【東巻】魅了ウィンク



出会ってから新入部員がいるまでの期間いつだよとか、本当に簡単に公道貸切できんのというツッコミがスルー希望でございます。

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ウィンクの練習がしたいと、新開宛のメールが届いたのは昨日の夜だった。
差出人は「巻島裕介」とある。

よく知っている名前ではあるが、スプリンターである田所を通してだとか、東堂を経由しての縁だと言う印象が強く、巻島から直接依頼されるのを、
新開が疑問に捉えても不思議ではない。
とりあえず、事態のなりゆきを知りたいから詳細をくれと送り、その返信はたった今届いた。

もともと、その練習は東堂に頼んでいたのだと、最初に記入されていた。

総北の文化祭で、運動部も何かパフォーマンスをしろと言われた自転車競技部は、ロードレーサーがどれぐらいのスピードで実際走るのかを、
演舞代わりに披露する事にしたのだという。
ただ走って終わりでも芸がないからと、決められたお題は「走り終わったあとウィンクでポーズをつける」というものだった。

もちろんそれに全面的に抵抗したのが、総北3年だ。
「そんな恥ずかしいことできないッショ!!」と反発した巻島に、生徒会側は「それなら女装でもいいわよ」と冷酷に告げ、白旗を揚げざるを得なかったとあった。

女装よりも、ウィンクだろうの結果は当然として、当惑しているのは、実は最上級生三名とも、ウィンクができないからだ。
何ごともさりげなくこなす金城は、静かに瞑想でもするかの勢いで両目を伏せ、豪快にガハハと笑う田所は、笑顔のまま両目を全力で閉じていた。
巻島も同様に「オレの人生にウィンクは必要なかったっショ…」と鏡前で練習を重ねたが、どうにもこなせない。

仕方がないので、人に注目されるのが大好きな、パフォーマー鳴子筆頭に1年が田所に付きウィンクを教授し、無難に何事もこなせる2年が金城に付き、
巻島は東堂に頼み込んだらしい。
もちろんそれを、東堂が断るはずがなかった。

先週の日曜日に巻島の自宅に訪れた東堂は、レース前と同じぐらい雀躍していた。
「嬉しいぞ巻ちゃん!オレに頼ってくれるとは運命のライバル冥利に尽きる!」
「あー…悪ィな 面倒かけて」
「いつになくしおらしいな そんな巻ちゃんも魅力的だが」
「クハッ お前の舌はいつでも調子いいッショ」

そんなノリで始まった訓練に、東堂は当初これ以上はないぐらい上機嫌だった。
「ホラ簡単だろう 閉じる側だけを意識して、目蓋を下ろせばいい」
そう言いながらの東堂のウィンクは、悔しいぐらいに決まっている。
「……ンッ」
閉じる側だけといわれても、どうしても両目蓋を下ろしてしまう巻島は、何度か繰り返す。
「ハハッ巻ちゃん 可愛いぞ!」
「んーッ……なんでできねえんだよ…」

今度こそと両拳を胸の前で握り「ンッ!」と唇をかみ締める勢いで試したけれど、結果は同じだった。
だがそれに対し、東堂のアドバイスは何もない。
よもや呆れられてしまったかと、そっと様子を伺えば、東堂の頬はなぜか上気していた。
「巻ちゃん… それはならんよ…」
目線を逸らし、手のひらで口元を覆ってしまった東堂の、続きの言葉は聞き取れなかったが、可愛すぎるだとか言っていたようだ。
あいかわらずコイツのセンスはおかしいと、巻島はのそのそと膝這いで、東堂に近寄った。

「そっち見てたら練習にならないっショ こっち向け」
と両頬を掴み、強引に自分に向ければ、東堂は目に見えて固まった。
「さ…誘っているのか …巻ちゃん……」
「?特訓でお前呼んだんだから、誘っているって言えば誘ってる…なあ」
「…いやそうではなく……すまん、続けよう」

もう一度、東堂がお手本とウィンクを見せてくれるが、手本を見たってできないものは、できないのだ。
「じゃあ巻ちゃん オレが巻ちゃんの目蓋を下ろすから、そのまま意識しないでいて」
東堂の伸ばした指が、そっと巻島の眉下に置かれた。
柔らかい、滑らかな肌に触れた東堂の喉が、ごくりと動く。

目蓋の上にある指は、意外とざらついた触感で、運動をしている男のそれだ。
「巻ちゃんは目を閉じようとしないでくれ」と、そのまま東堂が指先を薄い皮膚とともにおろせば、確かに意識しないまま、片目が瞑れた。
「…できたっショ!」

目前すぐの距離の東堂に、嬉しくて全力で笑いかけたら、東堂も同じ顔を返してくれた。
成功に導いてくれた指に、お礼をしようと東堂の指を手にした巻島は、自分のそれと随分造りが違うと、興味深そうだ。
細長く絡める巻島の五指と、しっかり力強くハンドルを握る東堂の五指。
同じ自転車乗りなのに、随分違うと巻島は無意識に、東堂の指に自分の指を重ねた。

「……誘ってるのか!!」
「へ?」
「あ、いや解っている…わかっているのだが…巻ちゃん…」

東堂は何がわかっているのか、こちらにはさっぱりだが、なにやら機嫌を損ねてしまったらしい。
男同士で指を絡ませるなんて気持ち悪かったかと謝れば、東堂は非常に微妙な顔をした。
「違う…違うんだ巻ちゃん…すまん じゃあ指無しでもう一回やってみよう」

「んっ… あれ?……んーっ…ンッ…」
今しがたできたはずの片目閉じであるが、東堂の指が離れたとたん、元通りだ。
くやしくて鼻を鳴らすように、吐息をつきながら東堂の前で何度も練習を重ねるが、どうしても両目を伏せてしまう。
「ンッ…フッ… あ…やっぱり…ダメ…っショ…」

ダンッ!!
――東堂が、床を強く殴る音がした。

あまりの出来の悪さに、東堂が切れたのだろうかと、巻島の表情は情けなさで歪む。
だが巻島が何かを告げるより早く、東堂は
「バカ野郎 巻ちゃんっ!…オレはもうっ 限界頂点だ!!」
と叫んで、後も見ないまま帰ってしまったのだとまとめられていた。

そこで謝りに箱学に行きたいのだが、東堂にこれ以上頼みにくいし、新開のウィンクは有名なので、もしよければ教えて欲しいとの顛末は、
双方悪くないとわかる立場だけに、断りにくい。
ちょうどその週の日曜日は、校庭を他部が練習試合で利用をしており、また周辺道路は工事中で危険との理由で、部活動は休止だった。
巻島に、日曜日尽八との約束はしているのかと尋ねると、謝罪だからアポを取っていくのはおしつけがましいだろうと返される。
寮生活である都合上、あえて連絡をしておかなくてもいいだろうと答え、新開は特訓の了承をした。

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ウィンクの練習ならば、自分の部屋がいいかなと、新開は外来者来訪の手続きを済ませ、巻島には箱学校門前での待ち合わせを告げてある。
10:00過ぎに駅に到着するとあったので、それに合わせバス停まで迎えに行けば、大き目の紙袋を持参した巻島がいた。

日頃箱学でも噂になるほど、独特のセンスを持つ巻島の私服だが、今日は玉虫色の髪を除けば普通だ。
むしろこれは一回の男子高校生の財布には厳しいだろうと、ブランドに疎い新開にも解る洗練されたデザインのシャツだ。
大きく襟元は開いていて、少し眺めの裾の下には白いパンツ。
ダークグレーの黒シャツは、細めのパールホワイトのラインが、カーブを描いて幾つか並ぶ程度で派手さはなかった。
ただ、長めの髪を後ろで高く束ね流した姿は、白い首筋を露わにし、無意識に人の視線を吸い寄せている。

噂で聞くコーディネートと異なるようだがと尋ねれば、謝りに来るのに普段の服装はふさわしくないからと、巻島は答えた。
「これ、半分はオレからで 半分は田所っちからで、こっちの羊羹は金城が迷惑かけて悪ィって」
差し出された紙袋は、大量の惣菜パンやら菓子パン、そして和紙で梱包された羊羹がが積まれている。

聞いてみると、金城と田所は苦心をしつつも、なんとかウィンクができるようにはなってきているという。
だがそれでも、まだまだ表情が不自然だということで、巻島のフォローに廻れる人材は不足していた。

紙袋を新開に手渡した後、きょろきょろと周囲を見る巻島が探しているのは、東堂だろう。
「寮はあっちの裏だから、尽八はここらを歩いてないと思うよ」
「えっ あのっちがっ……」
顔を赤くして、手を振る巻島の顔には「嘘です 捜してました」と書いてある。
人を警戒するウサギみたいな動きが重なって、フッと微笑むと、巻島の赤面は加速した。

緑の髪はあからさまに来客者だとわかり、廊下を歩いていても注目を浴びる。
新開の部屋に入って、ようやく安心した様子の巻島に、自販で買ったペットボトルの冷茶を出した。
通りすがりの後輩を見かけたので、東堂の行方を聞いてみたら、タイミング悪く、何かを買出しに出てしまったとの事だった。
まず謝りたかったらしい巻島の、意気消沈ぶりは、一目でわかるほどだ。

他人に謝るために、わざわざ遠出をしてきたのだから当然だろうと、新開はウサ吉にするよう、自然と頭を撫でてしまった。
「…ショ?」
「いや裕介くんカワイイなと思って」
「箱学の奴らは揃いも揃って、目がおかしいっショ」
しごく真面目に返す巻島に、新開は「オレはむしろ尽八の気持ちが判ったよ」と軽く頷いた。


コンコンッ、カチャリ。

ノックとほぼ同時に開く扉の向こうにいたのは、頭を掻きながら半分寝ぼけ眼の荒北だった。
「おーい新開 辞書貸し……何で巻チャンここにいんの」
「えっと…お邪魔してるっショ」
臆することなく部屋に入ってきた荒北は、かつて知ったると新開のベッドに座り込む。

事情を話し、東堂に謝りたいが実はいまだ何故怒らせたのかわかっていないと、巻島はうつむいた。
「…ちょっと巻チャン 俺らの前でもウィンクやってみてくんない?」
「え…オレ…まだできねえショ 多分あまりにヒデェツラだったから東堂怒らせたのかもしれねェし…」
「どっちにしろその練習で来てんダロ? じゃ今やってもいいジャン」
「……笑うなよ……」

ようやく諦めた様子で、巻島が渋々と二人へ向き直る。
両手の拳を胸の前にくっつけ、きゅっと唇を蕾ませた巻島が「ンッ」と両目を閉じた。
羞恥からか小さく震えて、頬が赤い。
ポニーテールで、白いうなじが剥き出しで、少し屈んだ体勢のせいで、巻島の喉元から鎖骨下まで、開け広げだ。

「………?」
新開と荒北から、何のリアクションもないことが不安になって、そろそろと目を開けると、二人揃って微妙な顔をしていた。

「や…やっぱり…変ショ?」
自分ひとりが、キモいだ不気味だといわれるのは構わないのだが、自転車部の評判が落ちてはと、巻島は不安顔だ。
「イヤァ……つか……キス待ち顔?」
横を向いて返答した荒北に、新開も「そうだな」と短く同意した。

キス待ち顔という言葉を図りかねた巻島に対し、箱学側は東堂が走り去った理由に検討をつけている。
だからといって、「尽八はその顔に欲情しました」とは、幾ら悪友でも告げてはいけない一言だろう。

「…だからさァ 東堂は…別に腹立ててるわけじゃねェと思うぜ」
オレもウィンクとか似合うガラじゃねぇしと続ける荒北は、粗雑だが親切だ。
「まあ尽八は今出てるというし、帰ってくるまでにウィンクできるようになっておこうぜ」
ポンポンと、巻島の背中を叩く新開のウィンクは、見惚れる勢いでキマっていた。

「なんで…できないショ……」
「うん、頑張りは伝わるよ 裕介くん」
「……もうさ、これはこれでいいんじゃナァイ?」
何度やっても両目を瞑ってしまう、巻島の意気消沈のぶりは凄まじかった。
「尽八はどうやって教えてくれた?」
自然とできるようになっていたから、やり方を教えるのは意外と難しいと、新開は腕を組む。
「えっと…こうやってオレの目蓋を指でゆっくり下ろしてくれたっショ」

新開の組んでいた腕を自然に外させ、その指先を巻島は手にした。
そして自分の、薄い目蓋の皮膚上に置かせると、珍しく新開が動揺したみたいに、慌てて手を離した。

「裕介くん… 気軽に急所を他の男に気軽に触らせない方がいいんじゃないかな」
その滑らかな肌に驚いた新開が、遠まわしに告げると、巻島は合点が言った様子で頷いた。
「それで東堂、怒ったのか! 確かにあんま、人に触らせる箇所じゃねぇもんな」
喜ぶ巻島だが、もともと最初に触れてきたのは東堂だから、その勘違いはおかしい。
それでも、少し浮上した様子の巻島に、新開は軽く口端を上げた。

「あれ?でも東堂が腹立てたのは、そのあとで こうやって指を重ね…」
巻島が続けようとする先、耳を澄ましていた荒北が、「シッ」と口前に指を立てた。
新開の手をとり、指を交互に絡ませていた巻島は何事かとそのまま静止する。
「巻チャン、やばいからその手外せ! ナマハゲが来んゾ!!」
「…ナマハゲ?」
「………巻ぢゃーーーーーん…………」
「いいから早くっ!その指はマズ……」


――カチャリ、ドアノブの廻る音。
立て付けの悪いらしい扉がギィと音をたて、開いた。

「巻ぢゃんは ごごかぁーーーー」

乱入してきたナマハゲ………もとい東堂は、互いの指を絡め向かい合う、巻島と新開の姿にしばし硬直をした後、涙目で室内へ乱入をした。

「巻ちゃんっ!!どういうことだね巻ちゃんっ!!」
「ど、どーゆうって……新開にウィンクを教えてもらおうと…」
「それで何故、密着をする距離なのだね!その姿に説得力はないぞ!」
「いや…だから…」
「ま…まさ…か…巻ちゃん…… あの愛らしい姿を!こいつらにも見せたのかっ!!」
「愛ら…?おまっ何言ってんだ 意味わかんねェよ!」
「いかん…いかんよ巻ちゃんっ!! 巻ちゃんはもっと、自分の魅力をきちんとわきまえ…」

「っセ!!」
怒涛の勢いの東堂に、返答ができずにいる巻島に代わって、後頭部をどついたのは荒北だった。
「扉全開で アホな叫びを寮中に駄々漏れてんじゃねェよ!」
「そうだぞ 裕介くんはおめさんを怒らせたのかと、わざわざウチにまで……あれ?尽八 そういえばどうしてここに裕介くんがいると」
特に連絡をしていなかったはずの東堂が、巻島がいると確信をもって訪れたのに、新開が首を傾げる。

「フ…俺の巻ちゃんセンサーが反応してな!慌てて帰ってきたら、緑の髪の人が寮を訪れたというではないか」
「……お前本気で、センサーついてそうで怖ェワ …しゃれになんねー」
「まさかポニーテールで、ストイックに美しい巻ちゃんが俺を待っていてくれるとは!」と、喜びに打ち震える東堂に、巻島がおずおずと近づいた。

「尽八ぃ……もう怒ってないショ?」
四つんばい状態のまま近寄り、上目遣いで自分を窺う巻島を直視した東堂は「はうっ!」と叫び、顔を手のひらで覆う。
「ならん…ならんよ巻ちゃん」
そういいながら、チラチラと投げかける東堂の視線は、巻島の胸元に集中していた。
もう少し角度を変えれば、ピンクの先端が見えるのではないかという、ギリギリの首周りラインは、襟足とあわせ抜群の破壊力だ。

「……よかったねー 巻チャン もーコイツ怒ってないってさー つーかそもそも巻チャン悪くないよねー」
棒読みで、援護射撃を与えるのは荒北だ。

「本当か!?」
顔を上げ、安堵したように微笑む巻島の笑顔は自然体で、東堂の視線を奪う。
「だから…巻ちゃんはそれがいかんと……」
「いい加減あきらめろ尽八 これは天然だ …でないと、おめさんが裕介くんから何故逃亡したかばらすぜ」
東堂の耳元で囁く新開の呟きに、巻島は首を傾げるばかりだ。

「それより、裕介くんのウィンクはちょっと諦めた方が良さそうだな」
全力のキス待ち顔は、それはそれで喝采されるだろうが、うちの山神が祟り神になっても困ると新開は笑顔をみせた。
「そ、そうなると…女装になるっショ…」
それだけは嫌だと、身を竦ませた巻島の肩を、新開が優しく覆った。

すかさずその手を外させ、巻島の背後から両腕を廻し、がっしりとしがみ付く東堂に、荒北は呆れ顔だ。
「裕介くん、うちのセンサー付きセ○ム 貸そうか?」
「…セコ○?」
なんのことだと、首を傾げる巻島に、新開は後ろのヤツの事と指す。

「裕介くんの代わりに幾らでもウィンク、してくれるさ …なあ尽八」
「もちろんだ!…そうか巻ちゃん 金城の電話を教えてくれないか!?俺がゲスト参加をすれば話題性に問題なしだ!
二人で以前聞かせてくれた、総北の裏門坂道をクライムしようではないか!!」
「…いいのかよ…?」
話題性と、自分で言い出すあたりが東堂らしいが、実際にその場の立役者たる華やかさを持っているのは事実だ。
総北高校名物である裏道は、一応公道ではあるが、行き着く先は総北しかないので、貸切申請も難しいものではなかった。

巻島の携帯から金城に連絡を取り、ゲスト参加として短距離クライムをさせてくれという東堂の電話を、金城は了承してくれたと言う。
巻島はウィンクはなしという方向で、金城が交渉してくれるという後ろで、「金城さんそのウィンク完璧です!」の声が響いていたのは巻島には秘密だ。

「また巻ちゃんと登れるな!嬉しいぞ」
晴れやかな東堂の表情に、嘘はなかった。
「東堂…お前 かっこいいショ……」
ウィンクをしなくて済むというだけでも御の字なのに、二人でクライムをするという手段に切り替えた東堂に、巻島は憧憬の眼を向ける。

「ではもう特訓の必要はないな!俺の部屋に行くぞ巻ちゃんっ」
有無を言わさず肩を抱き、部屋から連れ出す東堂に、巻島は慌てて振り返るが、新開は優しく手を振った。
「…いいのかヨ?」
「まあ特訓料は前払いで貰ってるしね」
新開が指差す先には、まだ手を付けられていない紙袋が鎮座している。
「そーいう意味じゃねえって、ワカッてんだろ」
「裕介くんみたいなタイプ、健気だし付き合いやすいと思うけど オレに尽八と張れる情熱はないよ」
「ま、確かに?…巻チャン手に入れるなら、一生恨まれる覚悟も背負わなくちゃだよな」

靖友も付き合ったのだから、好きなパン幾つか取っていいと差し出せば、荒北は一番上の惣菜パンを手に、そのまま齧り付いた。
「…だからといって、寮内で不順同性交友も困るよナァ?」
にんまりと笑う荒北に、頷いた新開が紙袋を手に、立ち上がる。

総北からの差し入れのお礼だと、東堂の部屋に箱学自転車競技部レギュラー(クライムに行くとふらりと出て行った、不思議系後輩1名を除く)が
団体で訪れるのは、15分後。
東堂曰く『オレと巻ちゃんのスイートタイムがまさに始まらんとした瞬間』だったという。