への欲と執着と、愛だった。 泣きじゃくる巻島の顔優しくを上げさせた東堂が、そっと目隠しを取る。 光が戻り涙を浮かべたまま、まばたきを繰り返す巻島の腕も、自由に動けるようにと東堂は戒めを外した。 ……まだ最後までは、できないが、もっともっと自分をねだらせて、二度とこんな愚かな真似はさせないように。 無理やりではないと、合意だと思い知らしめるために。 「巻ちゃん……オレのこと、好きか?」 細い首筋に息を落とす近さで、巻島に問う。 「…好き……大、好き」 「…オレも好きだよ……巻ちゃんを、嫌える、はずがない」 目隠しを床へと投げ捨てると、東堂はあらためて巻島の腰を抱き寄せ、おのれの腿の上へと座らせた。 つ、とあふれ出た滴で濡れる白い双丘の影にある粘膜の中心を、東堂が押す。 「ひっ…やっ…ダメ…ダメ……」 つぷりと音がして、誘い込むかのように、小さな穴は東堂の指を咥えた。 巻島の内部の熱さを、東堂はまず指で知った。丁寧にほぐすように、周囲の皮膚をなぞり、再度指を沈ませる。 そのたびに巻島の後腔は、きゅっと誘い込むように窄まり、同時に巻島の昂ぶりの硬度を増させていた。 愛撫のたびにこぼれる、とまらない白濁した粒は、東堂の指さえをも濡らし、巻島の下肢をテラテラと隠微に艶めかせていた。 「…も……ダ…メ……っ…」 「まだ嘘をつくのか 全然ダメじゃないだろ」 叱るような口調で、東堂は巻島の内部から指を抜き、先端からしたたる雫で汚れた手を、眼前につきだした。 中途半端な快楽を与えられ、あさましく身悶えしていた巻島は、その意図が読めずただ、ぼんやりと東堂を見上げている。 「ほら巻ちゃんのせいで、こんなに汚れてしまった …舐めてきれいにして」 「んっ…んぅっ……」 東堂の指が、巻島の舌上に乗せられ、執拗に腔内を嬲る。 熱い粘膜の感触を楽しみみたいに、東堂は巻島の舌を、頬の内側を、歯茎をと指先で執拗に触れ、巻島に息苦しさを与える。 …それでも先ほどのように、東堂に無言になられるよりずっとマシだった。 ぴちゃぴちゃとはしたない音をたて、それでも懸命に東堂の指を拭えば、よくできました、と褒めるように東堂が空いた手で巻島の耳たぶの裏に触れた。 罪の証のように縛られていた、腕の拘束からの痺れももうない。 巻島は自分の意志で素直に、何度も東堂の肌に唇を落とし、ちゅっと吸った。 体なんて繋げなくても、こうして触れ合えるだけでも、幸せになれるのだと巻島は知る。 自分のこぼした精液で、東堂を汚してしまったことが申し訳なくて、涙が浮かぶ目で尽くすほど、東堂の機嫌は直ってくれるようだ。 天才を自称する東堂だが、その掌や指先は鍛錬で硬い。 だが巻島はその、自分との勝負のために鍛えれらた、なめしたての皮のような厚みをもつ指先が、好きだった。 「んっ…ふっ…ん…」 口いっぱいに東堂の指を頬張れば頬張るほど、漏れる声があえぎのようになる。 「もういいよ 巻ちゃん」 巻島の唾液で濡れ光った指は、そのまま巻島の頬を辿った。 ゆっくりと顔を上げた巻島も、両腕を伸ばし東堂の頭を抱え込む。 東堂のほのかな汗の匂いが、巻島の鼻腔をくすぐった。 膝の上に抱きかかえられれば、嫌がおうにも東堂の下肢も、硬く膨らんでいるのだとわかる。 「東堂……欲しい……ショ…」 上ずった呼吸で、懸命に誘う巻島に、東堂はまだダメだ、といった。 こんなに近くにいて、こんなに互いに求め合っているのに、と縋るようにみつめれば、東堂は苦笑し、巻島の膝を大きく割った。 まるで幼子がオムツを変えられるようなポーズで、巻島が羞恥に怯えるのもお構いなしで、東堂は自分は脱がぬまま、巻島の柔らかな蕾を突いた。 「あっ……東…堂……ぉ……なに…… あっ」 直接挿れられた訳でもないのに、さんざん嬲られてきた巻島の小さな穴は、粘着質な水音をたて、強引に辱められている気持ちになる。 頑なに閉じていた入り口が、布越しに広げられ、侵入されていく未知の感覚。 強く腰をつかまれ、反射的に怯えたみたいに、東堂の腕に爪を立てれば、首筋に歯が立てられた。 「……巻ちゃんっ!」 「ふっ……あっ…あ、東堂ォ… 好き…」 心地よさの中でも痛みを覚え、巻島が首を振れば、東堂はゆっくりと歯跡を舐めながら、自分のズボンのファスナーを下ろし、巻島の膝を重ねるように押し上げた。 肉の薄い巻島の足だが、膝の角度をずらせばぎゅっと密着した窪みができる。 東堂は腰をぶつけるようにして、下着の隙間からその肉の狭間に熱い蜜をぶち撒けた。 「あんっ……あっ東堂………! 「巻ちゃん!」」 ―――理性が、最後まで振り切れなかったのは幸いだと、東堂は思う。 そうでなければ、自分は巻島を喰らい尽くし、泣かれても叫ばれても容赦をせずに、欲情のままぶつけていただろう。 下腹部から胸に届くまでを、自分の白濁で汚された巻島は、上気した頬のまま横たわり、いつもより小さく見えた。 ……嬉しい、嘘みたいだ、これは……現実なのだろうか 東堂が、自分を抱かなかったのは、大事にしたかったからだと言って、その衝動をぶつけてくれた。 このまま消えてもいいと思えるほどの、陶酔感に包まれた巻島は、うっとりと目蓋を下ろした。 東堂が自分に欲情してくれた証が、この身にまとわりついている。 ずっと近くにいたのに、手が届かないように感じていた東堂が、ここにいる。 「ずっと……こうして……」 東堂の肩に、頭を摺り寄せれば、そのまま頭部を撫でるように抱き寄せられた。 「巻ちゃん、もう一度オレを好きだと言って」 ゆっくりと、巻島が逃げないのを確認するみたいに東堂が、ついばむような接吻をする。 随分と自分が弱い生き物になったみたいで、心細いのに、東堂の骨ばった腕の中が心地よくて、何もかもがどうでもよくなってしまう。 「東堂、好きだ」 このまま頭から、食べられてしまっても幸せかもしれない。 そんな妄想すら、心を温かくするようで、巻島は愛おしさで頭の奥を痺れさせながら、東堂に唇を重ねた。 |