羞恥で猟奇的な告白【東巻】



こちらの作品の、お薬設定は 上履様の http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=manga&illust_id=41777328 の設定をお借りしています
お誕生日企画に乗じて、ずうずうしくも許可を頂いてしまいました。 上履様おめでとうございます&ありがとうございます!

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――おかしい。5分前までは、いつもの穏やかな雰囲気だったのに。

身じろぎした体を、笑みを噛み殺すみたいな顔で見下ろしているのは、誰だ。
過敏になった首筋を、東堂の節だった指が伝う感覚で、背筋がぞくりとなった。
「巻ちゃん、愚かだな…逃がしてあげようと思っていたのに」
ため息とともに、ささやく東堂は…どこか獰猛な匂いがした。


互いの風呂あがりに、水分補給と差し出したマグカップは、なんとも恥ずかしいペアのものだ。
夜間でもあるし、糖分を控えるため、おなじみのスポーツドリンクではなく、ミネラルウォーターで、喉の渇きを潤す。
差し出された東堂が、一息に飲み終えたのを見計らって、巻島は悪戯げに笑い、透明な小瓶を取り出した。

「東堂 この薬のこと覚えてるっショ?」
巻島が差し出したのは、以前箱学の化学部が、『なんか適当に薬を混ぜたらできちゃった自白剤っぽい薬』だった。
原材料に危険なものは入っていないと、ノリで東堂が人体実験をしてみたというのだから、男子高校生の勢いというのは恐ろしい。
だが、思ったことを常にそのまま口にしている東堂だったので、日常となんら言動が変わらず、失敗作だったと判断され、そのまま譲りうけて
家に保管をしていたのだという。

自分には効かなかったのだから、巻ちゃんも大丈夫と思った。冗談半分だったという、東堂の後日の言い訳は、今も記憶している。
おかげでそれを飲まされてしまった自分は、普段ならば絶対に、何があっても言わなかったであろう台詞を、これでもかと話しかけてしまったのだから。

「東堂はカッコいいショ」「何でオレなんかにそんなに好きだって言ってくれるんだよ」
「尽八の事大好きショ…」「東堂がスキって言ってくれると幸せな気持ちになれるショ」

違うと否定しようと、口を開ければ開けるほど、真情がこぼれ出て、東堂を好きだと伝えてしまう。
隠しておきたくて、自分ですら形にしたことの無かった言葉が、次から次へとあふれ出てきた。
これが思ってもいないことを言う薬だと、言い張れたらいいのに。

今思い出しても、頭を抱えて穴に入りたいぐらい、恥ずかしい想い出だ。
いつか、リベンジをと思い続けていて、狙っていたのが今日のタイミングだった。

いつだって言行一致な東堂だが、最近は少しおかしかったのだ。
二人きりという場所でも、何かを言いかけては眉根を寄せて、こらえるように唇を噛む。
これみよがしに、抱きついてきた相手が、たぎるような目線をそそぎながら、距離をとる。
こちらから何があったと問いかけても、東堂は不自然に顔を反らすだけで、「なんでもない」としか答えようとしない。
すぐ隣にいるのに、どこか遠くて、巻島は寂しいような気持ちを味わわされていた。

「お前この頃なんか様子変だったショ だから…今飲んだ水にコレ入れてみた ほらとっとと白状しちまえよ」
そう言って、上目に睨む巻島を見た東堂は、苦しげに吐息を漏らす。東堂の整った顔立ちが、少し歪んだ。

クスリが古くなっていて、何か悪影響でもあったのだろうかと、案じた巻島の目に映ったのは、切れ長の瞳を吊り上げ、唇端を上げた東堂の姿だった。
「随分と、かわいいイタズラをしてくれる」
「…と、東堂?」
右手首を強くつかまれ、反射的に身をよじろうとすれば、更に強い力で拘束される。

「恋人同士の仲で、二人きりになった男の挙動不審を問い詰めるなぞ軽率だぞ巻ちゃん」
気軽に伸ばしてきた左手は、巻島のシャツの裾をめくり、その肌を晒け出させた。
「逃がしてあげようと思っていたのに」
巻島が困惑し、呆然としているのに、東堂は何かを楽しむように、指を動かし続ける。

「ちょっ…!東ど…っ…何してっ!」
「白くて、滑らかだな…綺麗だ、美しいぞ 巻ちゃん」
穏やかな顔に似つかわしくない、熱の篭った声。
責め立てる巻島の視線に射られても、東堂の笑みは崩れなかった。
身をよじり、振りほどこうとしても腕力は東堂のほうが強い。無意識にクビを振って、逃げようとすればするほど、封じ込める力は強まった。

「離せっ!」
「…離して欲しかったら、死ぬ気で逃げて 巻ちゃん」
容赦の無い目つきで見つめてくる東堂が、逃がすまいとのしかかる。
巻島の脚の間に、東堂の片膝がねじ込まれ、もがく体を床に縫いとめられた。

「…嘘だよ、巻ちゃん 違う駄目だ…巻ちゃんが死ぬなんて駄目だ 絶対許さんよ」
薬の影響だろう東堂の言動は、統合されているようで、整合性がなかった。どちらも、偽りの無い本心なのだろう。
「ああそうだ、『オレを殺す』気で…逃げて?そうでなくては巻ちゃんをオレから離せないよ …そっか、巻ちゃんがオレを殺せばいいのか
 大丈夫巻ちゃんを殺人犯になんてしないように きちんとアリバイを作って殺せばいい オレが遺書だって用意してもいい東堂尽八は自殺をしたのだと
そうすれば 巻ちゃんは何も罪にならんよ」
「ちょっ…おま…何言って…」
「そうかそれでも優しい巻ちゃんにはできないかもしれないな …じゃあどうしようオレは巻ちゃんの存在を記憶から消せばいい?巻ちゃんへの思いも
昂ぶりも記憶も、全部消せば…巻ちゃんを傷つけなくてすむのだろうか、なあ巻ちゃん  巻ちゃんに話しかけることもなくなるし、見ても存在を確認しない」
吐き捨てるように、執着を放つ東堂の言葉に、巻島は驚愕し息を凝らす。

「…嫌だっ!嫌だ嫌だ…!巻ちゃんの存在を忘れるぐらいならっ!俺はっ…」
「落ち着け尽八ぃ!」
「……こんな思いを暴露したら、巻ちゃんだって困るに決まってる だから…耐えて…」

――巻ちゃんに触れたくて、でも拒絶されるのが怖くて、嫌われてしまったらどうなるかわからない。
だから、この心はしまって置くはずだったのに。黙って忘れようと思ったのに。

濃い色をした東堂の瞳の淵が潤み、ぽたり、と雫を落とした。

「…悪かった 尽八」
自由になった腕を伸ばし、東堂の両頬を手のひらで包んだ巻島は、そのままそっと唇を重ねた。
呆然と涙を流す東堂の姿に、クハッと笑う。

「おめーはよォ 隠さねぇのはいいけど、色々極端すぎるだろ」
信じられないように巻島を見下ろす東堂は小さく震え、その荒げている鼓動はこちらにまで聞こえそうなぐらいだ。
「……っ」
「結局あれか?お前がおかしかったのは あー…二人きりなのに俺が警戒しないで寄ってくから…」
こくりと、人形のように頷く東堂に返されたのは
「お前、莫迦ショ」
慈しみを含んだ、優しい囁きだった。

「オレは自分を尽八の恋人だと思ってるから、危険視しないで…近寄ってるショ」
「巻ちゃ…」
「お前は違うのかよ…それとも俺の恋人じゃねーの?」
「違いませんっ!!!!」
何度もまばたきをして、こみあげてくるものを抑えようとする東堂の姿に、巻島の笑みは更に深まる。

「巻ちゃん好きっ!大好きだっ!!」
「ああ」
「すごくすごく好き 巻ちゃんとずっと、ずっと一緒にいたい」
「うん、知ってる」
「巻ちゃんっ!!!」
言うなり、きわまった様子で東堂は巻島を強く抱きしめた。

「あの、だな…巻ちゃん その……総合して考えると、…オレは我慢しなくていいということだろうか」
巻島の耳朶に唇をあて、熱を伝えなぶるように東堂がしがみつく。

「……だからといって、ここでサカるのは無しな」
さあこのままと、スウェットの紐に手をかけようとした東堂は、予期せぬ言葉に固まった。

「…えっ!?……こんなに盛り上げて…そりゃないぜ巻ちゃんっ!!」
「ウルセーッ!きちんと口説くの省略して、死ねとか殺すとか忘れるとかフザけんな …まあオレが無理やり吐かせたせいでもあるから見逃すけどヨ」
息が触れるほどの間近な距離で、巻島はくっくと喉を鳴らした。

「…クライマーなら、きちんと坂のぼって頂点求めろよ?」

揺れる髪から、シャンプーのいい匂いが漂う。
重なった布越しの肌は、今までにないほど近く、温かいのに、まだまだお預けとは。

――それでも、巻ちゃんと一緒にいるだけで、ふわふわと幸福感が染み渡る。

「巻ちゃんを征服するのは、骨が折れそうだが…ゆっくりと登るのも悪くは無いな」
「クハッ!言ってろ」
きっと、多分、ずっと…こんな気持ちで巻ちゃんを追かけられ続けられたら、幸せに違いない。
その視線も、色めいた呼吸も、滑らかな皮膚もこんなに近くだ。

こつんと、巻島の頭に東堂が額を寄せる。
東堂がゆっくりと瞳を細め、重ねた指を絡ませると、細長い指はそっと優しく握り返してきた。

なお『ちゃんと口説け』といった巻島が、絶えない言葉攻めにより、自分の言動を後悔するのに1日も持たなかった。