8/3 蜂蜜の日で嫁に蜂蜜ぶっかけるのですというツイートを見かけたので挑戦w ************ パンケーキを食べようという巻島に、今は流行の店も多いから、どこかへ案内してくれるのだろうと、東堂が待ち合わせ場所を訪れれば、 連れて行かれたのは、巻島の私邸だった。 不器用そうに見える巻島だが、簡単な調理…ただし洋風の名称が付いているものに限るなら可能で、パンケーキぐらいなら自分で焼けるというのだ。 確かにパンケーキであれば、包丁も必要ないし、調理と言ってもかき混ぜて焼くというもので、当初は不安に見守っていた東堂も、 慣れた巻島の動きに安心して、ダイニングテーブルの前鎮座していた。 なんとなく、新婚さんのようだと、頬が緩む。 巻島の付けていたのは、黒のギャルソンエプロンで、それはそれで似合っているのだけれど、巻ちゃんにはやはり、白のエプロンをつけてもらいたい。 潔癖症の性分を幾らかもっているらしい巻島は、洗い物が出るたびに一つ一つ都度片付けていき、キッチン内をこまめに移動していた。 ふと思いついた東堂は、普段髪がわずらわしいときに、自分が利用しているヘアゴムを取り出し、巻島の背後に立った。 「巻ちゃん 調理に髪の毛は邪魔だろう?」 特に意識していなかった巻島だが、確かにそうかもしれないと、一瞬泡だて器の手が止まる。 「オレが結んでやろう」と、返事をする前に髪の毛をまとめられ始めたのは、プライベート領域のきつい自分にとってはかなり意外なことなのに、 なんだかくすぐったい気持ちで、巻島は悪い気持ちにならなかった。 高めのポニーテールに結われると、巻島の白い首筋が露わになる。 山神の(未来の)嫁…!色っぽ過ぎる…! 髪を結い上げただけで、この新妻度は何なんだ!! …細い首筋を眺めながら、今度は絶対巻ちゃんに、白いレースのエプロンを身にまとって貰おうと、東堂は画策していた。 ――裸エプロン!?そんなところまでオレが考えるはずなかろうと、誰に言い訳をしているのか解らない東堂は、巻ちゃんの裸エプロンならば、 白より黒の方が似合うかもと、妄想が滾る。 裸エプロンと言えば、エプロンドレスが定番だが、ギャルソンエプロンでというのもアリかもしれない。 白エプロンが新妻なら、黒エプロンは妖艶な未亡人の巻ちゃんだ。 そんな不穏な計画を、知る余地もない巻島は、素直に礼を言う。 「東堂、ありがとな」 「いや どういたしまして」 やましさのある東堂が、手伝いを提案すると、巻島はしばし首を傾げた。 パンケーキの手伝いなど、キッチンに立つ人数が増えるだけで、正直邪魔だ。 だからといって、客をほおりっぱなしというのも、何気なく気遣いをする巻島には難しかったのだろう。 「これお前なら、開けられるか」 と差し出されたのは、なにやら外国語が表記された、ずっしりとしたビンだった。 すこし濁った金の液体の詰まったそれは、デザインも洒落ており、巻島家にふさわしい高級品らしい蜂蜜であるとわかる。 「前に買ったのはいいんだけどよ、家族の誰にも開けられなくて なんとなく食べる機会を逃しちまってな」 「それは構わんが…… ビンを炙るとか、輪ゴムを嵌めてみるとかはしてみたのかね?」 「炙る…?それじゃ蜂蜜が焦げるっショ!」 いやいやいや、マジか。 巻島家の生活様式は、洋風だと思っていたが、一般的な日本人の感覚とは違うらしい。 ビンの蓋が金属であれば、少し炙ることで膨張し、しかもビン内部の空気の圧力もあって、蓋が開けやすくなるのだと告げれば 「お婆ちゃんの知恵袋ってヤツか、すごいショ東堂!」 と喜ぶには微妙な表現で、感心をされた。 そのため、東堂は力の加減を誤ったのだ。 ほんの少し熱を当てただけのビンの蓋は、ものすごく軽くなっており、力をこめた東堂がバランスを崩すほどだった。 そしてその一瞬後に、東堂の手の蜂蜜のビンは見事に傾き、巻島の顔にかかった。 とろりとした液体は、巻島の頬を伝い、そのまま首筋へと辿る。 何があったのだと、何度かまばたきを繰り返す巻島の無防備な様子とあいまって、それゆえになまめかしい。 巻島のハニーがけが、そこに存在していた。 「東堂ォ……」 不注意をとがめるように、上目遣いで睨み、指先で頬の蜂蜜を拭った巻島が、舌で舐め取る。 謝罪も忘れ、東堂がその行動に魅入っているにも気づかぬようで、巻島はその甘さに上機嫌に笑った。 「ん、美味いなコレ」 今度は首から鎖骨に落ちたミツを、掬おうとした巻島の腕を、東堂が手首を掴んで止めた。 「巻ちゃん…いかんよ」 唇が耳朶に触れそうなほど近く、東堂が囁く。 「それを始末するのは、オレの役目だ」 熱い舌が、巻島の首筋をたどり、予期していなかった愉悦が巻島を襲う。 「…東堂 お前、まず謝れよな……」 羞恥であおられた形になるのが悔しくて、巻島が軽く首を振れば、 「すまんね …責任取って、オレが綺麗にしてやる」と不穏に返された。 金の液体が、ゆっくりゆっくりと巻島の白い肌を伝う。 胸元に届く前に、東堂の舌が舐め取ってくれますようにと願う、巻島の思いもむなしく、東堂はまずかかった蜂蜜の上の位置から唇を当てた。 まだ、今なら襟を少し肌蹴るだけで、ハチミツはなくなる。 ――今なら、襟をもう少し広げれば、舌は届くはず。 ああもうダメだ、これはシャツをめくらなければ、届かない位置まで液体は来た。 蜂蜜が、ゆっくりと肌を伝う感覚がむずがゆい。 パンケーキを食べられるのは、何時間かお預けになりそうだと、首筋から鎖骨に流れてきた東堂の唇の感触で、巻島は覚悟をした。 |