【全ケイ】オレ様王子と憂鬱な女王【エア・サンプル】
全ケイいーなぁいーなぁの思いから、せめて心だけでも参加してやるぜのエア新刊の、エア・サンプルです。
書きたいトコだけ書いたお遊びですので、ネタとしてご了承くださいませ



大陸の片隅にある、『ソウホク』は国土が狭いながらも、近年になって安定した気候からなる農産物の輸出や、跡目を継いだ王・金城の統率力により、
最近はその動向が注目されている国の一つだ。
王の金城には、二人の兄弟がいる。
しかし、残された文献では一人の弟と、一人の妹というのが、公式な文書での記録内容だ。
金城のすぐ下に生まれた田所は、頑丈な体とおおらかな性格から兵士にも好まれ、将軍としての活躍は目覚しい。

本来ならば、三男と呼ばれるべき巻島は、誰もが本当は男と知りながら、姫として生きることを強いられているという、特別な事情があったのだ。

巻島は生まれつき、輝く光沢を持つ緑の髪に生まれた。
これは異例なことで、過去のどのような文書を調べてみても、例がない。

そのため、国のうるさ型である長老たちの意見は二つに別れたのだ。
ひとつは、「神に異端のしるしを与えられたものは不吉なので、早くに国から追い出すべきだ」というもの。
ひとつは、「神に恩寵を与えられた、特別なしるしを与えられたもので、手厚く保護すべきだ」というもの。

前者の意見は、早くに追放しないと国が滅ぶというもので、後者の意見は神に魅入られたものを追い出せば、国が亡ぶだった。
結局、誰も結論が出せぬまま与えられた条件はこのようなものとなったのだ。

『巻島は、王位継承権を持たぬ 姫 として公式には存在すること』

兄二人は、巻島の存在を慈しみ、側近の者たちは追従ではなく、巻島の髪を美しいと称える。
それでも複雑な育ちをした巻島は、率直な人柄が多いソウホクでは、常に控えめであまり人前に姿を出すことを好まなかった。
光の下では、七色に映える髪も、ほっそりとした肢体も、白く抜けるような肌も、どれも兄たちと異なり、巻島にはコンプレックスだった。

巻島は敬称が姫であるだけで、特に女性として育てられたわけではないし、この国に育つものなら誰もが事情を知っていて、女と間違えられたこともない。
それでも政治の場には顔を出せず、鍛錬をしようと稽古場を訪れても、敬して遠ざけられるのだから、慎ましやかにならざるをえなかったのだろう。
本人は無意識だが、たちのぼる色香がすごいと、こっそり与えられた呼び名は、姫ではなく「ハートの女王(クイーン)」なのだが、本人は知らない。

複雑な事情はあるが、巻島は暖かな家族や側近たちに囲まれ、充分に幸せだった。
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【中略】
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「福富 どういうことだ!」
いささか気色ばんで、帝国の長たる福富に向かっているのは、次期皇位継承権を持つ弟の東堂だった。

「なぜオレが ソウホクの者と結婚せねばならん!しかも噂に名高い玉虫のクイーンと!」
強大な領土を誇り、圧倒的支配力を常に保ち続けている『ハコガク』の皇帝、福富は玉座で静かに座っている。

「ソウホクの金城とは、争うべきではないと悟ったからだ」
「だからといってオレが嫁取りをせねばならん理由にはなっていないだろう」
不満を露わにし、眉根を寄せた東堂の肩を叩いたのは、福富の側近の一人新開だった。

福富の誰よりも信頼する、双璧である側近・新開と荒北は、血縁上でも近しい位置にあり、東堂とも兄弟のような付き合いをしている。

「おちつけ 尽八」
「そーそー て前ェの行動落ち着かせるためには、ナイスアイディアじゃなァイ?」
「この前も社交界で『東堂さまが結婚してくれないなら私死ぬ!』とか叫ばれたって?」
「む…いやしかし、オレはあの女性の名前も知らんぞ」
「んなこたどーでもいいんだよ お前のそのツラや行動のせいで福ちゃんが危険に巻き込まれる可能性があるなら、排除しとけっつー話だろう」

王が第一である荒北は、辛辣だ。
尽八は知らぬのだが、戦場で命を助けられたという経緯があったらしく、荒北にとってイチに福チャンニに福チャン、サンシがなくて、ゴに福チャンなのだ。
…9番目ぐらいになれば、東堂の名前も出てくるかもしれない。

「だからといって!もっとオレなら選り取りみどりで選べるはずだ 弱小国の玉虫など…」
「まあ聞け、東堂」
ゆったりと玉座に座っていた福富が、わずかに身を起こす。

「この縁談はお前にも不利にならぬものだ ソウホクの巻島といえば、男であることを隠していない なればこそ、形式上に正妻にすればあとは、
どのような女性を選んでも周囲はもちろん、本人からも異は唱えられないだろう」
「…ならば福富が娶ればいいではないか」
「あいにく当人が、幾らなんでも現役皇帝の正妻などは無理だと断ってきたらしくてな それになにより、巻島はソウホクで『神に魅入られたもの』の異称を持っている」
その呼び方が琴線に触れたらしい東堂は、眉根を寄せた。

「本来なれば、一生独り身を余儀なくされていただろうが、我らとソウホクの同盟話が提案された時に、ハコガクには『山神』なる敬称を捧げられたものが
いるとの話になってな …ならば似合いだというわけだ」

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【中略】
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自分の嫁になる者を、一目拝んでおきたいと、東堂が城を抜け出したことを知るのは、数名だった。
東堂自身、剣技にすぐれ武闘の腕も名高いのだが、身分の高いものが行う行動ではない。
「あのバァカ」
新開と荒北が連れ戻すべきかと協議していたのを知った福富は、独身前の最後となる自由行動かもしれんので、放っておいてやれと告げた。

深い森の中、現れたのはたった二人連れ。
馬は数頭いるが、大国ではなくても、王族というべきものの輿入れにしては簡素すぎる荷数。
それでも、木漏れ日からの陽射しを充分に反射させた、光沢を持つ髪のおかげで、異彩を放っている。

自分はイヤでたまらないが、お前は美形・天才・女性にモテルの三拍子揃った王子に嫁げるのだから、もう少し晴れやかな表情をしたらどうだと、
黙して馬に乗る巻島を、東堂は睨んだ。
その視線を感じたらしい巻島が、ふと顔を上げた。

樹木の陰から自分を見ていたらしい相手に、訝しげだが、その身なりから盗賊ではないと判断したのだろう。
ことだん慌てる様子もなく、ただ、東堂を見ていた。
「お前っ! この国一番の王子に嫁げるのだぞ!もう少し嬉しそうな顔をしろ!!」
「……カチューシャ、ダサいっしょ」
「なっ…!?」

言い捨てるように告げた巻島は、それきり東堂に興味をなくしたようだ。
いまだかつてない侮蔑に、東堂は唇を噛み締めた。
何事がおきたのだろうと、オロオロとするメガネの少年に、先へ進むように巻島が促す。

幾らなんでも、これでは王子たる東堂のプライドが許さない。
巻島が、贅沢な装飾がなされた剣を佩いているのを見かけた東堂が、おのれの腰の太刀をスラリと抜き放った。
「噂の玉虫の女王は、剣技にすぐれていると聞く」
喉元に鋭利な刃が突きつけられているのに、巻島の表情には焦りも恐れもなかった。

「わが国に不審者を立ち入れるわけにはいかんのでな! その身の証としてオレと戦ってもらおう!」
東堂の叫びが終わらぬうちに、巻島は長いベールを馬に残し、ひらりと舞い降りた。

その素早さに、東堂が身構えるより早く、剣が空を舞った。
咄嗟にうけとめた刃は、重くはないが鋭い。襲撃が失敗したのを悟った巻島は、即座に舞うように後方に下がり、その身を揺らした。
左右に不規則に揺れ、踊るように脚は弧を描く。
剣と同時に蹴りを見舞うという技に、東堂は瞬時見惚れた。

けっして洗練されたものではないのに、今までに見たことがない動き。
左右に舞う髪は、空に踊り、まるで完成された剣舞を見ているかのようだった。

「…ショォ…」
まだ臨戦態勢を解かない巻島と東堂の間に、メガネの少年が半泣きで割って入る。

「ままま、巻島さん!もう危ないからやめてください!!」
すると即座に、巻島は気だるげな雰囲気をまとい、剣を鞘へと戻した。
「悪ィな 小野田 オレがここで何かあったらお前の責任になっちまう」
「そんな!そんなことは全然いんです!!でも、巻島さんの身に何かあったらっ」
「わかったわかった」

困ったみたいに笑う巻島の笑顔。
自分を差し置いて、メガネの少年とぬくもりのある場所にいる二人に、東堂はなぜか焦燥にかられた。

結局、東堂のやり取りから正体はバレていたらしい。
面倒だからお前が案内しろと、愛想のない顔で頼むでもなく言う巻島を、東堂は睨むがまったく意に返されていない。
そのまま城へと戻り、向かいに出てきた新開と荒北に、「巻島を連れてきた」と告げれば、慌てたのは周囲だった。

あらためてのお披露目は、夕刻からの晩餐会でということになり、巻島は用意されていた東堂の隣室へと案内された。
着々と自分の嫁取り準備がなされているのを、東堂は憮然とした顔で聞いていたが、予想ほど嫌な気持ちにはならなかった。

「…噂には聞いてたけど、すげェな」
「髪の色かい?オレは綺麗だと思ったけど」
「ちげーよ あの原色の服だよ」
「あぁ…あっちはね…」
巻島に対しては、平常を装った応対をしていた新開と荒北だが、やはり独特なセンスには多少驚いていたらしい。
こいつらをわずかにでも動揺させた巻島に、東堂はイタズラ心から少し共感を覚えた。

だが大勢の前での、巻島のお披露目に心配はいらなかった。
男性用とも女性用ともつかぬ、長い黒のトーガは片方の肩を出し、背中から降りた布は透ける白い紗で、巻島の量の腕輪に繋がる
ベールのような形になっていた。
高めに結い上げた髪は、巻島の白く細い首を剥き出しにし、男だとわかっていてもひと目を寄せる艶やかさを放つ。

髪に刺さる白百合は、まだ生き生きと美しさを保っており、巻島の緑の髪によく映えていた。

黒と白、布を巻きつけただけに近いシンプルな衣装なのに、異国情緒を醸す巻島は、その場の誰よりも艶美だ。
「玉…虫…?」
どこか呆然と呟く東堂に、巻島は小さく頷く。
後ろに控えた少年が、巻島の服や髪を用意したのだろう、少し疲れた様子だが、この上もなく満足げな出来栄えだとばかり、微笑んでいた。

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【中略】
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「巻ちゃん!どういうことだねっ!!」
血相を変えた東堂が、巻島に与えられた裏庭にあたる一角へ、飛び込んできた。
息は荒く、ほとんど睨むように巻島を見つめている。

「……何がだよ」
木陰で本を読んでいた手を休め、巻島はその身を起こした。
側近である小野田は、東堂の弟である真波と仲がよくなり、今日は一緒に二人で遊んでいるはずだ。

目線を泳がし、ごまかそうとする巻島は、東堂の怒りの理由をわかっていた。
「ごまかすな! 何故、何故巻ちゃんが荒北か新開と婚約という話になっているのだ!!」

嫁ぐという名目で、ハコガクを訪れてから半年。星の並びがどうだと、月の約束事がどうだのという理由で、巻島と東堂はいまだ婚約のままだ。
その短い期間に、何度か東堂と巻島は剣で手合わせを繰り返した。
いままで自分と張ることのなかった、剣の腕。
だが我流である巻島は、幾度戦ってもその踊るような美しいステップで、東堂と互角に舞った。
ありえないとの否定が、自分だけのものにしたい独占欲に変わり、東堂は一刻も早くの巻島との結婚を望むようになっていたのだ。

そんな折聞こえてきたのが、「玉虫の女王は、東堂様ではなく新開さまか荒北さまに嫁ぐことになったらしい」との噂だった。
「嘘だ」の声が出せず、噂をする当人たちが立ち去るまで、東堂は息すらも止めていた。

「――っ」
すぐさま踵を返し、向かうは巻島の私室だった。
先日なぜか理由をつけられて、巻島の寝室は東堂の隣室ではない場所に移動させられた。
「て前ェと巻チャンは 即効結婚予定だったのに、進まねェ 長期間の嫁入り前になっちまったんだから、しょーがねェだろ」
と荒北にもっともらしく言われ、かなりごねてみたが、当の巻島があっさりと移動をしてしまった。

そんなこともあっただけに、無表情にうつむく巻島の返答が、東堂は怖かった。
「……ナガノチュウオウの館林…覚えてるっショ」
「知らんな」
「クハッ…お前、それはヒデェよ」
「アイツの妹がな、お前に一目惚れしたんだと ナガノは今勢力を伸ばしてきている国だ侮れねぇ 婚儀を結んでおけばいいが、立場上
第二婦人にもさせられねえ…わかるよな、オレが他の奴の妻になれば問題ねェんだ」
「わかるものか! 大体オレ達は婚約したと 対外的にも告知しているだろう!」
低くうなるように責められて、巻島は泣きたくなった。
まるで自分が進んで、東堂を裏切ったかのようではないか。

だがそれでも、今の自分が選べるのはソウホクにとって、ハコガクにとって一番の有利な道だ。
「…同性同士だというのも知れ渡ってるショ どうせ、いまだ肉体的結びつきもない『白の結婚』約束だと誰もがわかってるんだよ」
わざと無表情に言ってのけた巻島に、東堂はぶつからんかばかりに、顔を寄せた。

無意識に退こうとした巻島の長い髪を、東堂が首後ろで掴み引けば、自然と白い喉元が晒される。
「…ならば、白の婚約でなくなればいいのだな 巻ちゃん…」
「――っ!」
押さえが利かなくなったみたいに、東堂は獰猛だった。

「ちょっ…バカ!離せっ!!やめろ!」
「無理だな 剣がなければお前はオレに敵わない …力づくなど趣味ではないが……逃がさんよ、クイーン…」

態度であらわすとばかり、東堂は逃げようとする巻島を芝の上にねじ伏せ、身をよじるその隙間から布を引き千切る。
簡素なつくりの布は、巻島の滑らかな肌を容易に肌蹴させ、東堂を惑わせるようだ。

怯えたような巻島の視線は、いっそう東堂の情欲の熱を酩酊させた。しなやかなその腰が、くねるのは誘うようにしか見えない。
なんとか免れようと、身の置き所のない巻島の睫毛に、涙が滲んだ。
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【サンプル終了です! エア新刊楽しみにお待ちください!! 皆様良いイベントを♪】

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すみません ネタ終了楽しかったです

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